【若手成果】新しい視点からのアプローチ:ラマン顕微鏡による薬物効果の可視化【フォトニクス×新薬開発×再生医療】
従来の技術に比べ数百倍の観察速度をもつライン照明型ラマン顕微鏡*1を用いて、薬物がシトクロムP450(CYP)活性*2やグリコーゲン蓄積に与える効果を、非破壊かつ無標識に観察することに成功しました。
この成果は、細胞応答を自然な状態で評価し、より正確な薬物効果の解釈に繋がります。
この技術は、新薬開発や再生医療における細胞製品の品質管理に有用であると期待されます。
物理学系専攻の藤田研究室では、ライブセルイメージングに適用可能な高速ラマン顕微鏡の開発に取り組んでいます。
筆頭著者の李梦露 同専攻特任助教(本学大学院工学研究科生命先端工学専攻で博士号を取得)は、生物学的な観点からラマン分光イメージング技術の有用性を見いだし、共同筆頭著者の名和靖矩(関西学院大学専任講師)と共に、CYP活性の無標識観察に初めて成功しました。
なお、本研究は、生物解析とフォトニクス技術の融合を目的として設立された先端フォトニクス・バイオセンシングオープンイノベーションラボラトリーと共同で実施されました。
ラマン顕微鏡は、生体分子を分析しながら観察できるため、生物学、医学分野
の研究に有用であると期待されています。
しかし、その可能性はまだまだ未知数であり、初めて観察する生体試料からは、驚くような結果が得られることも希ではありません。
まだまだ発展途上の技術ですが、ラマン顕微鏡は、新しい視点から生体を捉え、生物学の新たな発見をもたらす魅力的なツールです。
【発表先】
本成果は、『 Communications Biology 』にオンライン掲載*されました。
*オープンアクセス(無料で誰でも見れる)なので、学生の皆様もここをクリックすれば論文を見ることができます。
【問い合わせ先等】
研究室HPも是非ご覧ください。
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【プレスリリースなど】
工学研究科のHPやプレスリリース(記者発表記事)などにより詳しい詳細が記載しております。
【Further Study for Students】
*1ラマン散乱とは?
対象となる物質に光を照射したとき、散乱する光の中に照射した光の波長と異
なる波長をもつ散乱光が含まれる現象。ラマン散乱における波長の変化は物質
の分子振動に起因するため、波長の変化を測定することで対象物質の分子組成
を知ることができます。
*2薬物代謝酵素(CYP)とは?細菌や植物,哺乳動物に至るほとんどすべての生物に存在します。全生物では 700 種類以上、ヒトでは 50 種類程度の分子種が報 告されています。薬物や毒物の代謝において重要な役割を果たす酸化酵素です。還元状態で 450 nmに吸収極大を示すため、シト クロム P450(P450)とも呼ばれます。