
植物好きの視点から読み解く創作物の植物~第3回「咲-Saki- 嶺の上で開く花『嶺上開花』」
ごきげんよう、はねおかです。
僕のもう一つの趣味が麻雀です。
どれくらいプレイしているかというと…
雀魂:四麻雀豪2(1627東風)

麻雀一番街:四麻五段(292東風)
三麻七段(966東風)


天鳳はアカウントが消失(期限切れ)したので分かりません。
五段R1800にタッチする程度です。
まぁ、大体3000(2885)戦打ってますね。
さて、今回のお題は「嶺上開花」です。
0.麻雀牌とテンパイと一翻縛り
麻雀で使う牌を「麻雀牌」と呼びます。
麻雀牌は大きく分けると、「字牌」と「数牌」に分けられます。
そして数牌は3種類あり、トランプでいうところの「スート」みたいなものです。
トランプでは「ハート」「ダイヤ」「スペード」「クラブ」ですが、麻雀牌においては「マンズ」「ピンズ」「ソーズ」と呼びます。
そして、この数牌というのは、横に連続した数字は繋がります。マンズの456とか、ピンズの123とか。
麻雀牌の組み合わせは、「同一の牌3枚からなる『コーツ』」と、「連続する数牌の並び3枚からなる『シュンツ』」を、「メンツ」と呼びます。
また、「同一の牌2枚からなる『アタマ(雀頭)』」と呼びます。
この「メンツ」を4組、雀頭を1組作るのが麻雀というゲームです。つまり、「4メンツ1雀頭」を作るのです。(例外としてトイツ7組の『チートイツ』や、メンツの概念がない『国士無双』があるのですが、今回は割愛します)
麻雀においては、各プレイヤーは、手牌を13枚までしか持てません。
するどうでしょう?
4メンツ1雀頭ということは、3×4+2で14枚を作らないといけないのですが、1枚足りません。
この「4メンツ1雀頭が揃う一歩手前を『テンパイ』」と呼びます。
そして、テンパイの時に「自分が引く番になって、引いた牌で4メンツ1雀頭が揃う」のが「ツモ」で、「誰かの番になって、誰かが捨てた牌で4メンツ1雀頭が揃う」のが「ロン」です。
ツモなりロンなりが成立すればアガりとなり、点数がもらえます。
そして、麻雀には「一翻縛り」というルールがあります。
簡単に言うと「何かしらの役がないとアガれない」というものです。

この手では「4メンツ1雀頭が揃っている」のですが、「役がない」のでアガれませんね。
日本式の、いわゆる「リーチ麻雀」にはおよそ38以上の役があります。
全部は紹介しないので、興味のある人は見て下さい。
麻雀に興味のない人には難しい話になりましたが、「アガれる一歩手前を『テンパイ』と呼ぶ」と、「麻雀でアガるには役が必要」という事だけ理解していただければ構いません。
では、ここから本題に入ります。
1.麻雀漫画界の歴史を変えた?「咲 -saki-」
今でこそ麻雀は僕の趣味の一つですが、昔は全然興味がありませんでした。
僕の趣味は「百合漫画」と「トレーディングカードゲーム(TCG)」だったのです。
なので、「咲 -Saki-」という作品は知ってはいましたが、百合漫画として読んでいたので、「これを読んで麻雀を覚えよう!」とは思いませんでした。
百合分は百合漫画からでないと摂取できませんが、相手と勝負するという欲はTCGで十分補えたからですね。
僕が読み始めた頃は、まだ衣との大将戦をやっていて、僕は「かじゅモモ]
が好きでしたね。
かじゅモモオンリー本とか買ってました。
麻雀漫画といえば、「ヤクザの代打ち」だの「イカサマ」だの「命や高額なレートを賭けた男の勝負」だの「超能力じみたキャラクターの異次元の闘牌」といったものばかりでした。(まぁ咲も異次元能力麻雀バトル漫画ですが)
絵柄も劇画チックなものばかり。

