想像を絶してよくわからない人
世の中には想像を絶してよくわからない人がいる。
ただでさえ変人が集まる(株)カネックスでも過去最強の称号を与えられた人がいた。
そういう人は机に座っているだけで存在感がある。通常は、机に座っているだけで存在感を出しようがないのだが、格が違うとしか言いようがない。
30秒に1回程度のペースで謎の奇声をあげる。文字にすると、「あ(濁った音)」か「うぇ」か、えづくような感じだ。それが規則的に繰り返される。壊れた時計の精霊なのだろうか。すごく気になる。隣の席の女性社員は怯えていた。
また、常に身体を左右に動かしている。あるとき、外部の研修でその人の後ろの席になったのだが、上体が左右に揺れ続けるものだから、前がよく見えない。この人はマジで振り子時計の精霊なのだろうか。
わたしは彼と逆の方向に身体を動かし続けることで対応した。彼が右に振れたときは、わたしは左に振れる。彼が左に振れたときは、わたしは右に振れる。部長からは「それ、エグザイルやないか!」と突っ込まれた。まあ、わたしの後ろの席の人からみたら鉄壁の壁ですね。
社内のフロアを歩いたら歩いたで、机の上の他人の資料を物色する。人語の通じないオラウータンみたいだ。休憩時間は休憩時間で、画面がバキバキに割れたiPadを抱え、街の無料Wifiを求めてさまよっている。
部長に「なぜ採用したんですか」と聞く。
「自信がすごかったんや。彼は、業界を知り尽くしていると言っていた」
その実力はどうだったのか? だいたい想像がつくと思うが、そういう発言をする人が、仕事ができることは、まずない。案件の管理が何一つできないため、顧客からはクレームの嵐となった。
社長と部長が、顧客から呼び出しを受ける。真にすごかったのは社長だ。社長はお金のためならどんな嘘だってつくのだ。
「うちのXXくんの件、申し訳ありませんでした。彼のコミュニケーションに問題があるのはですね……、実は、彼は帰国子女なんです。日本語が、完全には理解できないところがあるようでして……。このあとプロジェクトは英文ツールの制作に移ります。そのときは彼の英語力がきっと役に立つはずです。どうか長い目で見てやってください」
これで乗り切ったらしい。
すさまじいセンスだ。まさか契約を切られそうな修羅場で、社員を帰国子女に仕立て上げてしまうとは……。
違うよ、彼は帰国子女じゃない。
「彼は、壊れた時計の精霊なんです!」
わたしは心の中でそう叫ばざるを得なかった。
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