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MQLストレージ利用ガイド応用編 ~TortoiseSVNを使おう~

いつも記事をお読みいただき、ありがとうございます。

この記事は、前回記事「MQLストレージ利用ガイド」(https://note.com/handy_systems/n/n4bac581b165f)の続編です。

MQLやEA(エキスパートアドバイザー)開発、とりわけチーム開発において、ソースコードのバージョン管理は非常に重要です。
複雑な取引ロジックの変更履歴を追跡したり、複数の開発者と協力したりする際に、効果的なバージョン管理ツールは不可欠です。

本記事では、MQL5ストレージの基盤となるSVNのクライアントとして人気のあるバージョン管理ツールであるTortoiseSVNを使用して、MQL5ストレージを効率的に管理する方法を詳しく解説します。

⏬この記事は、次のような方を対象にしています

✔MQL言語でのEA(エキスパートアドバイザー)やインディケーター開発に携わっている方
✔メタエディターを使用してトレーディングシステムを開発している方
✔バージョン管理の重要性を理解し、より効率的な開発プロセスを求めている方
✔チームでのMQL開発プロジェクトに参加している、または参加を予定している方
✔現在メタエディターのみを使用しているが、より高度なバージョン管理ツールの導入を検討している方
✔プログラミング経験はあるが、バージョン管理システムの使用経験が少ない、または全くない方

この記事は、バージョン管理の基本概念から実践的な使用方法まで幅広くカバーしているため、初心者から中級者のMQL開発者にとって有益な情報となるでしょう。
また、すでにGitなど他のバージョン管理システムを使用している方にとっても、SVNとTortoiseSVNの特徴を理解する上で参考になる内容となっています。


✅バージョン管理とは

バージョン管理(バージョン制御、リビジョン管理とも呼ばれます)は、ファイルの変更を記録し、後で特定バージョンを呼び出すことができるシステムです。ソフトウェア開発プロジェクトでは不可欠なツールとなっています。

バージョン管理の主な目的

  1. 変更履歴の追跡

    • いつ、誰が、何の変更を行ったかを記録します。

    • 過去のバージョンに簡単に戻ることができます。

  2. 並行開発の支援

    • 複数の開発者が同時に同じプロジェクトで作業できます。

    • 異なる機能を別々のブランチで開発し、後で統合することができます。

  3. バックアップと復元

    • コードの安全なバックアップとして機能します。

    • システム障害や誤操作からの復旧が容易になります。

  4. 実験的な変更の管理

    • 新機能や修正を本番環境に影響を与えずにテストできます。

  5. リリース管理

    • 特定のバージョンに「タグ」を付けて、リリースポイントを明確にできます。

バージョン管理システムの種類

  1. 集中型バージョン管理システム(CVCS)

    • 中央サーバーに全ての変更履歴を保存します。

    • 例:SVN(Subversion)、CVS

  2. 分散型バージョン管理システム(DVCS)

    • 各開発者のローカル環境に完全な変更履歴のコピーを持ちます。

    • 例:Git、Mercurial

バージョン管理の基本概念

  1. リポジトリ

    • プロジェクトのファイルとその変更履歴を保存する中央データベース。

  2. チェックアウト

    • リポジトリから作業コピーを取得する操作。

  3. コミット

    • ローカルでの変更をリポジトリに保存する操作。

  4. リビジョン

    • 特定の時点でのプロジェクトの状態。各コミットに一意の識別子が割り当てられます。

  5. ブランチ

    • メインの開発ラインから分岐した別の開発ライン。並行開発を可能にします。

  6. マージ

    • 異なるブランチの変更を統合する操作。

  7. コンフリクト

    • 複数の変更が互いに矛盾する状態。手動での解決が必要です。

バージョン管理を使用する利点

  • コードの品質向上:変更履歴を追跡し、問題の原因を特定しやすくなります。

  • チーム協働の促進:複数の開発者が効率的に協力できます。

  • プロジェクト管理の改善:進捗状況や変更の影響を把握しやすくなります。

  • リスク管理:実験的な変更を安全に行え、必要に応じて元に戻せます。

  • 時間とリソースの節約:変更の追跡や複数バージョンの管理が自動化されます。

バージョン管理システムを使用することで、MQL開発やEA運用において、より効率的で安全な開発プロセスを実現できます
次の章では、具体的なバージョン管理システムであるSVN(Subversion)について説明します。

