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<短編小説>祠を壊して呪われた結果。
最近、ツイッターで祠を壊した話が流行(?)しているので、書いてみました。
思い付きで書いたので、とっちらかっている気がしますが、せっかく書いたので残しておきます(noteに直書きした)
※ホラー小説ではありません。
「あーあ、この祠、壊しちゃったんだ」
その声に振り返ると、高校生ぐらいの少女が立っていた。
真っ黒な長い髪の毛に白いワンピース姿。
まるで人形のような顔立ちで、血が通っていないように見えるから幽霊のように見えてしまう。
しかし、足はあるし靴もはいている。
少女は、ニヤッと笑って言う。
「しーらない」
俺は、ごくりと生唾を飲み込んだ。
それから足元に視線を落とす。
そこには、潰れた木箱のようなものがある。
これが祠だった。
祠は、「壊してくれ」と言わんばかりに脆いものだった。
実際、ちょっと蹴りを入れれば、あっけなく崩壊。
それ以前に、祠に蹴りなんか入れるなよって話だが。
まあ、それには色々と理由がある。
「なんかマズかったか?」
そう聞いてみると、少女は答える。
「それはそうでしょ」
「呪われるとか?」
「器物破損罪」
「ああ、そっちのほうの……」
「もちろん呪われるよ」
「もちろんなのか」
「なんで壊したのよ」
少女に聞かれ、俺は口ごもる。
25歳にもなって、一人旅で立ち寄った小さな村の祠を壊す。
ヤバい人間だと思われてもしかたがない。
しかし、こちらにもこちらの事情がある。
「呪いを解く方法、あるよ。ついてきて」
少女はなぜだか嬉しそうに、跳ねるように歩き出す。
少女は文子(あやこ)と名乗った。
年齢はひみつ、と言われたが、たぶん16,7歳ってところだろう。
彼女曰く、呪いを解く方法は、まずは文子ちゃんが紹介する店で食事を摂ること。
案内されたのは、ごくごく普通の定食屋だった。
店内は昔懐かしい、という雰囲気で化石みたいなテレビではお昼の番組が流れている。
そこで、焼き魚定食を注文してと言われたので、従った。
「ついでに私の分も。私はからあげ定食」
「まさか」
「なに?」
文子ちゃんが大きな瞳でこちらを見る。
「君の分も支払えと言うんじゃないんだろな?」
「もちのろん」
「それ言ってる人、俺の父親ぐらいだよ」
「とにかく、呪われたくなきゃ『煮魚定食』と、『から揚げ定食』を注文するの」
「あれ? 焼き魚定食じゃなかったか?」
「細かいこと気にしないでよ」
「適当だな、おい」
俺は苦笑いをしながら、焼き魚定食を食べた。
それがもう驚くほど美味しくて、これは呪いなんか吹き飛ぶなあと思ったんだ。
そんな簡単なものじゃないんだろうけど。
それから文子ちゃんに連れて行かれたのは、土産物屋。
そこで、木刀と龍のついたキーホルダーを買わされた。
「呪いに効くよー」と言われた。本当かよ。
呪いに効くらしい喫茶店でお茶もした(もちろん文子ちゃんの分も支払った)
喫茶店のコーヒーも、本格的で美味しくて。
今まで飲んだどのコーヒーよりも好きな味だった。
とてもいい店だったなあ。
店のマスターが、変な顔をしてこちらを見ているのを覗けば……。
そういや定食屋の店員も、俺のこと不思議そうに見てたっけ。
観光客が珍しいのだろうか。
「ねぇ、太郎さんさあ」
パフェをつつきながら文子ちゃんがそう聞いてくる。
「俺は、涼介(りょうすけ)な。さっきそう言った気がするけど」
「そうだっけ。涼介さんは、傷心旅行かなにか?」
「ただの一人旅だが」
「えー。傷心旅行じゃないの?」
「ちがうね、なんかごめんね」
「じゃあ、私が今日だけ元カノの代わりしてあげるよ」
「いや、だから傷心旅行じゃないし。元カノいたことないし」
「あっ、元カノの代わりにはなるけど、指一本触れないでね」
