ダメ界のカリスマ
友人のたんばりんはダメ界のカリスマだ。以前なにかの会話のときに、ふと「シングル・パラサイト」というワードが俎上に乗った。たんばりんがまさにそれだからだ。
今、言葉の意味を検索してみると、「『学卒後もなお親と同居し、基礎的生活条件を親に依存している未婚者』を指す造語」だそうだ。あまり聞いたことがないかもしれない。
そう、ダメな人として暗に他人をなじるバズワードはたいへん人気があり、日々どんどん生み出されている。「シングル・パラサイト」はその流れにおける、数あるワードのひとつに過ぎない。
偏見を含んだ言葉も多いので、使い方に注意が必要だ。「シングル・パラサイト」なんていくら専門用語ぶってみたところで、「パラサイト」の言葉の響きが完全に悪口だろう。
わたしは一瞬、たんばりんが「シングル・パラサイト」と呼ばれて、気を悪くするのではないかと思った。
彼は、基本アル中で、おおらかというか、細かな話も大事な話もあまり覚えていないような人だが、変に繊細なところがあるからだ。わたしも他人を攻撃することを良しとしていない。
ところが、たんばりんはなぜか誇らしげだった。「そうなんだよね」と答える。なんだ、この余裕は?
「いつも、やっと言葉が俺に追いつくんだ。俺は『ひきこもり』なんて言葉が生まれるずっと前にひきこもりをやっていた。『NEET』なんて言葉が生まれる前にすでにNEETだった」
わたしは思った。「ああ……、この人はダメのカリスマだ」
たしかに彼は、なぜか他人からリスペクトされることがあった。
見た目はほぼ平井堅だから、見た目のカリスマ性もなくはないと思うけど、年下の男子からときどき「俺、たんばりんさんみたいになりたいっス」と言われるのが不思議で仕方なかった。
その謎が解けた気がした。この人はダメ界のカリスマなのだ。だれもかれも引き付けるわけではなくて、ダメの素質のある人を引き付けてしまう。
理由はわからない。だけどその雰囲気にどうしても惹かれてしまう。そういう独自の磁力を持った人間がカリスマだ。
なお、わたしはたんばりんに対して何の憧れもない。向こうもわたしに対して何の憧れもないという。よくわからないが、青と黄色、赤と緑のような補色の関係にあるのではないかと思う。
たんばりんの濃い容姿を好む女子は、わたしのことに興味がない。わたしの薄い容姿を好む女子はたんばりんのことに興味がない。マーケットが清々しいほど競合しない。
まあ、不思議な関係だ。わたしは彼の今後の動向に注目している。彼のいる場所こそが、ダメ界の新しいトレンドになるのだから。
たんばりんはいろいろな記事に出てきます。ぜひ探してみてね!
偽ロックスター・トリビア。実はこの記事に出てくるタコ山さんは、たんばりんです(↓)
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