✅SVNとは

SVN(Subversion)は、オープンソースの集中型バージョン管理システムです。
2000年に開発が開始され、現在もApacheのソフトウェアスイートとして広く使用されています。
SVNを理解することは、TortoiseSVNを効果的に使用するための基礎となります。
🔰公式サイト:http://subversion.apache.org/

🔰SVN解説:http://svn.linux-dvr.biz/archives/5

✅TortoiseSVNとは

TortoiseSVNは、Windowsのエクスプローラーに統合されたSubversion(SVN)クライアントです。
GUIを通じて簡単にバージョン管理操作を行うことができ、初心者にも使いやすいツールです。
SVNは集中型バージョン管理システムの一つで、単一の中央リポジトリを使用してファイルの変更履歴を管理します。

主な特徴

  • 直感的なGUIインターフェース:コマンドラインを使わずに操作可能

  • Windowsエクスプローラーとの統合:右クリックメニューからSVN操作が可能

  • 無料で利用可能:コストをかけずに導入可能

  • 詳細なエラー情報の表示:トラブルシューティングを容易に

  • 視覚的な差分表示:ファイルの変更箇所を簡単に確認

  • ブランチとマージの管理:複数の開発ラインを効率的に管理

  • リビジョングラフ:プロジェクトの変更履歴を視覚的に表示

参考記事:https://tracpath.com/bootcamp/learning_tortoisesvn.html

✅TortoiseSVN導入の理由

TortoiseSVNを導入する重要な理由は以下の通りです:

  1. 視覚的な操作
    GUIを通じて直感的に操作できるため、コマンドライン(CUI)に不慣れな開発者でも簡単に使用できます。

  2. 高度な比較機能
    内蔵の差分ツールにより、ファイルの変更箇所を視覚的に確認できます。これは複雑なEAのロジック変更を追跡する際に非常に有用です。

  3. ブランチ管理
    新機能の開発や実験的な変更を、メインの開発ラインに影響を与えずに行うことができます。

  4. プロジェクト全体の可視化
    リビジョングラフ機能により、プロジェクトの変更履歴全体を視覚的に把握できます。

✅TortoiseSVNとメタエディターの併用のメリット

TortoiseSVNとメタエディターを併用することで、以下のようなメリットがあります:

  1. 統合的な開発環境:
    メタエディターでコーディングを行い、TortoiseSVNでバージョン管理を行うことで、効率的な開発ワークフローを実現できます。

  2. コード品質の向上:
    メタエディターの構文チェック機能とTortoiseSVNの差分表示機能を組み合わせることで、コードの品質を高めることができます。

  3. チーム開発の促進:
    メタエディターでの個人作業とTortoiseSVNを使用したチーム間の同期を組み合わせることで、効果的な協働開発が可能になります。

  4. バックアップと復元の容易さ:
    メタエディターでの作業内容をTortoiseSVNで定期的にコミットすることで、簡単にバックアップを取ることができ、必要に応じて過去のバージョンに戻ることができます。

  5. プロジェクト管理の向上:
    メタエディターでのコーディングとTortoiseSVNでのバージョン管理を組み合わせることで、プロジェクトの進捗状況を明確に把握できます。

✅メタエディターだけでなくTortoiseSVNも使う理由

メタエディター単体でもバージョン管理機能はありますが、TortoiseSVNを併用する理由は以下の通りです:

  1. 詳細なバージョン管理:
    TortoiseSVNは、より高度で柔軟なバージョン管理機能を提供します。ブランチやタグの管理、複雑なマージ操作などが可能です。

