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バラの歴史から見たマリア様がみてる「涼風さつさつ」と「テリハノイバラ」
ごきげんよう、はねおかです。
なんだか悪寒がするので、イブプロフェン600mg(市販薬では最大量)配合の風邪薬を飲みました。
実家では妹や祖母がコロナ陽性になっていました。
皆様、健康には気をつけましょう。
さて、今回のお題は「涼風さつさつ」です。
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涼風さつさつは、マリア様がみてるの中でも異質なお話です。
まず、「女子校であるリリアンに男子生徒がいる」というシーンから始まります。
そして、「初めて祐巳の信奉者である細川可南子」が登場します。
さらに、舞台の終盤は「男子校である花寺学院」です。
弟である福沢祐麒が生徒会長である事に驚いた祐巳は、その事を細川可南子に話しますと、こう返答されます。
「弟さんは、祐巳さまに嫉妬しているんですわ。きっと」
(中略)
「聡明で、可愛いくて、性格も明るくて、非の打ち所のない完璧な姉が身近にいたら、徹底的にいじめるか、白旗を上げて下僕になるか、存在自体をなかったことにして嫉妬するか、それくらいしか自分を守りきることができませんもの」
さて、バラの歴史に興味のない人がバラという植物をイメージすると、「バラといえばヨーロッパの植物である」という認識があるのではないでしょうか?
例えば新宿御苑では、日本庭園、イギリス式風景庭園、フランス式整形庭園がありますが、日本庭園にはバラは植えられていません。
バラが植えられているのはフランス式整形庭園です。
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僕の生まれ故郷である千葉県の、日本最大級のバラ園である京成バラ園もまた、西洋風の庭園です。
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ガゼボとは西洋風の東屋(眺望・休憩のための建造物)のことで、恋人の聖地と名が付けられており、まぁ一人者で彼女のいない僕には縁のない施設ですね。こちらもバラ=西洋というイメージです。
実際その認識は間違いではありません。
日本のバラの歴史を紐解いていくと、バラ、とりわけヨーロッパで品種改良されたバラが入ってくるのは、戦後の話になります。
ヨーロッパでは1800年代からバラの品種改良がされていましたので、100年以上、歴史としての差があるのです。
ですので、日本のバラの歴史からすれば、ヨーロッパのバラの歴史というものには、可南子のいうところの「白旗を上げて」降参するしかありません。
ですが、バラの歴史というものに触れていくと、アジアのバラというのが非常に貢献していることが分かります。
学者のハースト氏は、バラの品種改良の歴史に貢献したバラを4品種挙げ「フォー・スタッド・チャイナ(The Four Stud Chinas /4種の中国の種馬)」と名付けました。
一つはパーソンズ・ピンク・チャイナ。
ロサ・キネンシス・オールドブラッシュです。
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このバラが存在しなかったら、四季咲き性という性質が受け継がれていないので、現在のほぼ全てのモダンローズが存在しません。
もう一つはスレイターズ・クリムゾン・チャイナ。
ロサ・キネンシス・センパフローレンスです。
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このバラが存在しなかったら、燃えるような真紅の色、ひいては黒系バラが成立していません。
もう一つはヒュームズ・ブラッシュ・ティー=センテッド・チャイナ。
「バラの誕生(著:大場秀章)」のP.110の記載によれば、ロサ・オドラータと同一だそうですが、文献によっては別物とされていたり、扱いが難しいバラです。
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こちらは紅茶の香り、つまりティー・ローズの始まりです。このバラがなければ、ハイブリッド・ティー・ローズが存在しません。
最後に、パークス・イエロー・ティー=センティッド・チャイナです。
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このバラに関して言えば、「黄色系バラの祖」とされているのですが、本格的な黄色系バラは、ロサ・フェティダから生まれたスヴニール・ド・クロージュペルネまで待たなければなりません。とはいえ、ティー・ローズとして品種改良に貢献したのは間違いないようで、大場秀章教授も著書「バラの誕生」にてその貢献を書き記しています。
ということで、バラの歴史においては、アジアのバラというのが大きな貢献をした、と言われているのです。
異質であるということは、従来になかった性質である、ということなので、それはすなわち多様性という観点からは大変貴重なものな訳です。
オールドブラッシュからは「それまで存在しなかった四季咲き性」を。
センパフローレンスからは「それまで存在しなかった真紅の色」を。
異質な性質であるこれらのバラを取り入れたことで、品種改良というのが進んでいった訳ですね。
アジアのバラという事ですと、日本のバラというのも、バラの品種改良の歴史において貢献しています。
以前に僕はノイバラをご紹介しました。
ノイバラは「一本の花枝に多数の花を咲かせる」という性質が受け継がれ、それがフロリバンダ・ローズという品種を産み出します。
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さて、バラという植物を大きく分けるなら「木になるか」と「つるになるか」になりますね。
