マリみてSS「Madre」

お題:Answer(2021/09/29)

カリカリカリと、ノートの上を走る鉛筆の音だけが響く。軽やかに。伸びやかに。楽しげに。
そして書き上げたページに、几帳面に定規を当てて、斜線を引いた。
「相変わらずご苦労なことね。紅薔薇さま」
声のする方を振り向くと、いつの間に来ていたのか。ビスケット扉の前に白薔薇さまと黄薔薇さまが立っていた。
「かわいいかわいい妹のためにここまでするなんて、頭が下がるわ」
「妹への過保護なら、あなたには遠く及ばなくてよ」
白薔薇さまの妹――佐藤聖の妹問題は、おそらく私達が在学中には手を出させないつもりだろう。
ま、他藩のお家事情に口を出さない。これはリリアンの鉄の掟だし。白薔薇さまには考えがあるのだろう。
だから、私は私で目の前の課題を考える。
「やはり、小笠原祥子で決まりかしらね」
私の嫌味をほほえみで受け流してから、白薔薇さまが言う。
「そうね。蓉子はもう惚れ込んでしまってるし」
あれはリリアンでもそういない、ある意味問題児だ。天下の小笠原グループの孫娘を、誰が好んで妹にするだろうか。
そんなの、蓉子しかいない。
事実、蓉子が小笠原祥子を眺めているのを見たことがある。あの瞳は、もう完全に惚れ込んでいる瞳だ。
たかが一年、されど一年。そこを見抜けるのがお姉さま歴の差である。
「で、そのノートですか」
黄薔薇さまはノートを手に取ると、パラパラとめくる。何も言わなくとも、このノートの意図に気が付いたようだ。
「こんな手の込んだことして…本当に蓉子ちゃんがかわいくて仕方ないのね」
黄薔薇さまはこの後に、江利子ちゃんと支倉令を見に剣道場に行くことになっていた。黄薔薇ファミリーが目を付けているぞ、という牽制球。
「あなたも、でしょう?」
私はため息をつきながら、ノートを受け取った。

「あーあ、これで紅薔薇さまもお祖母ちゃんか」
そう言うと、白薔薇さまを横目で眺める黄薔薇さま。
お祖母ちゃん。確かに、妹に妹ができるなら、お祖母ちゃんと孫と言えるか。
「まだ決まったわけではなくてよ」
黄薔薇さまにはそう言ったが、蓉子は小笠原祥子を妹にするだろう。その確信はあった。
「じゃあ賭けましょうか、いちご牛乳一パック」
どちらの妹が先に妹を持つか。黄薔薇さまには勝つ自信があるのだろう。
「いいわ。受けて立ちましょう」
おや、意外。そんな顔をした黄薔薇さまに、私は微笑んでこう言った。
「蓉子が負ける方に賭けるわ」
「あら、紅薔薇さまは蓉子ちゃんを信用してないの?」
「そう言っておいた方が、蓉子の負担にならないでしょう?」
ノートを閉じる。お膳立ては出来上がった。後は、背中をひと押しすれば蓉子は動き出す。
「まったく、紅薔薇さまは本当に蓉子ちゃんがかわいくて仕方がないのね」
私はニッコリと微笑んだ。
「ま、おばあちゃんの前に…母、ですからね」
親の心子知らず、と言うから。蓉子に私の母心が通じるかは分からないけれど、妹問題はこれでどうやら片付きそうである。

あとがき
マードレ。スペイン語で「母親」という意味だとか。
先代薔薇さま方の、一枚もニ枚も上手な感じが大好きなのですが、うまく表現できましたでしょうか。

マードレ
分類:切り花系品種

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?