  2. プロジェクト全体の管理:
    メタエディターは個々のファイルの管理に優れていますが、TortoiseSVNはプロジェクト全体を俯瞰的に管理できます。

  3. チーム開発への適応:
    TortoiseSVNは、複数の開発者が同時に作業する際の競合解決やマージ操作を支援します。

  4. 外部ツールとの連携:
    TortoiseSVNは、様々な外部ツール(差分ツール、マージツールなど)と連携できるため、より柔軟な開発環境を構築できます。

  5. クロスプラットフォーム対応:
    SVNはクロスプラットフォームで使用できるため、異なるOS間でのコード共有や協働作業が容易になります。

✅インストール方法

  1. TortoiseSVNの公式サイト(https://tortoisesvn.net/)にアクセスします。

  2. 「Download」ページ(https://tortoisesvn.net/downloads.html)から、最新バージョンのインストーラーをダウンロードします。32ビット版と64ビット版があるので、お使いのシステムに適した方を選択してください。

  3. ダウンロードしたインストーラーを実行し、画面の指示に従ってインストールを完了します。

    • インストール時にオプションとして、デフォルトでは対象外になっている「コマンドライン・クライアントツール」をインストールすることをおすすめします。これにより、より高度な操作が可能になります。

  4. インストール後、コンピューターを再起動することをおすすめします。これにより、すべての設定が正しく適用されます。

✅TortoiseSVNの日本語化の手順

TortoiseSVNのインターフェースを日本語に変更することで、より使いやすくなります。以下の手順で日本語化を行ってください。

  1. TortoiseSVNの公式サイト(https://tortoisesvn.net/)にアクセスします。

  2. ページ上部のメニューから「Downloads」を選択します。

  3. ページ下部の「Language Packs」のセクションを見つけ、そこから「Japanese」の最新バージョンをダウンロードします。32ビット版と64ビット版があるので、お使いのシステムに適した方を選択してください。

    • ファイル名は通常「LanguagePack_xxxxx_ja.msi」のような形式です。

  4. ダウンロードした言語パックのインストーラー(.msiファイル)を実行します。

  5. インストールウィザードの指示に従って、言語パックをインストールします。

  6. インストールが完了したら、PCを再起動するか、Windowsのエクスプローラーを再起動します。

  7. TortoiseSVNの設定を開きます:

    • デスクトップや任意のフォルダで右クリック

    • 「TortoiseSVN」→「Settings(設定)」を選択

  8. 設定ウィンドウの左側のツリーで「General(全般)」を選択します。

  9. 右側の「言語」ドロップダウンメニューから「日本語(日本)」を選択します。

  10. 「OK」をクリックして設定を保存します。

これで、TortoiseSVNのインターフェースが日本語に変更されます。メニューやダイアログなどが日本語で表示されるようになり、操作がより直感的になります。

💡注意バージョンによっては、言語パックのインストール直後に自動的に日本語化される場合もあります。その場合は、手順7〜10は不要です。

また、TortoiseSVNをアップデートした場合、言語パックも最新版にアップデートする必要がある場合があります。TortoiseSVNをアップデートした後、インターフェースが英語に戻ってしまった場合は、上記の手順を再度実行してください。

✅基本的な使い方

ここでは、前回記事で説明したMQL5ストレージをリポジトリとして利用する場合を例に説明します。
ローカルファイルなど、MQL5ストレージで管理されていないファイルを管理する方法については、ほかのSVN解説ページなどをご覧ください。
🔰参考URL:https://tortoisesvn.net/docs/release/TortoiseSVN_ja/

リポジトリのアクセス

  1. Windowsエクスプローラ上の任意のファイルまたはフォルダを右クリックして、「TortoiseSVN」→「リポジトリブラウザ」を選択します。

  2. リポジトリブラウザ起動時に、リポジトリのURLを確認するダイアログが表示されますので、MQL5ストレージのルートURL「https://storage.mql5.io/repos」を入力します。

