マリみてSS「Fireworks Ruffle」

お題:黄薔薇、真剣勝負(2022/02/09)

それは不思議な感覚だった。
多分、私の人生の中で、初めての感覚。
なぜ、こんなにも心が澄んでいるのだろうか。
なぜ、こんなにも心が落ち着いていられるのだろうか。
自分が今日、負けることが分かっているのに―

(行ってきます)
私は誰に言うでもなく、心の中でのみ言うと、有馬の家を後にした。
これは、私だけの仕合いである。
姉も、段位も、勝敗も。
全て、関係ない。
まだお正月の空気が残った冬の風は、私の吐く息を白くする。
(寒い…)
それでも、令さまのお宅へ向かう足取りが重くなることはなかった。

物心がついた時には、私は竹刀を握っていた。
それは当たり前すぎて、何も疑問に思うわなかった。
姉達に倣うでもなく、それはもう自然に私の人生になった。
勝てば嬉しかったし、負ければ悔しかった。
なのに、今日は―

目的地を告げるアナウンスが、私を現実に呼び戻す。
いけない、と自分の頬を軽く叩く。
考えることは嫌いではないが。今日はそれは必要ない。
何のために?
誰のために?
今日はそれは必要ない。
あの時、とっさに口から出た言葉は、ある意味では私の本心だった。
支倉令と、手合わせしてみたい。
でも、それ以上に。
私はきっと、由乃さまと離れたくなかったんだ、と。

事前に由乃さまから頂いたファックスに書かれていたところで下車すると、メモのとおりに歩き出した。
冬の張り詰めた空気は、私の心も張り詰めさせる。
勝ち方にも道があり、負け方にも道がある。
今日、私はどんな負け方をするのだろうか。
負けるのは構わない。
問題は、負け方だ。
どうせ散るなら、花火のように。
さあ、行こう。
向こうから、私が一番見たかった顔が表れた。
今更戻るなんてできない。
覚悟はできている。
―選ばれないなら、選べばいい。
私はひとつ息を吐いてから、笑って言った。
「ごきげんよう、由乃さま」

あとがき
ファイヤーワークスラッフル。ファイヤーワークスは英語で「花火」です。
ここで書きましたが、僕は菜々は令さまに勝てると思っていなく、負けるのは承知の上で挑んだと思っているんですよね。
勝敗だけでない、それらを超えた先にあるもの。得られるもの。
それが表現できたと思っていただけたら幸いです。

ファイヤーワークスラッフル
分類:フロリバンダローズ
作出:Interplant(オランダ)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?