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【警察モノガタリ】結末、そして・・・

それからは途轍もなく早い速度で事が進んでいった。

尾張係長に邪魔をするなと言われたものの、イチ警察官が抱えるにはあまりにもリスクの高い内容であった為にすぐに上層部へと報告した。

結論としては尾張係長は木村を監禁していた。

いや、監禁と言うのには木村にとっては酷なハナシだったかもしれない。

おそらく、尾張係長も僕に勘付かれた事で焦りを感じていたのだろう。

言葉に表すにはあまりにも惨すぎる状態で木村は見つかった。

おそらく見つかるのがもう少し遅かったら木村はこの世にいなかっただろう。

それほどまでに尾張係長は今回の復讐劇に全てを賭けていたのだと思う。


『いや、まさかまさかの展開だったねぇ。春日井かすがい君もだいぶお疲れなんじゃないぃ?』

尾張係長が逮捕されてからというものの、僕の置かれている状況も目まぐるしく変わっていった。

尾張係長を逮捕するに至った決定打となる情報を持っていた事で警察内部で僕に対する取調べも行われた。

可能な限り他の誰かの迷惑にはならない様に応えていたものの何名かは僕と同じ様に謂れなき取調べを受けていた。

この瀬戸せと係長も同様だ。

『いえいえ、瀬戸係長も僕のせいでご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。』

瀬戸係長にはかなり大きい貸しが出来てしまった。

木村がマンションの自宅前でトラブルになっていた事についてきちんと報告を上げていたものの勝手に上層部が瀬戸係長にも嫌疑を掛けた上に、直属の部下である僕が決定打となる情報を持っていたものだから、何も知らないのにグチグチと説教を受けたらしい。

『いいのいいのぉ。春日井君に何もなくて良かったよぉ。にしても、尾張係長がまさかあんな事をしていたなんてねぇ。』

確かに、僕も尾張係長がまさかあそこまでの事をするなんて想像し得なかった。


『やっほー。若人よ、今日もビシバシ働いているかい?』

『お疲れ様です、小牧こまきさん。小牧さんも顔に披露が出ていますね。大丈夫ですか?』

『君に心配されるなんて私も歳を取ったもんだねぇ。なにはともあれ、今回の件は君には結果的に悪い事をしてしまったね。すまなかった。』

尾張係長がきむらを監禁するに至った経緯が元交際者である小牧月明あきらであり、その妹である小牧さんに上層部が何も聞かないなんて事はなかった。

『小牧さんが謝る事なんて何もないですよ。元はと言えば木村達があんな事をしなければ尾張係長も今回の様な事を起こさなかったワケですし。』

尾張係長の元交際者であり小牧さんのお兄さんである小牧月明さんは木村を含む少年グループにリンチされて殺された。

すぐに少年達は警察に捕まったものの、当時全員が未成年であり一時的には世間の関心を集めたが1ヶ月も経ち、別のモノへと世間の関心は移ろいでいった。

少年達のほとんどはお咎めなしで一部少年院にいった子達が数名いった事で物議を醸したりもしたが、世間が被害者遺族である小牧さんや尾張係長に同情を向けていたワケではなかった。

当時、尾張係長も小牧さんも警察官にはなっていたが、被害者の遺族という事で情報がシャットアウトされていた。

想像を絶するモノであったと思う。

尾張係長は愛する恋人を、小牧さんはかけがえのない兄を失ったのに、警察官という立場のせいで何も情報を教えてもらえなかったのは。

絶望に暮れる日を長い期間過ごしたと思う。

それでも生きていかなければならない中で、わずかながらに希望を抱いていったのだと思う。

そんな中で尾張係長は当時の少年グループの一人である木村を見つけた。

『尾張係長がやった事は許される事じゃない。でもこんな事を言ったら警察官として失格だけど、私は少し嬉しかったのだよ。』

『尾張係長が仇を討ってくれようとしてくれたからですか?』

『いや、仇を討ってほしいかったとかはどうでもよくて、私以外にもまだ兄の事を思ってくれた人がいたんだなと思えてね。カタチとしては間違っていたけど、尾張係長の中にもまだ兄が生きていたんだなと。』


