バラの歴史から見たマリア様がみてる「レイニーブルー」と「レイニーブルー」
ごきげんよう、はねおかです。
今回はレイニーブルーです。
マリア様がみてるでのレイニーブルーは、すれ違う3組の姉妹(白薔薇は姉妹ではないけれど)の物語です。
バラの方のレイニーブルーは、ロゼット咲きのつる性(一部シュラブの表記あり)バラです。
作出:タンタウ(独)
四季咲き性:繰り返し咲き(一部四季咲きの表記あり)
青いバラの花言葉は「不可能」です。
どうして青いバラは存在しないのでしょうか?
それは「青いバラが存在しないから」です。
こう言うと意地悪が過ぎるので、もう少し噛み砕いて説明しましょう。
花びらが発色するには、その色を出す色素が必要です。
花の主要な色素成分はアントシアニンとカロテノイドです。
しかしバラには青色を発色させるアントシアニンがありません。
つまり「無い袖は振れぬ」わけで、青いバラが存在しないことの根拠となっています。
青い花といえば色々挙げられると思います。アサガオ、パンジー、アガパンサス、アジサイ―
そして青いものが存在しない花もあります。チューリップ、ユリ―
最近では、漫画「鬼滅の刃」で鬼舞辻無惨が求めている青いヒガンバナ。これも実在しない植物ですね。
存在しない植物は色々あれど、その中でも、とりわけ青いバラは「存在しないもの」としての知名度は抜群です。
そんな青いバラが登場するものの中で、最も古い記述があるのは、ギリシャ・ローマ神話だと言われています。
花の女神フローラが愛する森の精霊ニンフを失ったとき、オリンポスの神々に「ニンフを不死の花に変えてほしい」と頼み、神々はニンフの死骸をバラに変えたものの「冷たく、死を暗示する色だから」と、青色だけは与えなかった。と―
当然ですが、ギリシャ・ローマ時代にアントシアニンの存在なんか分かっていなかったわけですが、なんとまあ偶然にも「バラに青色はない」ということが一致してしまいます。
とはいえ、人々は青いバラがどこかに存在すると思っていたようで、千一夜物語(アラビアン・ナイト)には、青いバラの存在を見ることができます。
そして時は流れ大航海時代。
航路が開拓され、世界中の珍しいモノが海を渡りヨーロッパへと移動していきます。
その中にはバラも含まれていました。
バラとは本来春にしか花を咲かせない一季咲きの植物です。これはバラ科の植物が持つ特徴で、同じくバラ科の植物であるウメもサクラも一度咲いた花を再度咲かせることはありません。
そこに「年中花を咲かせるバラがあるぞ」と、ヨーロッパの人々を驚かせるバラがやってきました。
ロサ・キネンシス・オールドブラッシュです。
このバラは驚きを持って迎えられ、「マンスリー・ローズ」と呼ばれました。
モダン・ローズ(現代バラ)はほぼ例外なくこの四季咲き性を持ちます。
四季咲き性というのは劣性遺伝なので、バラの四季咲き性の固定には、いわゆるメンデルの法則におけるaa、つまり4分の1の方を残さねばならず、これのおかげで「バラの新品種開発は、一品種につき10年はかかる」と言われています。
それでも四季咲き性を固定するのは、我々人間が求めているからですね。
さて、大航海時代に様々なバラがヨーロッパに渡りました。
ロサ・キネンシス・オールドブラッシュは四季咲き性を持つバラとして。
ロサ・キネンシス・センパフローレンスは緋色のバラとして。
ロサ・オドラータは紅茶の香りがするバラとして。
ロサ・ルゴサ(ハマナシ)は耐寒性を持つバラとして。
ロサ・ムルティフローラ(ノイバラ)は房咲き性を持つバラとして。
中国、日本のバラが続々と流れ込みます。
しかし、ここでも青いバラは発見されませんでした。
それでも、人は青いバラを諦めません。
それまで突然変異や虫媒介によってでのみ変化していたバラに、人の手によるメスが入ります。
