「飛ぶように売れていた布マスクが、ある日パタリと止まった理由」——コロナ禍が教えてくれた“流行”の怖さ
2020年、突如として始まったコロナ禍。世界中で「マスク不足」が叫ばれるなか、ハンドメイド作家たちはこの新しい需要に応え、布マスクを次々と手掛け始めました。普段はアクセサリーや雑貨を作っていた作家たちも、いつしか「布マスクが飛ぶように売れてます!」という声をあげ、次々と市場に参入していきました。
その一方で、ただ利益のためではなく「少しでも役に立ちたい」と、社会貢献の一環として布マスクを作っていた作家もいました。医療機関や地域の施設に寄付をしたり、近隣の住民に配布することで、感染拡大を少しでも防ごうと活動していた方々もいます。コロナ禍の混乱の中で、彼らの貢献が多くの人に安心を届けていたことも事実です。
バブルは弾ける?——感じていた違和感
しかし、そのブームの渦中にあって、僕は心配を抱えていました。確かに、僕も一時的にはマスク販売の効果を感じましたが、「これは長く続くトレンドではない」と感じ、周囲にも「このバブルは絶対に弾ける」と伝えました。需要が一時的であると気づいていたのです。
けれども、需要に応えようとする意欲が高かったあの時期、多くの作家たちはこの警告を聞き流し、皆、売れる時に売ろうと、どんどん布マスクに力を注いでいきました。
急成長する需要と価格高騰
需要が一気に高まると、マスク用の布やゴムといった素材の価格は急騰しました。いつもの数倍に跳ね上がる価格にも関わらず、多くのハンドメイド作家は「今のうちに」とその高価な生地を大量に仕入れ、在庫を抱えて製作を続けました。
布マスクのデザインも工夫され、色や柄、さらにはアクセサリー感覚のものまで登場し、ある意味では「一時のファッションアイテム」的な立ち位置さえも獲得していたのです。けれども、素材費が上がった分、薄利でどれだけ売れるかが分からない状況に不安も広がり始めていました。
ブームの終わりと在庫の問題
やがてブームは急激に収束しました。市場が飽和し、供給が需要を上回ると布マスクは売れなくなり、改良された不織布マスクの登場も重なり、布マスクのニーズは急激に冷え込んでいきました。
結果、残されたのは売れ残ったマスクの在庫と、高値で仕入れた布や材料だけ。多くのハンドメイド作家たちは、在庫の処分や資金繰りに悩むことになりました。この時期にマスク製作に全力を注いでいた作家たちは、バブルの後に残された現実と向き合わざるを得なかったのです。
「トレンドに流されない」ことの大切さ
今回の布マスクブームは、ハンドメイド作家として自分の価値や信念に基づいて行動することの大切さを教えてくれたと感じます。どんなに流行に乗ったとしても、それが長く続くものなのかを冷静に見極めることが大事です。
トレンドに乗ることは決して悪いことではありませんが、一時的なバブルに全てを賭けることのリスクも考慮する必要があります。特に、長く続けたい活動があるならば、自分の強みやオリジナリティを大切にし、それを活かしていくことこそが、本当の意味での成功につながるのではないでしょうか。
ただ、社会貢献として布マスクを作っていた作家たちにとっては、利益や流行とは関係なく、困っている人を助けるという目的で活動していたので、彼らの取り組みには特別な価値があります。マスクの需要が落ち着いても、彼らが果たした役割は大きく、心から感謝されるべき存在です。
「次の波」に備えて——本質的な価値を見つめ直す
もしも、これから新しいトレンドが見えたときは、今回の教訓を思い出したいものです。そのときには、流行に流されず、マーケットの本質と自分の価値観を見失わずに冷静に判断できるようなハンドメイド作家でありたいと思います。
そして、「売れるから作る」のではなく、自分の作るものがどのように人々の生活に役立つのか、本質的な価値を常に意識していくことが、長く活動を続けていくための力になると信じています。