『おう、お疲れ。』

『うん、お疲れ。』

喧騒な周囲の中でビールで一杯になったグラスの合わさる音が静かに鳴る。

『大変だったな。』

『そんな事ないよ。犬山いぬやまのおかげでだいぶマシになったんじゃないかな?』

その時は知らなかったが裏で犬山が僕を守るために奔走してくれていたらしい。

尾張係長は木村を自宅ではなくて、真中警察署の人間でもなかなか知らない廃屋に監禁していた。

ただ、その廃屋が幸か不幸か僕の受け持ち区でもあった。

その事が上層部が僕に嫌疑を深めた理由でもあるのだが、犬山が『春日井はそんな事をする人間じゃありません。自分の中で確信が生まれたこそ言うべきタイミングだと思って上の人間に話しただけです。』と言い回ってくれていたらしい。

『同期を守るのは当然だろ。それに、俺は公安だからな、暗躍するのは得意なんだよ。』

『なかなか公安が板に付いてきたじゃない。』

『まぁ、なにはともあれ今回の件は一件落着だな。』

『うん、そうだね。』

いや、まだ解決していない事がある。


『失礼します。真中まなか警察署の春日井です。今回は無理を言って申し訳ありませんでした。』

『ホントにそうだよ。こういう事は本来は認められていないんだけどね。まぁ、上が許可したなら仕方がないんだけども。』

東海県警察本部の留置所に尾張係長は留置されていた。

看守が不満をブツブツ言っていたものの、様々な裏技(犬山)を使って今回の面会にこぎ着けた。

本来、警察官が逮捕されて留置されている警察官に面会をする事は取調べの担当刑事でない限り出来ないが、特別に一般人春日井春斗として会う事が出来た。

『それじゃ、一般面会だから15分ね。』

『分かりました。ありがとうございます。』

扉を開けると無機質なアクリル板の向こうに尾張係長が座っていた。

『おう、久し振りだな、春日井。』

『お久し振りです、尾張係長。』

『捕まったアタイの事をまだ係長なんて言ってくれるなんて、なかなか義理堅い奴だなお前は。』

この人らしいなと思った。

逮捕されてなお自分を変えない。

『ある意味では僕のせいで捕まったので会った瞬間にぶち切れられるのかと思いました。』

『何勘違いしてんだお前?お前が会いに来るって聞いてからぶち切れてんだけど。』

『そうでしたか。』

『ぷっ。何神妙な顔してんだよ。冗談に決まってんだろ。アタイも一回お前の顔を見たかったからな。会いに来てくれて嬉しいよ。』

まるで、逮捕される前のつい最近までと何も変わらない姿がなぜだかとても嬉しかった。

『そんで何しにアタイに会いに来たの?』

『一つ聞きたい事がありまして。なんで、僕に教えてくれたんですか?』

『教えた?何をだ?』

『自分が犯人だって事をですよ。』

『はぁ?別にアタイはお前に何も言ってねぇだろ。』

『いえ、言いました。いや、厳密には尾張係長からは直接聞いていませんが、もし自分が本当に木村を殺してしまいそうになった時に誰かが止められる様に準備していましたよね。』

『・・・・・・・・・・・・・・・』

『尾張係長は僕が嫌疑を掛けた時点でこれ以上は無理だと察していたんじゃないですか?』

『・・・・・・・・・・・・・・・』

『だけども、もう自分の事を抑える事が出来ない。だから、あらかじめ冷静でいられている時に準備していたんです。自分が暴走したら止められる様に瀬戸係長にお願いしていたんです。』

『・・・・・・・・・・・・・・・』

『尾張係長に何があっても邪魔するなよと言われてから僕が出来る事は何も無い、ただ何も出来ずに傍観者としているしかないと思いました。ただ、不思議とそれから瀬戸係長が尾張係長に繋がる情報を色んなカタチで教えてくれたんです。』

『・・・・・・・・・・・・・・・』

『おそらく僕が勘付かない様になるべく遠回しにやっていたと思いますが、クセが出ていたんですよ。』

『何だよ、クセって。』

『昔、瀬戸係長に教わった事があるんです。捜査一課にいた時に組んでいたペアに瀬戸係長が何か大事な事を教える時には左手で後頭部を掻きながら言うって言われた事を。』

『・・・・・・・・・・・・・・・』

『よくよく思い出せばその時にも後頭部を掻いていたと思います。その時のペアって尾張係長の事ですよね?』

『・・・・・・・・・・・・・・・・』

『初めから瀬戸係長は尾張係長がやろうとしていた事を知っていたんじゃないですか?』

『・・・・・・・・・・・・・・・』

『元部下の残酷な姿を見て瀬戸係長も葛藤があったんだと思います。警察官として失格だとしても、イチ人間として尾張係長のやる事を止められなかった。せめてもの尾張係長を止めるのはあの時の惨劇を知らない警察官がやるべきだと。だから、僕に尾張係長の情報を教えてくれたのだと。』

