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マリみてSS「Golden chain」

お題:「フレームオブマインド」より「黄色い糸」(2022/05/25)

「単刀直入に聞くわ」
単刀直入とは、遠回りせずいきなり要点を突くさまのことである。
そんな、わざわざ国語辞典を引かなくても分かる言葉だが、続いてその人の口から出た言葉は、本当に単刀直入な言葉であった。
「私の妹にならない?」
「は?」
この人は、一体何を言っているのだろうか。

黄薔薇のつぼみ。鳥居江利子さま。
その方のことは知っていた。
いや、私が一方的に知っているだけにすぎない。
リリアン女学園の生徒の中でも、薔薇さまとそのつぼみは別格だ。
学園をまとめ、導く彼女たちは。
優雅で、綺羅びやかで、美しくて。
幼少の頃に、戯れで木の枝を振り回して遊んでいた私のような人間とは、きっと全てが違うのだろうと思っていた。
きっと、彼女たちの手には、マメすらないだろう。
「令さんは、どの薔薇さまが一番タイプかしら?」
おいおい。あなたは先日お姉さまを作ったんじゃなかったっけ。
黄色い声をあげるクラスメイトに呆れたくもなるが、相手が薔薇さまでは流石のお姉さまさえも飛び越えてしまうのだろう。
紅薔薇のつぼみ。水野蓉子さま。
白薔薇のつぼみ。佐藤聖さま。
そして。
黄薔薇のつぼみ。鳥居江利子さま。
なぜだろう。
あの方だけは。
「どうしてつまらなそうな顔をしているんだろう」
「え?」
いけないいけない。思っていたことが、ふと口をついてしまったようだ。
なんでもないよ。そう言うと、私は剣道場へと急いだ。
全く。
上級生の方に向かって、なんて失礼な。
それでも。
ーどうして、そうつまらなそうな顔をしているのですか。
聞いてみたい。
答えを知りたい。
不思議だ。
私が、由乃以外の誰かを、こんなにも気になるなんて。

「私の妹にならない?」
正直、面食らった。
しかも、理由は「あなたといると楽しそうだから」だなんて。
想像する。
私と、江利子さまの学園生活を。
「それは、かなり楽しそうですね」
私は笑った。
脳裏に由乃の顔が浮かんだ。
物怖じせず、はっきりとしていて。
似ているな、と思った。
そんな人に振り回されるのは。
きっと、楽しいに違いない。
「OKの返事と受け取っていいわね」
確認する江利子さまの瞳は、輝いていた。
きっと、これから起こるであろう、この先の楽しそうな学園生活に期待をして。
私が、その一端を担うことができるのならー
それは、光栄なことだ。
「はい」
そう答えると、江利子さまは自分の首にかかっていたロザリオを外して、その輪を広げた。
それは窓から差し込む夕陽に反射にて、キラキラと光り輝いていた。
私が頭を下げると、その輝く黄金の鎖は、私の首に収まった。
私とお姉さまの学園生活も。
きっとこの鎖のように力強く結ばれて、輝くに違いないのだ。

あとがき
タイトルはキングサリ(キバナフジ)の英名です。
花言葉は「相思相愛」だそうで。
金の鎖、つまりはまあ、ロザリオですね。
金色の鎖が繋ぐ物語の序章として書きました。

キングサリ(キバナフジ)
分類:マメ科キングサリ属
学名:Laburnum anagyroides

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