
ホースタッツの設計思想 - 現場発のアプリだからこそできること
はじめに
スポーツの分析アプリは数多くありますが、その中でもホースタッツ(HSTATS)が誕生した背景は少し独特かもしれないです。なぜなら、このアプリは「現場のために、現場から生まれた」という他にはない設計思想を持っているからです。
今回は、ホースタッツの設計思想について、開発者の視点からお話しさせていただきます。特に、なぜ現場発のアプリが重要なのか、そしてそれがどのようにスポーツの現場を変えていくのかについて、詳しく解説していきます。
スポーツ分析の現状と課題
スポーツ分析は、近年急速に進化しています。プロスポーツでは、高度な分析システムやAIを活用した分析が当たり前になってきました。しかし、アマチュアスポーツや育成現場では、まだまだ分析の導入が進んでいないのが現状です。
その主な理由として、以下のような課題が挙げられます:
コストの問題
高額な専用機器が必要
月額利用料が高い
ソフトの利用のための学習かかるコスト
時間の問題
分析に多くの時間が必要
リアルタイムでの活用が難しい
データの入力や整理に手間がかかる
技術的な問題
専門知識が必要
操作が複雑
導入のハードルが高い
→→結果として一部の人(プロなど)のためだと思われがち。
現場発のアプリが生まれた背景
私がホースタッツの開発を始めたきっかけは、現場のコーチとして感じていた「もどかしさ」でした。最初は自分用のツールとして、YouTubeの動画を見返す際に必要なシーンをすぐに再生できるようにしたいという「個人的な不便」の解消がきっかけでした。
実は、分析への興味は高校時代にさかのぼります。当時の私は、指導を受ける機会が限られていた環境で、「もっと効果的な練習方法や指導法があるのではないか」という思いを抱いていました。その後、大学でコーチとして活動を始めた際に、数字による分析の重要性を強く感じ、最初はExcelでデータをまとめることから始めました。
その後、2022年から2023年にかけてのデンマーク留学中も、「なんでそんなに狂ったように撮影してるの?」とチームメイトに言われるほど、徹底的に映像を記録し続けました。この経験を通じて、スプレッドシート+YouTubeのリンク管理では編集の煩雑さが目立ち、情報共有にも限界があることを実感したのです。
当初のホースタッツは非常にシンプルなもので、ボタンが4つだけの基本的な機能しかありませんでした。それを八王子ユナイトの小田中さんに見せたところ、「タグの種類を増やしてみたらどうか」「コメント機能を付けてフィルターできるようにすると便利」など、さまざまなアイデアをいただき、機能を少しずつ追加していきました。
デンマークから学んだこと
デンマークでの経験は、ホースタッツの設計思想に大きな影響を与えています。デンマークでは、ハンドボールが文化として深く根付いており、スポーツとの距離感が非常に近いのです。これは物理的な距離感だけでなく、心理的・文化的な面でも同様です。
特に印象的だったのは、ハンドボールが特別なものではなく、「普段からあるもの」「自分の街にあるもの」「友達がやっているもの」という、とても自然な距離感で捉えられていることでした。この経験から、アプリも同じように、特別な知識や技術がなくても自然に使えるものにしたいと考えました。
前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。
現場発のアプリだからこその強み
ホースタッツの最大の特徴は、「現場発のアプリ」であることです。これは単なるキャッチフレーズではありません。
私自身がコーチとして現場で活動しながらアプリを開発したことで、以下のような特徴が生まれました:
圧倒的な学習コストの低さ 本を読んでいるときに「付箋」を貼ってメモを残す感覚に近い、直感的な操作性を実現しました。5分程度の説明で誰でも使えるようになる設計を心がけ、YouTubeに動画をアップロードできる人なら誰でも使えるようにしています。
現場目線の細かな気配り タグ付けした時点より少し前から動画再生が始まるなど、実際の使用シーンを想定した機能を実装しています。また、コメント入力時の自動停止機能や、効率的な操作フローなど、現場での使いやすさを重視しています。
実践的な分析機能 YouTube Liveを使用して、試合中でもリアルタイムに使える簡単な操作性を実現し、必要最小限の入力項目で効率的な分析が可能です。
プロダクトアウトでもマーケットインでもない、第三の道
一般的なアプリ開発では、プロダクトアウトやマーケットインというアプローチが主流です。しかし、ホースタッツはこれらとは異なる第三の道を選びました。それは「開発者=ユーザー」という独自のポジションです。
この立場だからこそ、実際の使用シーンを完全に理解し、フィードバックのサイクルを極めて短くすることができます。また、機能の優先順位付けが明確で、現場のニーズに即座に対応できるという利点があります。
今後の展望:みんなで強くなる文化づくり
私が理想として思い描くのは、ニュージーランドのオールブラックスのような「国として強い姿」です。そのためには、国内チャンピオンになったチームが「どんな練習をしてきたか・どう勝ってきたか」を国内でシェアし、国際舞台での経験を共有していく文化が必要です。
これは本当に個人的な見解ですが、日本のスポーツ界には、強いチーム・選手・コーチにはどんどん情報が集まって強くなる一方で、弱いチームは弱いところに合わせているという現状があります。全体としてみんなで強くなろうという雰囲気が感じられない部分があるのです。
ホースタッツを通じて、以下のような文化づくりを目指しています:
データ共有の促進 タグのプリセット共有機能やグループ内でのコミュニケーション機能を通じて、チーム間での知見の共有を促進します。
コミュニティの形成 コーチ同士の情報交換やベストプラクティスの共有を通じて、「みんなで強くなる」文化を育てていきます。
まとめ:現場から生まれる革新
ホースタッツは、現場のコーチが現場で使うために作ったアプリです。この「現場発」という特徴は、単なる開発手法の違いではありません。それは、スポーツの現場をより良くしたいという強い想いと、実践的な知見の結晶なのです。
今後も現場の声を大切にしながら、より良いアプリへと進化させていきます。ぜひ、この成長の過程を一緒に見守っていただければと思います!