マリみてSS「Flolic」

お題:「イン  ライブラリー」より「桜組伝説」(2021/11/19)

「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
聖母マリア様に見守られ、深い緑の制服に身を包んだ少女達の集いし学び舎。
ここリリアンの学び舎に集う少女達は、嘘も汚れも知らない少女達だと。
そう思っていた――

「ごきげんよう、衣代いよさん」
教室に残っていたのは、衣代いよさんだった。
「あら、羽美うみさん」
衣代いよさんは、原稿用紙を数枚手にしていた。
今年の我が桜組の出し物の一つが、桜組の伝説を集めた冊子を作ること。
羽美うみは文章を書くのは全然である。一向に進んでいない。
「書けた?」
原稿用紙にびっしりと書かれた文字は、作品の完成を予感させた。
「うん…一応、ね」
「ちょっと見せて」
衣代いよさんから原稿用紙を受け取ると、パラパラとめくる。
「こんな伝説があったなんて初耳だわ」
描かれていた伝説は面白く、それでいて聞いたことのないものだった。
「それはそうよ」
衣代いよさんは、窓の外に目をやった。
「だって、私が考えたんですから」
「ええっ!?」
窓の外に向いていた目が、私を捉えた。
「私、小説家になりたいの」
真っ直ぐで、力強い瞳。
「読者を騙さなきゃいけないのよ。リリアンの生徒くらい騙せなくて、なにが小説家よ」
衣代いよさん、大胆…」
私に向けられた瞳が、優しく細まる。
「内緒にしてね、羽美うみさん」
衣代いよさんの人差し指が、私の唇に触れた。
衣代いよさんには伝わってしまっただろうか。
私のこの胸の高まりを――

衣代いよさんの創作した桜組伝説は、めでたく収録される運びとなった。
印刷された冊子は、図書館に収められる。
近い将来、衣代いよさんの伝説が伝説として語り継がれるかもしれない。
そう思うと、私だけが真実を知っているというのは。
私をなんとも言えない気持ちにさせるのだ。

「桜組は今年も”伝説”ですか」
「ええ。伝統ですからね」
「あら?今年もいるんですね。創作伝説書き上げる子」
「それもまた伝統ですよ」
「これでは、本当の伝説は分かりませんわね」
「それは生徒は誰も望んでいないでしょうね」
「ほほう」
「だから残り続けるんですよ。桜組は」

あとがき
フロリック。「戯れる」という意味の名前のバラから拝借しました。 
こういう伝説の残り方もあるのかな?と思い書きました。

フロリック
分類:フロリバンダローズ
作出:Herbert C. Swim(米)

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