地下アイドルのエクスタシー(1)
モモは大阪日本橋の地下アイドル。幾多のアイドルグループの一員ではなく、単品で活躍している。18歳。ロリコン魂をくすぐる甘いマスクに、居乳。ミニスカートから覗く太ももやふくらはぎには程よい量感があり、むちむちぷりんとセクシーであり、かつ、くびれるべきところはくびれていた。
飾り気のないTシャツにMOMOのロゴ。その胸部は豊かに盛り上がっている。子どものころから鍛えたダンスでステージ狭しと踊りくるえば、ゆさゆさ揺れる乳房の弾みにオタクたちの目は釘付け。あられもなく恰好悪いオタクダンスを繰り返しながら、「もーも。もーも。超絶かわいいもーも」と雄たけびをあげる。
歌唱にはベースの効いた温かさがあり、歌だけ聞いているとそれは立派な歌唱力に数えることができただろう。しかし、その肢体の跳ね躍るのを見ながら聞けば、その温かさはセクシーさに変容するという錬金術があった。スピーカーを通して、オタクたちの下腹部を打つ歌声は、その秘められた欲望をくすぐり、オタクたちの絶叫はますます佳境に入る。
ここぞとばかりに、ステージを一歩二歩と前に歩み出て、しゃがみこむモモ。その舞台下にひざまずくオタクたちがぐるりと半円形になる。サビを熱唱するモモに向かって花びらのように差し出される無数の手。手のひらは、モモを讃嘆してひらひらと泳ぎ、生きたイルミネーションの献身がステージを盛り上げる。オタクたちは、ひざまづきながら、ひそかに勃起し、あふれ出る性エネルギーをただ手のひらにこめる。さらには胸のあたりに手を合わせ、その手をさっと開いて、モモにラブを投げキッスする。目に見えないラブの投げキッス、ラブの投げキッス。
椅子のない小さなホールで、見渡す限りのオタクたちがひざまずかないまでも、ハートから手のひらでラブの投げキッスを送っている。会場中が「モーモ。モーモ」と絶叫している。全男子が勃起している。モモはそのエネルギーを全身に浴びながら、体中が火照ってくるのを感じる。熱い。そして、うるっとモモの陰部が濡れてくる。来た。この快感。これがあるから地下アイドルはやめられないのだ。そしてその快感はおそらく、フアンと距離のある、武道館の大会場を制したアイドル以上のものなのだ。飛び散る汗が届きそうな距離からの熱気。
「みんなのこと、大好きよ」モモはサビを歌い終えると間奏の中で叫び、唇からホンモノの投げキッスを会場にサービスする。両手を広げたモモに包み込まれるような快感を男たちは覚え、おおおおおおと唸りをあげる。モモの太ももにツツツと愛液が一滴流れ伝う。プンと女の匂いが男たちのムンムンする汗の中に漂い、一筋の煙のように流れる。オタクダンスの手の動きにかき回されてそのフェロモンは会場いっぱいに広がっていく。モモにすべてをささげるシモベになりたい。そんな思いに打たれて、男たちの下腹部からは、奔流のようなエネルギーが血管を駆け巡る。毛細血管の隅々まで行き渡る。
陶然としたオタクたちの顔。恍惚のとき。モモはオタクたちの全エネルギーが自分の陰部から背骨を駆け上って脳天につきあげるのを感じていた。オタクたちはゆらゆらと忘我の境地に揺れる。暗闇にサイリウムの光も揺れて流れる。その光跡はタカシの網膜に滲み出す光の筋となって流れ出した。それはもはやひとつの宗教儀式のようでさえあった。しかし、ここに繰り広げられているのは、この「地下アイドル」という名の新しい宗教の表の顔に過ぎなかった。この日初めてモモのステージを見て、地下アイドルの世界に魅せられたタカシは、後戻りのできない扉を開くこととなった。彼は地下という言葉の意味を身をもって思い知ることになる。これはそのほんの鳥羽口に過ぎなかったのだ。