人工交雑の始まりです。
人工交雑のやり方自体は簡単です。母親となる株の花から花びらと雄しべを取り除き、その株に父親となるバラの花粉を受粉させ、他の花粉が混ざらないようにし、そのまま種として育て、その種を発芽させれば完成です。
とはいえ、バラの血統は単純なものではなく「赤と白のバラを交配させればピンクのバラになる」といったものではありません。
同じく「不可能」とされていたものに、「黄色いハイブリッド・ティー・ローズ」が挙げられます。これについては、フランス、リヨンの育種家ペルネが生涯を捧げて作り上げました。
記念すべき最初の黄色いハイブリッド・ティー・ローズは、「スヴニール・ド・クロージュペルネ」とされています。
そこには、絶滅したと言われる最初の四季咲き性黄バラである「レイヨン・ドール」の血が受け継がれています。
レイヨン・ドールは、マダム・メラニー・スペールとソレイユ・ドールの交配によって生まれたバラですから、ロサ・フェティダの血統というわけです。
さて、不可能とされていた「黄色のハイブリッド・ティー・ローズ」は誕生しました。
それでもまだ青いバラは誕生していません。
それでも育種家は青いバラに近づける努力をしていました。
変化が訪れたのが1945年。「グレイ・パール」の登場です。
この赤くも黄色くもない灰色のバラから、青いバラへの長い歩みが始まります。
1957年、スターリングシルバーというバラが発表されます。人によっては、このバラを「青バラの第一号」と呼ぶ人もいます。
藤色のこのバラは様々な交配に用いられ、紫系バラは発展していきます。
そして1992年。
アマチュア育種家の小林森治氏によって、最も青いバラである「青龍」が発表されます。
バラの中で最も青いバラとされている青龍ですが、想像する青いバラとは異なり、藤色のバラと表現した方が適切です。
人口交雑によってでも、青いバラは出現しませんでした。
そこに、人類は現代知識の叡智を持って挑みます。
バイオテクノロジー。
遺伝子組み換えによる手法です。
これには賛否両論。
これまでの育種家に対する冒涜だとする意見もありました。
それでも、人類は青いバラへの希求をやめません。
1996年。
パンジーから抽出した青色遺伝子を組み込んだ青いバラ「アプローズ」が誕生します。
青色を発色する色素、デルフィニジン(アントシアニンの一種)を有する、名実ともに完全な「青いバラ」です。
ですが、アプローズもまた、実物では藤色と表現するのが適切なバラです。
完全なる「青バラ」へは、現在も至っていないのです。
遺伝子組換えという、神の領域へと足を踏み入れてもなお到達しない青いバラ。
神々が与えた「青いバラは存在しない」という試練は、人類には乗り越えられないのでしょうか?
2000年、ある物質の発表がバラ界を沸かせます。
ロザシアニンの発見です。
一部の藤色系バラに、いままで存在が確認されていなかった青色色素。ロザシアニンと名付けられたそれが発見されたという報告です。
これにより、人工交雑での青いバラの開発も不可能ではないという、新たな道が拓けた瞬間でした。
さて、マリア様がみてるのレイニーブルーでは、つぼみ(志摩子さんは薔薇さま)達が姉妹解消の危機に瀕しました。
白薔薇姉妹は新たなる絆によって。
黄薔薇姉妹は絆を再確認して。
それぞれ復縁しています。
一方、祐巳はというと、ついには一度も外さなかったロザリオを外すという行為にまで、祥子さまとの仲は決定的に別れていってしまいます。
乗り越えられない壁などない。
人類が青いバラを希求したように。
10月は秋薔薇のシーズンでもあります。
藤色のバラを見かけたら、それまでに人類が挑んだ挑戦を思い出してみてもらいたいですね。