【こわいはなし】紫リュックのおじさん
note開始して2回めの投稿で、怪談ってどうなんだろうとも思いましたが……。
今日大学の時の友人と話をしていて思い出したので、
記録として残しておこうかと。
これは、私が短期大学一年生の時。
田舎から上京し、初めての一人暮らし、初めての東京生活にやっと少し慣れてきて、アルバイトを始めた頃の話です。
私は、杉並区高円寺駅付近のアパートを借りていました。駅までは徒歩4、5分。そしてバイト先は、高円寺駅から電車に乗って20分くらいのところにありました。
ある日の夕方。
バイトに向かうためアパートを出ました。時間にルーズな私は、いつもギリギリ。この日もバタバタと準備を済まし、早足に駅へ向かっていました。
駅までの道では、学校帰りの小学生や仕事を終えたサラリーマンと数人すれ違ったくらい。大通りまでは閑静な住宅街が続きます。
何も変わりない、いつも通りの光景です。
数人とすれ違った中で1人、一点だけ、少し気になってことがありました。
黒のキャップをかぶって、紫色のリュックを背負った男性。歳は5、60代といったところ。蛍光を帯びた紫色の派手なリュックと、見た目の雰囲気のミスマッチ感がなんとなく印象に残っています。しかし、少し気になるというか、その時は目に留まる程度です。
まぁ、特に気にすると言うわけでもなく、
それよりも、
「電車間に合うかなー」
と思いながら、駅を目を目指します。
駅前まできたところで、バッグを漁ります。定期券を取り出そうと思ったのですが、無い。やってしまいました。
「やばい!」
踵を返し、走りながら家に戻ることに。もう、バイトへは遅刻確定です。また怒られるなー。
すると、さっきの、紫色のリュックを背負ったおじさんが向こうから小走りで走ってきた様子が見えました。そしてすれ違いました。
「ん?あのおじさんさっきもいたな」
少し気になりましたが、ここら辺に住んでいる人だと考えれば、ごく自然。なんの気無しに家に戻りました。
玄関のドアを開け、靴のままリビングに。定期券を手に持ち、急いで家を出て、駅までの道を再び走ります。(ここで家のドアに鍵をかけるのを忘れた私。本当に詰めがあまい。)
すると、家の前の緩やかなカーブから、見覚えのある光景が。そう、また紫リュックのおじさんがこちらに向かってくるんです。2回めにすれ違った時と同じくらいの早足で。
「え、また?なんかおかしくない?」
しかし私は全力ダッシュ中。怖い!とは思いながらも、足を止められずまた普通にすれ違いました。
「でも、変だ。」
バイトに遅れてしまう心配はどこへやら。
おじさんに不気味な感じを覚えて、私は後ろを振り返ってみることにしました。
おじさんとすれ違ってから、20秒と経っていなかったと思います。
「向こうから走ってきたらどうしよう」
「でも偶然ということもあるよね。」
思い切って、ゆっくり振り向いてみました。
ダッシュしている格好と同じ格好で、
そのままゆっくり、首だけ、ゆっくり……。
すると、10m……いや、もっと近かったかな。
向こうで、おじさんが、
こっちを見ていました。
リュックの右ショルダーに手をかけ、体ごとこちら側を向いていました。睨んだりするわけでもなく、右側に首を若干傾げて、私の方をぼーっと見ている、という感じでした。なんとなく、焦点があってないようにも思いました。
ギョッとした私は、おじさんに背を向けて走るのが怖くて、ゆっくり2、3歩後退りした記憶があります。
「どうしよう…」
と考えていると、帰宅ラッシュの電車が駅に止まったタイミングなのか、背後から、数人の足音と話し声が聞こえました。
今だ!と思い、後ろを向いて駅まで猛ダッシュ。
息も絶え絶え、改札をくぐり、後ろを向くと、
もうおじさんはいませんでした。
電車の中でも動悸が止まりませんでした。
……その日もバイト先の店長に「〇〇!また遅刻かよ!」と怒らましたが、その声が本当に心地よく感じました。