木になるバラはしっかりとした自立する硬さを持った花枝になります。
一方、つるになるバラは横に這うしなやかな花枝を持ちます。
例えば、しなやかな花枝というバラでは、説明不要なほど有名な国産RPGであるドラゴンクエストにて「いばらのむち」という武器が登場します。
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DQ4でカメレオンマンを倒すためにアリーナに持たせたり、DQ5ではレヌール城攻略の際にはビアンカに持たせたりした人も多いのではないでしょうか。アルカパで最強装備をビアンカに揃えてやると、水のリングを取りに行く際に再び仲間になるビアンカがそのまま装備を引き継いでいるかのようなニクい演出がされています。まぁ、幼少期に装備していた「かわのドレス」が大人になってもそのままなのか、というツッコミは無粋ですよ。
ということで、前置きが大分長くなりましたが、今回ご紹介するのがテリハノイバラです。
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分類:原種バラ
花形:一期咲きの白一重咲き
木立性:つる性
テリハノイバラは実物を見たことがないので、今回はWikipediaから拝借しました。
このテリハノイバラ、学名がロサ・ルキアエだったり、ロサ・ウィクラナだったり、ロサ・ウィクライアナだったりと、バラ界でも意見が割れていて一致しません。今回は大場秀章教授の見解から、ロサ・ルキアエとしましょう。
最大の特徴はテリハの名を表したツヤツヤとした葉と、しなやかな花枝です。
このテリハノイバラを親とした一季咲きのつる性バラを「ランブラー・ローズ」と呼び、ここからつる性バラの歴史がスタートします。
ここで、王立園芸協会が監修した、【図説】バラの植物百科より、テリハノイバラの魅力が記載されているのでご紹介しよう。
「過大評価してもしきれぬほどの美的可能性をもたらしてくれた。完全に放っておく野生種も貴重な存在だが、想像力を働かせて仕立てるのも非常に興味深い」
野生種ゆえの強健さ、しなやかな花枝、強い芳香、艷やかな葉…
これらがヨーロッパの人々に受け入れられ、ランブラー・ローズは広がっていきます。
そして、大輪の花をつけるハイブリッド・ティー・ローズなどが交配され、花の大きなつる性バラである「ラージ・フラワード・クライマー」という品種が誕生します。
中でも、ピエール・ド・ロンサールは、バラの中では非常に有名です。
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このバラは2006年の世界バラ会議大阪大会にて殿堂入りします。つる性バラでは、1997年に殿堂入りしたニュー・ドーンというバラに次ぐ快挙です。
ニュー・ドーンはドクター・ヴァン・フリート(Dr. W Van Fleet)というつる性バラの枝変わり品種とされていて、そのドクター・ヴァン・フリートがテリハノイバラとサフラノとSouvenir du Président Carnottというバラが交配されて誕生したようなので、最初に殿堂入りしたつる性バラであるニュー・ドーンもテリハノイバラの血を受け継いでいるんですね。
白とピンクのカップ咲きのピエール・ド・ロンサールは、アーチにして仕立ててあげると壮観です。
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ラージ・フラワード・クライマー系の品種は、ハイブリッド・ティー・ローズの性質が受け継がれているため、弱い返り咲き性と、枝が若干硬くなっており、あまり横に倒してしまうと花枝が折れてしまいます。(これはハイブリッド・ティー・ローズのつる性枝変わり品種にも同じことが言えますが…)
バラは「頂芽優勢」という、簡単に言えば「一番高いところにある芽から伸びる」という性質を持っていて、木立性バラならあまり気にしなくていいんですが、つる性バラをフェンスに誘引するときには横に枝を倒してバラの芽の高さを均一にする必要があります。そうすると、頂芽優勢の性質で一斉にバラが咲くので見ごたえがあります。
アーチやフェンスは、家庭の環境(マンションのニ階以上なので庭がないとか、庭はあるけどアーチを置くスペースがないなど)によっては「つる性バラを育てたいけど育てられない」という面もあって、バラ愛好家(ロザリアン)にとっては、大きなアーチや広いフェンス一面に咲き誇るつる性バラというのは、一つ憧れでもあると言えますね。
ラージ・フラワード・クライマー系の品種は、花枝が硬くて横に倒せないので、ポール状のオベリスクに誘引して仕立ててあげると良いと思います。
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さて、話をマリみてに戻しましょう。
細川可南子に一方的な価値観を押し付けられ、非難される祐巳。
それを一喝する祥子さま。
我々も、バラに一方的な価値観を持っていませんか?
バラはヨーロッパの植物だ、と。
「そう。姿形は、目に触れやすい部分ですものね。でも大切なものはもっとずっと奥に隠れているから、たどり着くのは大変なのよ」
バラという植物は、色々な面から評価されます。
性質、花形、花色、芳香―
それでも二人は離れなかった。
だって、お姉さまは証明してくれたのだ。
祐巳が祐巳の姿をしていなくても、本当に見間違ったりしないのだ、と。
日本でのテリハノイバラというのは、かつて万葉集に詠まれたり、一茶や蕪村が里山の情景として詠んだノイバラよりパッとしませんでした。
ですが、テリハノイバラの真価を、ヨーロッパの人々は見抜いていたのです。
そして、つる性バラという、バラの一大ジャンルを築き上げたのです。
最後は、涼風さつさつを締めくくったあの言葉でお別れと致しましょう。
祥子さまに見つけてもらった祐巳も、海外で真価を認められたテリハノイバラも、こう思っていることでしょう。
これ以上の幸せなんて探せなかった。