『・・・・・・・・・・・・・・』

『どうでしょう?合っていますか?』

『はぁ。お前も爪が甘ぇな。何を根拠にそんな事を言ってんだ?確かに瀬戸係長とは捜査一課時代にペアを組んでいたがそれだけだろ?』

『まぁ、そうですが。』

『だいたいアタイは木村を殺す気マンマンだったから誰にも止められない様にするのが普通だろ?』

『まぁ、確かに。』

『相手をヤる時にはちゃんと決定打となる根拠も一緒に示せとアレだけ教えただろ。』

『すみません。実力不足で。』

『でも、まぁ、今回は特別だ。正解だよ。お前の見通しはものの見事に正解。まったく、瀬戸係長もアレだけクセは出さない様に気を付けろって言ったのにアレだけは治らないんだからな。』

『・・・・・・・・・・・・・・・』

『まぁ、それが瀬戸係長の良い所でもあるんだけどな。』

『・・・・・・・・・・・・・・・』

『良い警察官になったな。春日井。』

『何で正解を教えてくれたんですか?』

『何でだろうな?お前なら教えても良いかなって何となく思えたんだよ。』

『尾張係長にしては珍しく煮え切らないですね。』

『うるせぇな。まぁ、本音を言えばな、お前の正義が好きなんだよ。』

『僕の正義ですか?』

『実はさお前がまだ警察学校にいる時にアタイ達会ってんだよ。』

『え?ホントですか?いつですか?』

『まぁ、直接会ったワケじゃないんだけどな。お前が教官室で教官と話しているとを聞いてな。』

『全然覚えてないです。』

『教官からお前の正義は何だって言われてお前は『僕の正義は悪を裁く法律の事です。』って言ってたんだよ。それ聞いてさ、コイツ警察学校生にしては良い事言うんだなと思ったんだよ。キレイ事を言わねぇのが良いなって思ったんだよ。それにその時自分にとっての正義が揺らいでいた時でもあったからな。お前の言葉に感銘を受けたんだよ。』

『そうでしたか。その時から尾張係長とは繋がっていたんですね。』

『そう。それに今でもお前の正義は変わっていないんだろ?』

もう5年も前のハナシだ。

警察官になってからというものの、自分の価値観が大きく変わった事ばかりだ。

それでも警察官になった時、いや、警察官になる前から自分の正義は変わらなかった。

『はい。今でも変わっていません。』

『そうか。やっぱりお前に託して良かった。』

気付いた時には15分が経っていた。


『ようやく来たな。』

『田中さん。今日はどうしたんですか?』

『どうしたもこうしたもねぇよ。また自転車が乗り捨てられているぞ。ちゃんと仕事しねぇか。』

『ホントですね。いつもいつもこの街の治安を守っていただいてありがとうございます。後は私が処理しておきますので田中さんはお帰りください。』

『おう。後は頼むぞ。全く、今時の警察官は全然仕事をしねぇからな。俺もおちおち休んでいられねぇよ。』

今にも壊れそうな自転車を漕いで田中が去っていく。

いつもの様に防犯登録を調べて処理を進める。

もう、あの出来事が起きてから1年が経とうとしていた。

全国から現職警察官の犯罪という事で東海県警察及び真中警察署はバッシングの嵐に晒されたが、今となっては過去の出来事として誰も覚えていない。

『あ、おかえりぃ。また、田中だったぁ?』

『はい、またまた田中でした。』

『アイツも暇だねぇ。』

『ホントに困りますね。』

『でも、田中だろうが誰だろうが困っている人がいたら助けないといけないからねぇ。』

そう。

僕らは警察官。

正義の名の下に困っている人を助ける仕事。

『それじゃご飯にしよぉ。』

今日もそれぞれの正義を果たす。

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花山 烏一/ハナヤマ ケーイチ
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