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ドキドキ恋の予感、でもその恋はあかん!➁~今年もバレンタインとは無縁~
※これは1999年ぐらいの出来事です。
前回の続きです。
三上くんとは連絡先を交換した。
ちょうど1月頭に母と粘り強く交渉した結果、携帯電話を持てることになった。人生初携帯。TU-KAだった。
当時、携帯電話の会社が違うとメールができなかった……よね?(誰に聞いてるんだよ)少なくともDOKOMOとTU-KAはできなかったはず。
なので三上くんとは通話オンリーだった。
好きになったからには、ガンガンアプローチをする私。
攻撃は最大の防御! と言わんばかりによく電話をかけた。
というか何からの防御なんだよ……。
三上くんは、電話をすれば話し相手にはなってくれた。
でも、向こうからはかけてくれない。
冷たくあしらわれるわけではないけど、これ覚えがあるぞ……。
そうだ、なんかこう、血のつながった妹扱いみたいな……。
恋愛感情、カケラもないんだろうなあというのは思いつつも。
まあ、ほら、嫌われてはないし?
異性としても見られてないけど。
ある日、いつものように三上くんと話していたらこんなことを言われた。
「4月から忙しくなるから、こうしてゆっくり話せるのもあと少しだなあ」
しみじみと言われたが。
え、4月? あと2カ月しかないじゃん!
2カ月で振り向かせて三上くんと恋人同士になっている未来がまったく見えない!
なんかちょっと落ち込む……。
そして、今年もバレンタインとは無縁だった。
いやあ、その、中学の頃にあげたようとしたことはあるんだ。
中学一年生の頃は当日にチョコ用意したのに私が早退→肺炎で一週間入院。
中学二年生の時は、片思いの男子とケンカ中で渡しても拒否してもらってくれなかった。
中学三年、高校一年、二年は渡したい相手が先生で無理だったし。
高校三年、今年こそはバレンタインチョコを渡したい相手ができたのに。
そもそも会えそうもない。
遊びに誘ってものらりくらりとかわされてしまう。
気持ちには気づいているだろうから、二人で遊びに行く=デートだしなあ。
その気がないんだろうなあ、と思っていた。
バレンタインから数日過ぎたある日。
わたしは会うことになった。
スズちゃんとタダシくんの三人に。
三上くんはいない。
なんでそうなったのかというと、スズちゃんとタダシくんの三人でカラオケに行くことになったからだ。
どういう話の流れか忘れてしまったけど。
それにしてもカラオケ好きだねえ。
その日、スズちゃんは目いっぱいおしゃれをして、手作りのチョコレートを用意していた。
完全に恋する乙女だった。
スズちゃんとタダシくんはうまくいくだろう思った。
それは嬉しいのに、複雑な心境だった。
だって、私は……。
三上くんとは、どうにもならない気がする。
電話で話してはいるものの、ロマンチックな話にはならないし。
世間話だけだし。
三上くんは、完全にわたしを男友だちとして扱っているのは口調でわかった。
それでも、三上くんと付き合えて、スズちゃんとタダシくんもカップルになって。
それで、ダブルデートするんだ。絶対にするんだ。そしたら楽しい。
スズちゃんとタダシくん、わたしにとって大事な友だちがカップルになるのも嬉しいし、そこに三上くんという大好きな人が私の彼氏になってくれたら最高なのに……。
そう思って、ダブルデートの妄想ばかりしていた。
幸せな妄想でもしておかないと、この片思いは辛かったのだ。
まあ、楽しい片思いってそうそうない気がするけど。
帰り際に駅まで送ってくれたタダシくんに、スズちゃんはチョコを渡していた。
タダシくんはとても嬉しそうにしていた。
そして、私に「花からの義理チョコとかはないの?」と冗談っぽく聞いてきたのだ。
私「え? ないけど?」
タダシくん「薄情だな(笑)義理でもくれれば、お返しは三倍だったのに」
私「じゃあ渡せばよかったなー」
そんなふうに笑ったけれど、スズちゃんが本気でタダシくんを好きになったのを知って、渡せるわけがない。
お世話になっているという意味で、義理チョコとして渡すことも考えたけどさあ。
本命(三上くん)に渡せないのに、義理だけ用意できるほど、私は気が利くわけでも心の余裕もなかった。
そして、タダシくんは真面目な顔でこう言った。
「あのさ……詳しくは言えないんだけど、マジで三上はやめておけ」
そういったタダシくんは、怒っているようだった。
こういう場合、少女漫画的な展開だと「俺にしろよ!」みたいなパターンあるけど、そういう意味ではない。
これは、本気で三上くんに何かがある言い方だ。
元カノを忘れられない三上くんが、ヨリを戻しそうってこと?
たぶんタダシくんが言いたいのは、そういうことなんだろう。
でも、そんなこと、三上くんの口から一度も聞いてない。
まあ私には話さないのか……。それってどうなの。
なんか三上くんから誠実さが伝わってこない。
でも、その時は伝わらない誠実さを、気のせいということにした。
そして私は笑ってタダシくんにいったのだ。
「大丈夫だよ、相手にされてないし」
そう口にした途端、虚しくなってしまった。
言葉にすると、ぐさっとくる。
なんというブーメランを放ったんだ。
タダシくんが帰り、駅のホームでスズちゃんがわたしにこういった。
「大丈夫だよ。タダシくん、千世ちゃんのこと心配してるだけで、だからって三上くんに彼女ができたとか、そういうわけじゃないでしょ?」
スズちゃんは落ち込むわたしを、精一杯元気づけてくれた。
その気持ちがうれしかった。
もうスズちゃんとタダシくん、付き合えっちゃえよ!
そう思った。
スズちゃんは私にもチョコをくれて、先に来た電車に乗って帰っていった。
私が乗る電車は、まだ少し先だ。
駅のホームで、スズちゃんからもらったチョコを食べる。
すごく甘かった。
これがスズちゃんの、タダシくんへの想いなんだろうなあ。
この調子なら、この二人はうまくいきそうだ。
でも私は、三上くんをあきらめなきゃいけないんだろう。
振り向いてくれそうもないうえに、今日のタダシくんの忠告。
私がフラられるのも時間の問題だろう。
冷たい風が吹く駅のホームで、どうにもならない痛い心を抱えていた。
甘いのは口の中だけ。
だけどその数日後。
三上くんと電話をしていたら、彼からこう言われた。
「あのさ、来週末に二人で会わない?」
二人きりでドライブに行くことになったのだ。
急展開!
私はもちろん二つ返事でOKした。
デートだデートだ!
いやっほおおお!
急に真冬から春が来た気分だった。
だけど、あまりにも急展開過ぎて、正直いうと、戸惑いも大きかった。
それでも嬉しくて嬉しくてしかたがなかったなあ。
③につづきます。