  3. リポジトリの認証情報の入力が求められますので、MQL5ストレージのユーザーID、パスワードを入力します。

  4. 認証後、MQL5ストレージの内容が表示されるようになります。

ファイルの追加

  1. リポジトリブラウザで、MQL5ストレージで追加したいファイルがあるフォルダに移動します。

  2. リポジトリブラウザで、追加したいファイルを右クリックし、「ファイルを追加」を選択、または追加したいファイルをドラッグ&ドロップします。

  3. 追加するファイルを確認し、「OK」をクリックします。

  4. メッセージを入力します。具体的な変更内容を記述することをおすすめします。
    例:「EURUSDペアの移動平均線計算ロジックを最適化」

  5. 追加するファイルを確認して「OK」をクリックします。

  6. 追加が完了すると、変更がリポジトリに保存され、新しいリビジョン番号が割り当てられます。

この方法を使うことにより、メタエディターでは、ファイルの追加を「+」ボタンで1ファイルごとに追加後にコミットするという作業は必要でしたが、この手順を使えば大幅に処理時間を短縮できます。

変更履歴の確認

  1. リポジトリブラウザで、履歴を確認したいファイルやフォルダを右クリックし、「ログを表示」を選択します。

  2. 各コミットの詳細、変更されたファイル、コミットメッセージなどを確認できます。

差分の確認

  1. リポジトリブラウザで、変更したファイルを右クリックし、「ログを表示」を選択します。

  2. 最新のリビジョンを右クリックし、「直前のリビジョンと比較」を選択します。

  3. 現在のファイルと最後にコミットされたバージョンとの差分が表示されます。

✅MQL5ストレージにおける使い方

MQL5ストレージとTortoiseSVNを組み合わせることで、EAやインディケーターの開発をより効率的に行うことができます。

日常的な使用

  1. EAやインディケーターを編集した後、変更をメタエディターでコミットします。

    • 例:新しいトレード戦略を実装した場合、「MACD・RSIクロス戦略を追加」というメッセージでコミット

  2. 新しいファイルを作成した場合は、「追加」します。

  3. 定期的に「コミット」を行い、最新の状態を維持します。特に複数の開発者と協力している場合は重要です。

💡重要:MQL5ストレージでは、ストレージ配下にローカルファイル、ローカルフォルダがコミットされていない状態で置かれていると、共有プロジェクト全体が同期不全を起こし、エラーが発生することがあります
そのため、追加・コミットは、できるだけこまめに行うようにしましょう。

ブランチの活用

  1. 新機能の開発や大きな変更を行う際は、ブランチを作成します。

    • 例:「feature-scalping-strategy」というブランチを作成して、新しいスキャルピング戦略を開発

  2. 開発が完了したら、メインブランチにマージします。

    • この際、コンフリクト(競合)が発生する可能性があるので注意が必要です。

タグ付け

  1. リリースバージョンごとにタグを付けることで、特定のバージョンに簡単にアクセスできます。

    • 例:「v1.0-release」というタグを付けて、最初の公開版をマーク

  2. タグを使用することで、特定のバージョンを簡単に取り出したり、そのバージョンに戻ったりすることができます。

バックアップと復元

  1. リポジトリ全体を定期的にバックアップすることをおすすめします。

  2. 問題が発生した場合、特定のリビジョンに戻すことで、安定した状態に復元できます。

💡まとめ

TortoiseSVNを使用することで、MQL開発やEA運用におけるバージョン管理が格段に楽になります。変更履歴の管理、複数の開発ブランチの管理、そしてバックアップの役割も果たすため、MQLプログラマーにとって非常に有用なツールです。

特に、詳細なエラー情報の取得機能により、問題解決が迅速に行えるようになります。メタエディターでは「common error」となっていたエラーの詳細内容を知ることができ、迅速な対応が可能になります。
また、視覚的な差分表示やブランチ管理機能は、複雑なEAの開発において非常に役立ちます。

メタエディターとTortoiseSVNを併用することで、コーディングとバージョン管理の両面で効率的な開発環境を構築できます。メタエディターの強力な編集機能とTortoiseSVNの高度なバージョン管理機能を組み合わせることで、個人開発からチーム開発まで、様々な規模のプロジェクトに対応できます。

TortoiseSVNの導入により、コード品質の向上、開発効率の改善、そしてチーム協働の促進が期待できます。

ぜひ、日々の開発作業に取り入れ、より効果的なMQLプログラミングを実現してください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました

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