麻雀漫画で女性がフィーチャーされるのは、「兎 野性の闘牌」の山口愛でしょうか。

絵柄的にはまだ写実的ですね。
そんな中、彗星のごとく現れたのが咲 -Saki-でした。

いわゆる「萌え絵」という、新しい切り口で麻雀漫画界に殴り込みをかけたのです。
この作品の影響は凄まじいものでした。
例えば、このアニメから声優である伊達朱里紗さんは麻雀プロになる事を決めたそうです。
麻雀漫画の歴史を振り返る「麻雀漫画50年史」ではアカギや哲也などの名だたる作品を押し退けて表紙になっています。だからってなんで透華なんだ?
まぁ、とにかく凄かった訳です。その影響力は、他の麻雀漫画にも劣りません。
2.嶺上開花、という役
咲 -Saki-を語る上で欠かせないのが「嶺上開花」です。
これは主人公、宮永咲の必殺技みたいなものですね。
麻雀牌は同一の牌が4枚入っています。
ある牌を4枚揃えた時に、それを(4枚の牌を3枚の牌にする)コーツにするのが「カン(槓)」です。
先程の手牌を例にしましょう。

ソーズの4が4枚になりました。

これを「カン」と宣言して4枚の牌を晒して、4枚のソーズの4を1つのコーツにします。
これがカンです。
さて、そうすると、牌が1枚足りなくなってしまいます。
そこで、牌を1枚持ってきます。これを嶺上牌と呼びます。
上の手牌では、1雀頭(マンズの3が2枚)とメンツが3つ(ソーズの123のシュンツと4のコーツ、ピンズの9のコーツ)と、ピンズの5と6があります。
役はありませんが、ピンズの4、もしくは7を引けば4メンツ1雀頭の形になりますね。

おっと、7pを持ってきました。
カンによって補充した1枚で揃いました。
これが「嶺上開花」という役です。
さて、先程は「麻雀には38以上の役がある」と言いました。
麻雀の役には「ある条件をクリアすることで成立する『手役』」と、「偶然によって発生する『偶然役』」があります。
例えば、「数牌の2~8のみで揃える」条件をクリアすれば「タンヤオ」という役になります。これは有名な手役ですね。
偶然役としては、「最後の牌(河底牌)でロンする」という「河底撈魚」などが挙げられます。
嶺上開花も偶然役で、その出現率は約0.26%(雀魂四麻玉座の間より)と、かなり低いです。
それもそのはず。まず「テンパイしている」上で「カンできる」状態で、「嶺上牌がアガり牌になる」という3つの関門をクリアしなければならないからです。
ちなみに、北が抜きドラになる三麻では、出現率が約2.27%と跳ね上がります。(雀魂三麻玉座の間より)

3.嶺の上で開く花とは?
咲 -Saki-の1巻で、こんな回想シーンがあります。


この回想の後、メンチン・ツモ・リンシャンカイホーの倍満をアガります。

さて、嶺に咲く花、と言うと、有名な慣用句に「高嶺の花」という言葉がありますね。
「手の届かない、憧れのもの」という意味です。
憧れのマドンナを「あの人は高嶺の花だ」なんて言いますね。
この「高嶺の花」には、由来となる植物があるのをご存知でしょうか?
高嶺の花、実在するんです。
それがコチラです。

シャクナゲ(石楠花)です。
ツツジ科ツツジ属の低木で、高い山に自生する高山植物であることから「手の届かない存在」として、「高嶺の花」の由来になったとされています。
シャクナゲが高嶺の花といわれる理由はその特徴にあります。シャクナゲは本来日本では高山にしか自生しない植物で、平地では育ちにくいといった特徴があったために「入手が難しい花」とされていました。
なかなか手には入らない、貴重な存在といったシャクナゲの特徴によって「高嶺の花」と呼ばれるようになります。
ということで、嶺の上で開く花は、シャクナゲということになりますね。
つまり、嶺上開花とは、シャクナゲを表していたのです!
めでたしめでたし。
4.咲 -Saki-に描かれている花とは?
とシメてもよかったんですが、もう少し深堀りしていきましょう。
回想シーンでは「森林限界を超えて咲く花」と言っています。
森林限界とは、気温や水分の不足などの影響により、高木が育たなくなる限界の線を指します。
これには具体的に何メートルという境界はないのですが、約1000メートル(山による)以上の高さから森林限界と呼ばれ始めるようです。
では、咲 -Saki-に描かれている花をもう一度よく見てみましょう。

