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偽ロックスターが体験したリアル半沢直樹の世界

これから銀行員に関する偏見に満ちた話をしてしまうと思う。

「ひどい偏見だ!」で終われば、ネタで済ませられるのだけど、銀行出身の人にそのエッセンスを話すと同意されてしまうことがある。

わたし自身、どこまでが真実でどこまでが偏見なのか見極められずにいる。わたしが若手社会人だったころ、(株)不条理にいたときの話だ。

当時、(株)不条理は第2新卒を多く集めていた。IT企業のはずなのだが、銀行から転職してきた人間も多く含まれていた。

会社側の事情から話すと、顧客に金融機関が多かったためだ。顧客サイドの出身者を集めるのは自然な流れだろう。

次に転職者の話。なぜか、メガバンクからの転職者も多かった。メガバンクから見たら、この会社なんて完全に格下のはず。わけがわからない。

転職者たちの話を聞くと、入社時点で「先が見えてしまった」ことが理由のようだ。銀行は出世競争がすべて。そんな世界で入社直後から先が見えてしまったのなら、たしかにやる気も出ないだろう。

さて、わたしは当時、(株)不条理の社員寮に入っていた。そこにあるとき、Nというメガバンク出身の男が加わった。さわやかな好青年の印象だった。

第2新卒、わたしと同じ職場の配属。共通点が多々あった。かに見えた。

まったく違うものがあった。ボスからの評価だ。執行役員でもあるその人間からわたしは強烈なパワハラを受けていた。

見た目からして完全なパワハラゴリラ。いっぽう、Nはパワハラゴリラからびっくりするほど評価されていた。

女性のアシスタント社員はそれを「溺愛」と表現し、他の若手社員は「Nは銀行の動き方を知っているから強い」と評した。

そう、この職場の体質はほぼ銀行と同じなのだ。新設された企画部門なのだが、その母体は金融機関を顧客とする営業部隊だった。

べたべたの関係にある両者は体質が似る。暴力団とマルボウの人の区別がつかないのと同じだ。

「銀行の動き方」とはなんだろう? わたしは不思議に思った。

パワハラゴリラは「おまえもNをみならえ!」と言った。これもよくわからない。わたしの目から見れば、Nは仕事をしているようには見えないのだ。

たしかに、朝早くに出社している。パワハラゴリラが部下に対して朝7時出社を命じたからだ。Nは6時に出社した。

わたしは出社しない。
なんで就業規則にないことを強制されなきゃいけないんだ!

今思えば、すごいメンタリティだ。だからパワハラを食らうのに、わたしは不条理な命令には逆らい続けた。

わたしにも言い分があった。Nはたしかに朝早くから机に座っているが、仕事をしているわけではない。

Nが「難しくてできません」と言った仕事がわたしに回ってきた。なんやねんとしか言いようがない。

パワハラゴリラの言う「Nをみならえ」がよくわからないのだが、「俺の言うことを聞け」という意味くらいだろうと思っていた。

わたしとNの関係は別に悪くなかった。なんなら相談に乗ってもらったりもした。なんせわたしは、同じ職場でびっくりするようなパワハラを受けているのだから。

職場のみんなも、Nとの関係が良好なんだろうなと思っていると、ふと異変に気付く。

アシスタント職の女性のひとりが、Nのことが好きでないと洩らしたのだ。「あまりに出世にガツガツしている」と言ったような、ふわっとした言い方だった。

そのときは「ふーん」と思ったくらいだった。

だが、あるときわたしは気づく。わたしは本当に本当にアホなので、気づくまであまりに時間がかかってしまった。

どう考えても、パワハラゴリラの言動に違和感がある。ゴリラが知っているはずのないわたしの動きに反応している……。しかも、半日単位でアップデートされているかのようなスピード感。

そうなのだ。Nを信用して話したことはすべてパワハラゴリラに筒抜けだった。

これが銀行の動き方か……。

その日から、完全に偏見だと思いながらも、銀行員のことをただの外道だと思っている。

今は何とも思っていないこともあって、それは偏見だよと諭されればすぐに認知を修正できるのだが、銀行出身者に話すと普通に同意されてしまうため、偏見がずっと宙に浮いたままになっている。

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