「会話がかみ合わねえ」
俺はそう言うと、コーヒーを飲みほした。
文子ちゃんは、なんとなく気まずそうにしてパフェを完食。
「さ、次が最後」
そう言う文子ちゃんの後について行く。
山と田んぼしかない景色の中をしばらく歩くと、一面の彼岸花畑が見えた。
赤や白の彼岸花が静かに風に揺れている。
なんだかこの世とあの世のはざまの場所にいるような、天国に近いような、幻想的な光景だった。
「すごい……」
俺が驚いて足を止めると、文子ちゃんも立ち止まる。
「でしょ。ここはね、村の人や、村に来てくれた人が少しでもここを気に入ってくれますように、ってみんなで球根を植えたの」
「そうか。それは正解だ。すごくきれいだ」
「まあ、わたしのほうがきれいだけどね」
「自分で言ってりゃ世話ないな」
俺がそう言うと、文子ちゃんは笑った。
最後だと案内されたのは、小さな旅館。
文子ちゃんは、旅館まで来ると俺に言う。
「私、ちゃんとできた?」
「ああ、うん。バッチリ」
「そっか。それならいいんだ」
「ありがとう」
「ううん。いいの、ちょっとでも楽しんでくれたらなら嬉しいの」
「大丈夫、楽しめたから」
俺がそう言って笑うと、文子ちゃんはホッとしたように笑う。
そして、俺は、一応、聞いてみた。
「それでこの旅館に泊まれば、俺の呪いは消えるんだな?」
「当たり前だのクラッカー」
「何時代の言葉だよ、それ」
俺が言うと、文子ちゃんはにっこり笑って、「じゃあね」と走って行ってしまった。
なんだか不思議な子だったな。
普通の人間とはどこか違う雰囲気をまとっていた。
旅館の部屋で荷物をおろすと、机の上に紙を置く。
そこには、『彼岸花村ツアーのご案内』とデカデカと書かれてある。
その下には、ツアーの手順が書かれていた。
①まずは村に入ってすぐの大きな看板のそばの祠を壊してください(蹴りが望ましいです)
➁そうすると、「あーあ、この祠、壊しちゃったんだ」と村人に言われます。※このような演出です。
そう、実はこれ、祠を壊したことから始まるツアーなのだ。
呪われたくなければついて来てくれ、という理由であちこち案内される、という内容。
だから俺が壊したのは、ツアー用の壊してもいい祠だ。
むしろ、あの祠を壊さないとイベントが発生しな仕様らしい。
変わったことしてる村があるとネットで見て、さっそく来てみたのだ。
そうしたら、思いのほか楽しめたし、飯はうまいし、景色はきれいだし。
それに……文子ちゃんは愉快で不思議な子だった。
ふと、先ほどの紙に目を通す。
そこにはこう書かれてある。
③案内係は、村役場の田中が担当します(三十代男性)
あれ?
田中さん(三十代男性)が来るはずだったのか?
じゃあ、さっきの文子ちゃんは? 代理?
なんとなくひっかかるものがあったが、その日は眠ることにした。
次の日、俺は朝食を済ませると旅館の女将さんに話しかけた。
文子ちゃんが村のどこにいるのか聞いてみたのだ。
彼女には昨日、田中さんの代わりに村を案内してもらった。
一度お礼をいいたい。どこへ行けば会えるのか、と聞いてみた。
すると、女将さんは怪訝そうな顔をする。
「本当に、その少女は文子と名乗ったんですか?」
「はい。整った顔立ちの、長い黒髪の……」
「そうですか……」
女将さんは頬に手を当て、それからこう続けた。
「文子さんなわけないんですよ」
「どういうことですか?」
「文子さんだなんて、ありえないんです」
女将さんの言葉に、嫌な予感がした。
「だって文子さんは、もう亡くなっているんですよ」
「え、亡くなった?! いつですか?」
「ええっと……確か50年ぐらい前じゃないかしら」
「50年?」
「ええ。私も母から聞いただけですから」
女将さんの言葉に、俺の頭は追いつかない。
文子ちゃんは50年前に亡くなってる? どういうことだ?
