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不穏短編「愛犬」

人間には本当にいろいろな悩みがある。悩みに正解はない。その人が悩んでいるなら悩みだし、苦悩なら苦悩だ。

これはもう時効だと思うのでお話する。産業カウンセリングの練習で、そのときに話を聞いただけの知らない人の悩み。20年間誰にも話してないので、わたしはけっこう偉いと思う。

タイトルのとおり愛犬にまつわる話なのだけど、愛犬問題はけっこう罪深いところがあって、悩むのは飼い主ではなく、その周囲の人間なのだ。

飼い主はただ愛犬を可愛がっている感覚だと思うが、周囲から見るとかなり怖いことがある。時に狂気にも見える。奥さんの実家もそうだった。

犬が人間よりもいい暮らしをしている。自分の家庭では普通は買わないような高級な肉を犬に与えているのを見て、わたしは少々混乱した。世代間格差の闇をのぞいてしまった気がした。

年金を何に使うかは個人の自由だけど、そのお金はどこからどこへ移動したものだっけ……。わたしは必死で見ないようにした。

わかっている。犬にも、飼い主にも罪はない。わたしが勝手に混乱しているだけ。この例からもわかるように、愛犬は飼い主のその先の人間を困惑させるところがある。

問題の人の悩みはこんなレベルではなかった。本当に悩んでいた。母親が愛犬を溺愛してしまっている。あまりに溺愛しすぎて心配だ。この犬が寿命で死んでしまったら、母は後を追うのではないか。

リミットまで時間がない! そのリミットまでに、自分は結婚して子供をつくらなければならないのではないか。犬の代わりに孫を差し出さなければならない!

その場では、普通に笑い話として処理されたように思う。わたしの記憶でも「笑い」のラベルが付いていたので、今回笑えるネタとして書き出してみたのだが、なんだか不気味な話になってしまった。

なんだろう……宗教と似てるのかな。何を信じるか、何を愛するかは主観の問題だ。だけど、周囲からみたら恐怖を感じることがある。なぜそこまで何かを信じなければならなかったのか、なぜそこまで犬を愛さなければならなかったのか。その背後には、直視しにくい、クリティカルな問題が隠れている。

なお、奥さんの実家の話でいうと、隠れている問題とは、定年後の夫婦関係だった。よくある話だ。名も知らないあの人の問題は、もっと闇深いのだと思う。

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