ブラックざんまい(耳血が出た話)
ブラックざんまいとしか言いようがない。犯人が3者ほど出てくる。20代のわたしが(株)スレイブ・エンジニアリングに勤めていたことの話。わたしは社会人としてのキャリアをスタートしてから、早々に都落ちする。
そのころは、大きな港のある地方都市で、生き絶え絶えに存在していた。会社で奴隷のような立場に陥り、毎晩22時に帰宅できさえすれば、人生どんなに幸せなことだろうと思っていた。
帰宅が23:30、出社が7:30だとすると、睡眠6時間として、人間としての活動時間が2時間しかない。職場は黒色に塗り潰されていたため、1日2時間の人生を送っていたことになる。恐るべし、ブラック職場!
これから、24時間に収まる話をする。その日はたまたま早く帰宅することができた。18時とか奇跡の時間帯だったと思う。この時間を無駄にすることはできない。
わたしは、アパートから自転車ですぐの海辺へと向かった。わたしがいた場所とは神戸なのだが、職場がブラックなことを除けば素晴らしい場所だった。大きなアウトレットモールがある辺りの浜辺を散歩し、夕暮れの景色を眺めながら感傷に浸った。
そこまでは良かったのだが、いつのまにか身体に異変が起きていた。耳が、痛い。最初はちょっと耳の内側がかゆかったので、爪でときどきこすっていた。しばらくして痛みを感じてきたので触れることを止めた。
しかし、すでに遅かった。思うに、絶え間なく顔に吹き付けていた潮風が悪さをした。痛みはどんどん加速していった。たかが「耳が痛い」だけだと思ってなめてはいけない。
次第に耐え難くなってくる。熱も出てきたように思う。外耳炎か中耳炎かわからないが、とにかく痛いのだ。意識がもうろうとするくらいだった。夜中12時。もう打つ手がない。
これまで救急車など呼んだことがないのだが、意を決して119に電話をした。まさか、耳の痛さで救急車を呼ぶことになるとは……。
電話がつながる。症状を聞かれたので、耳がとても痛いと答えた。「救急病院がありますんで、自分で行ってもらえますか」。まさかの拒否。
「耳が痛い」の言葉はなぜこんなにインパクトが弱いんだ! 逆の立場だったら、わたしも断ってしまう気がするが、苦しんでいる本人は意識が飛ぶほど痛いんだ!
わたしは教えてもらった緊急病院へとタクシーで向かった。貴重な時間にわたしはいったい何をやっているのだ。ブラック企業勤めは1日2時間しか生きられる時間がない。
そして、向かった先には悪魔がいた。こんな時間に、まともな医師などいないのだ。わたしが出くわしたのは悪魔のように不真面目な研修医だった。何かの棒で耳の中をグリグリえぐられた。
過去に合った別のヤバイ医者(↓)
※皆さんの判断を仰ぎたい!
ぜったいこいつは専門が違う。わたしは痛みのあまり叫んだ。研修医は看護師といっしょに笑っていた。幻聴ではないと思う。遊びサークルのノリで、他人を馬鹿にするような感じで「あははは」と。
わたしはボロボロになって診察室を出た。時刻は真夜中。出社まで時間がないので、真っ暗な待合室の椅子に身体を丸め、仮眠をとった。朝はそのまま会社に直行する。
午後になり、ブラック職場のご主人様(わたしは奴隷)が、「おまえ、それなんだ!」とわたしを指さした。わたしの耳から血が流れ出ていたのだ。
わたしはもう何も感じていなかった。ああ、耳から血が流れているのか……。耳をぐりぐりされたからな。ただの医療ミスだ。あるいは、研修医の悪意。
「おまえ、もう帰っていいぞ。早く、病院にいけ!」
耳血がブラック企業に打ち勝ったのだと思った。わたしも鼻血ならわかるけれど、耳血はあまり聞いたことがない。ドラマで使われる死亡フラグだ。
これは大丈夫なやつですと説明する気にもなれず、わたしは早退させてもらった。今思えば、悪魔のいる病院などいかず、痛み止めでも飲んでおけばよかった。
悪魔とブラック職場と、アホなわたしが作り出したブラックファンタジー。
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