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ラブレターの催促しちゃう系女子。

前回の記事の続きです。

ニシウラ君と二人きりになることに成功した。
やったね!
……しかし、私のミッションは、彼と二人きりになることではないのだ。

ニシウラ君は、ラブレターは読んだのか。
それともまだ気づいていないのか。
それを確認したかった。

静かな教室で、私は勇気を出して口を開く。

「突然、呼び出してごめんね」

すると、ニシウラ君はこう言った。

「昨日は、部活で来られなくてごめん」

ああ、そうか。
部活か。

中1のその頃は、私は部活に入っていなかった。
なので、「放課後に部活」という発想がなかった。

そして私は思い切って本題に入る。

「あの、手紙、読んだ?」

ニシウラ君はぎこちなくこう答える。

「うん。読んだよ」

「そっか! それならいいんだ」

私は読んだという事実だけを聞いて、満足した。

「ありがとう。用事はそれだけだから」とニシウラ君に伝えた。

ニシウラ君は帰り際、「それじゃあ、バイバイ」と教室を出て行った。
私はそれだけでうれしかった。

そもそも、この会話自体が貴重だったのだ。
だって、いつもニシウラ君は丁寧語で話しかけてくる。
それなのに、こんなに砕けた口調で接してもらえるなんて。

私はよりニシウラ君が好きになってしまった。

そんなこんなで、私は幸せいっぱいのままその後を過ごしたのだ。
ニシウラ君に告白をして良かったなあと思った。

しかし1週間後、ふと気づいた。

そういえば、ラブレターを読んだかどうか聞いただけで、ニシウラ君からの返事はもらっていない。

とても大事なことである。
せっかく二人きりになれたチャンスがあったのに、返事を聞き忘れるというか……。
返事を聞く、という概念が当時の私には存在しなかった。

付き合うっていうことが、いったい何をするのかピンときていなかった。
付き合う付き合わない以前に、純粋にニシウラ君の返事を聞いてみたいと思った。

でも、もうニシウラ君を呼び出せない。
だって放課後は部活なんだから迷惑だろう。
休み時間に呼び出してみようか?
あのスパイみたいな方法で?

今までは幸いにも誰にも見られなかった(たぶん)
だけど、あのスパイ作戦だって、回数を重ねればクラスメイトに目撃される可能性は大きい。
うーん、どうしようか。

あれこれと考えた結果。
良い方法が浮かんだ。

電話である。

クラス全員の電話番号が載った連絡網はある。
ニシウラ君に電話をかけて聞いてみればいい。

ちなみに、電話はもちろん自宅の電話だ。
自宅の電話は両親が出る確率があり……。
当時は、友だちと電話をする時も、事前に「〇時頃に電話をするね」と伝えいたのだ。

しかし、この時の私は、電話をかけるという緊張感ですっかり忘れていた。
両親が出てしまうという確率に……。

意を決して電話をかけた。
夜6時頃だったと思う。

ちなみに、我が家の晩ご飯は遅く、午後8時頃だったので、夜6時なら迷惑にならないだろうし、ニシウラ君も出ると思い込んでいた。

電話をかけ、電話口に出た声を聞いて……。
私は自分の考えが非常に甘かったことを思い知った。

電話に出たのは、ニシウラ君のお母さんであった。
うわあああお母さんじゃん!! 
内心うろたえつつ、まさか「間違えました」とか切るわけにもいかない。
できるだけ丁寧な口調でこう聞いてみた。

「〇〇くん(ニシウラ君の下の名前)はご在宅でしょうか?」

するとニシウラ君のお母さんはこう言った。

「〇〇は今、塾に行っております」

そういうわけで、「失礼しました」と電話を切った。

ニシウラ君、塾に行ってるのかー。勉強できる人はちがうんだなあと思った。

それから数日後。

私はニシウラ君から手紙をもらった。

どういう経緯で受け取ったのか忘れてしまったが、手渡してもらった。
またもスパイっぽいやりとりだったと思う。

で、手紙はニシウラ君の丁寧できれいな字で、こう書かれてあった。

手紙はうれしかったし、気持ちもうれしかった。
だけど、自分は勉強を頑張りたい。
だから、付き合えない。

そんな内容だった。
だいぶショックだった。

手紙を渡してもらえたのだから、いい返事なのかと期待してしまった。
だけど、お断りの内容。
でも、わざわざ断るのにきっちり手紙をくれたのは、律儀だ。

ニシウラ君らしいな。

こうして気まずいまま夏休みに突入。
私は入院先で恋に落ち、そしてまたフラれるわけだけど。

ニシウラ君とは、それ以降もずっと会話をすることがなかった。用件がある時以外は話さなかった。
お互いに避けているのではなく、非常に気まずい、という状態だった。

中学三年生になった直後。
偶然、学校でニシウラ君と会った。
私が階段を昇っていたら、ニシウラ君が一番上から降りてきたのだ。
お互いに一人だったし、周囲には誰もいなかった。

私としては、非常に気まずかった。
声をかけていいのか、それとも無視をしたほうがいいのかわからない。

無視というと、聞こえは悪いが。
基本的に、中学の頃、男子と女子は気軽に会話をすることはなかった。
だから、すれ違ったからといって、わざわざ挨拶をすることもないのだ。

だけど、このまま無視をするのは、どーにも失礼な気がした。
でも気まずい。
そんなことを思いつつも、階段を上る。

ニシウラ君と、すれ違った直後。

「お久しぶりです」

そう言ったのは、ニシウラ君だった。
私もなるべく明るくこう返した。

「久しぶりだね」

会話はたったそれだけだった。

すれ違う時、ニシウラ君の顔が真っ赤なのが見えた。
照れくさいんだろうなあと思った。
事実、私も非常に照れくさかった。

それが私がニシウラ君と交わした最後の言葉だった。

二年生も、そして三年生もニシウラ君とクラスは離れたし、もちろん会ってもいない。

だけど、ニシウラ君に告白をしたことも、うっかり家に電話をかけてしまったことも、ラブレターの返事をもらえたことも。
キラキラした思い出として残っている。

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