「確か、文子さんは、20歳の頃に子どもを産んだ直後に亡くなったとか」
女将さんの言葉に、俺は昨日のことを思い出す。
そういえば、文子ちゃんを高校生ぐらいだと思っていたけど、20歳でもぜんぜん通用するな。
じゃあ、あれは、
俺は、勇気を出して聞いてみた。
「じゃあ、昨日、俺が見たのは」
「きっと幽霊ですね」
女将さんはあっさりと答えた。
俺は幽霊に観光案内をされていた、ということなのか。
しかも50年も前に亡くなった人が幽霊として出てきて、わざわざ。
それとも、この地で幽霊として彷徨っているのだろうか。
案内をしてくれたのも、たまたま?
うーん、なんだか釈然としない。
俺はまた文子ちゃん……いや、文子さんと言うべきか。
文子さんに会えないかと思い、村をうろうろした。
怖いという思いはない。
むしろ、もう一度会いたい、いやなぜか会うべきだと思っている。
なぜかはわからないが……。
だから、この村にいれば、もう一度会える気がしたのだ。
でも、どこへ行っても文子さんはいなかった。
幽霊だから見えたことが奇跡のようなものだったのか。
ちなみに、俺には霊感はない。
でも、昨日見えたのだから、また見えるのだろうと楽観的に考えていた。
ぜんぜん見える気配がないけど。
ふと、いい香りがした。
目の前の建物身体。
建物はかわいらしい造りで、村の雰囲気からはちょっと浮いている。
「パン屋かあ」
俺は、そのパン屋に入ることにした。
文子さん探しはあきらめて、昼飯用のパンを買って、この村を出ようと思ったのだ。
「いらっしゃいませー」
店に入ったと同時に、明るい声に出迎えられる。
店員の女性を見て、俺は自分の目を疑った。
だって、その女性は、文子さんだったからだ。
「あの……文子さん?」
「いいえ、ちがいます」
女性はそういって、不思議そうな顔をする。
そうだよな。文子さんはもう亡くなっている。
文子さんのまとう人間とは思えない不思議なオーラを、この女性には感じない。
つまり、彼女は人間だということだ。
それにしても顔がそっくりだ……。
女性は少しだけ考えてから、こう言った。
「文子は、私の父方の祖母の名前です」
「えっ?」
「私も父も会ったことはないんですが、写真は見たことがあります」
そうか。孫がいるのか!
出産直後に亡くなったと旅館の女将さんも言ってたっけ。
女性は続ける。
「祖母はとてもきれいな人でした。私とそっくりです」
あ、うん。性格も似てる。
「実は、昨日、文子と名乗るあなたそっくりな女性に会ったんです」
「幽霊として出るって噂は聞いたことはありましたが」
女性はそれだけいうと、「お父さん、ちょっと出てくる」とだけ言ってエプロンを脱いだ。
「さ、行きましょう」
女性は、俺の腕をがっしり掴んで、店を出る。
「え、なに?! なんなんですか? どこへ?」
「これからデートするんですよ」
「デート?! なんで?」
おどろく俺に、女性はふうと息を吐いてから答える。
「仏壇の前で『二十五歳になったんで、結婚がしたいです。良い男性とめぐり合わせてください』ってお願いした次の日に、あなたがこの村に来たんです」
「それはなんというかその……」
突然のことに頭がついていかない。
俺は何か騙されてるんじゃないかとすら思う。
それから、女性の顔を見てハッとする。
ちょっとだけ笑ってからこう言う。
「俺は、山本涼介です。あなたは?」
「私は、葛西文菜です」
はにかんで笑う文菜さんの真横には。
ドヤ顔でピースをする文子さんが立っていた。
俺は、祠を壊して結婚相手を見つけたのだ。
キューピッドは、祖母の幽霊。
了