まず、蝶々が描かれています。
これについては、「イメージ図である」という説を唱えたいと思います。
森林限界においては、気温が下がったり、日照時間が短くなるなど、植物もそうですが、他の生き物にとっても生きづらい環境になります。
植物が受粉するには、ポリネーターという、花粉を運ぶ媒介者が必要です。
つまり、森林限界を超えてしまうと、ポリネーターがいなくなってしまうのです。
よって高山植物は、ポリネーターを媒介することなく生殖可能でないといけないわけです。
では、このイメージ映像である植物は何でしょうか?
答えを解く鍵は葉にあります。
この葉、キクの葉に見えませんか?
という事で、キク科の植物という視点からアプローチしてみましょう。
キク科の植物は、実は1つの花ではないことをご存知でしょうか?
コスモスのようなキク科の花は、たくさんの花が集まって形成されており、このような花の形を「頭状花」という。コスモスの頭状花は2種類の花から構成されている。中心部の花は筒状に合付した花弁を持っているので、「筒状花」と呼ばれる。頭状花中心部の拡大画像で、星型に開いた花弁の中から黒い雄しべが見えるものが筒状花である。
最外列の花は、花弁の内の1枚が大きく発達して頭花全体の花びらとなっている。このような花は筒状の一部が伸びだして形成されるので、「舌状花」と呼ばれている。コスモスの最外列に位置している舌状花は8つあるので、結果的にコスモスの頭状花としての花弁は8枚にみえることになる。
この例に挙げられたコスモスもそうですし、同じキク科の植物ではタンポポやヒマワリも同様です。
画像の花は、キク科の植物なのだとしたら、外の花弁は舌状花でなければなりませんが、そのようには見えません。
ですので、「キク科の植物ではないが、キクのような葉を持つ植物」ということになります。
そんな植物あるでしょうか?
…実はあるんです。
それが、ラナンキュラスです。

ラナンキュラスは、キンポウゲ科キンポウゲ属のうち、ハナキンポウゲ種の植物を指します。
和名をハナキンポウゲと呼びますが、ラナンキュラスの方が通りが良いですね。
ラナンキュラスの名は、このキクに似た葉をカエルの足に見立てたことから、ラテン語で「小さなカエル」を意味する「Ranunculus」に由来します。
この写真のものは、いわゆる「八重咲き」系の品種です。
ですが、一重咲きのものもあります。

では、画像の花はラナンキュラスでしょうか?
これについてはNOと言いたいですね。
ラナンキュラスは、花芯がツンと突き出ています。画像の花は、花芯がそこまで出ていないように見えますね。
ということで、ラナンキュラスの線は消えたといっていいでしょう。
では、他にキクの葉に似た葉をつける植物はないでしょうか?
…あります。

ポピー。
つまり、ケシ科の植物ですね。
ポピーはケシ科ケシ属の植物ですが、動植物の分類である「リンネ式階層分類体系」において、科より上位の分類である「目」においては「キンポウゲ目」に属するのです。
ケシといえば、麻薬であるアヘンの原材料として知られていますね。
実際、ケシ科の植物の中にある「ケシ(いわゆるソムニフェルム種)」や「アツミゲシ」や「ハカマオニゲシ」は「麻薬及び向精神薬取締法」により栽培が許可されていません。
シベリアヒナゲシ(アイスランドポピー)は似ている気がしますね。

画像と見比べてみると、雄しべが少し大きい印象も受けますね。
あとはヒナゲシも挙げられますか。

ハナビシソウ(カリフォルニアポピー)は、雄しべの形が似ていませんね。

ということで、咲 -Saki-に描かれている花は「ヒナゲシ」ではないか?というのが僕の答えですね。
作者の小林立氏は自分でホームページを持っていて、質問や加筆修正した点とかを掲載しているんですが、今見ると最古で2014年のものが一番最古なので、1巻のことに関しては分からないんですよ。
ちなみに、ヒナゲシの花言葉は「労り」「思いやり」「慰め」だそうです。
これには、ギリシャ神話が関わっているそうです。
昔、デメテルという女神にはペルセポネという娘がいました。とある日、ペルセポネが野原で花を摘んでいると地獄の神プルトンが現れて地獄へ連れ去ったそうです。
これを知ったデメテルは心労で疲弊してしまい、その姿を憐れんだ眠りの神ヒュプノスがヒナゲシの花を贈ります。これによりデメテルは心の平静を取り戻したというお話です。
というのが、ヒナゲシの花言葉の由来です。
そして、これを踏まえて咲 -Saki-を見てみましょう。


嶺上畜生「数え役満の責任払い逆転トップです」
思いやりなんて一切無いやんけ!