一目惚れしたブレスレットを10年以上、探し続けた話。
高校2年生の頃、300円ぐらいの……高くても500円ぐらいのブレスレットが、わたしたちの間で大流行していた。
ビーズでできたチープな感じのブレスレット。
それなら、腕につけていても、先生に怒られない。
遠目からだとヘアゴムとの区別つかないのだ。
おまけに、ビーズのブレスレットをつけていた生徒が、先生に捕まった時にこう言い張った。
「ヘアゴムです」
それで没収されずに、乗り切れたらしい。
それにより、オシャレしたい真っ盛りのわたしたちは、こぞってビーズのブレスレットをつけた。
値段もお財布に優しいので、どんどん気になるものを買った。
それと同時にわたしは、大量にビーズを増やし、自分でもブレスレットを作るようになる。
朝から晩まで、ビーズでブレスレットを作っていたこともあった。
楽しいのだが、「これだ!」というブレスレットが完成しない。
17歳の初夏の日。
体育の授業は、隣のクラスと合同の授業だった。
隣のクラスの、かわいくてオシャレなリンちゃん(仮名)が、ブレスレットをつけていた。
そのブレスレットが、はちゃめちゃにかわいかった。
一目惚れに近かった。
ブレスレットに、一目惚れをしたのだ。
薄いピンクと濃いピンクのビーズが交互についている数珠タイプのブレスレット。
色合いが絶妙にかわいい!
私もこれ欲しい!
そう思ったが、リンちゃんは気さく話しかけるような仲ではなかった。
それに、「すぐに似たようなブレスレットは見つかるだろう」と思っていたのだ。
それ以来、雑貨屋とかアクセサリーショップを覗いて、リンちゃんが身につけていたようなブレスレットを探す。
当時はインターネットがない時代。
欲しいものは自分の記憶を頼りに、自分の足で探すしかない。
あのブレスレットは、なかなか見つからなかった。
だけど、「まあいずれ見つかるだろう」と軽く考えていたのだ。
リンちゃんがしていたブレスレットを探して、1年が経った。
同じようなブレスレットをしていた子を見つけた。
ちがうクラスの子だったが、いっしょに補修していたから話しかけることはできた。
しかし、そのブレスレットが、リンちゃんが身に着けたものとは、微妙に違う気がした。
わたしの記憶は一年でだいぶ薄れてしまっていたのだ。
その頃、リンちゃんは、あのブレスレットを身につけていなかった。
それどころか一カ月もしないうちに、別のブレスレットをつけているので、わたしがあのブレスレットを見たのは2回程度だった。
だから、補修で出会った彼女が身につけていたブレスレットが、わたしが探し求めていたものなのか。
確信がなかった。
それと同時に、こんな感情も生まれた。
「じゃあ似たようなものがどこかに売っているんだろう」
そんなふうに安心していたのだ。
高校3年生の頃も、出かけるたびにあのブレスレットを探した。
だけど、似たようなものすらなかった。
わたしの中の記憶も薄れ、もう見つからないのかなあと思っていた。
19歳の夏の日。
読んでいたファッション雑誌で、浴衣特集があった。
その浴衣を着ていたモデルの子の腕に、あのブレスレットがあったのだ。
突然の再会に、戸惑いさえ覚えた。
そのブレスレットは、ピンクだけではなく、青、黄色の3色があった。
販売しているのは、セシルマクビーというブランドだった。
値段は380円とかそのぐらいだったはず。
ここからブレスレットを探したい熱が再燃。
見つからない、とあきらめていたが、ゲットできるかもしれない。
しかし、人生、そう甘くはなかった。
名古屋にセシルマクビーはなかった。
少なくとも、わたしが行ける範囲ではないことが判明。
なので、雑誌に電話をしてみたが、「雑誌で扱った商品はすぐに売り切れてしまうので」ということで在庫がないと言われた。
そんな……。
ようやく再会できたと思ったのに……。
でも、わたしはあきらめきれなかった。
似たようなブレスレットを探すことにしたのだ。
そのうち、わたしが雑貨屋でキョロキョロしていると、親友が「あのブレスレット探してるの?」と聞いてくるようになったほど。
でも、いくら探しても、似たようなものすらない。
それでもわたしは、あきらめきれなかった。
リンちゃんというかわいい子がつけていたから、よけいに輝いて見えたのかもしれない。
それでも、わたしは、あの一目惚れしたブレスレットが欲しかった。
20歳を過ぎた頃、わたしはあのブレスレットに似たようなものを作ることにした。
なので、ピンクのビーズばかりが増えていった。
しかも、似たような形のものばかり。
でも、作っても作っても、あのブレスレットにはならない。
似たものにすらならなかった。
それならあきらめきれそうなものだが。
なぜか、手に入らなそうだと思えば思うほど、欲しくなる。
だから、わたしのブレスレットの執着は、どんどんエスカレートしていった。
あのブレスレットと似たようなビーズを買うのはもちろん。
あのブレスレットの似たような色のビーズが、雑貨屋で見かけたキーホルダーについていたことがある。
ただの飾りでついていた2,3個のビーズでさえ、わたしのとって宝のように見えるのだ。
そのキーホルダーを、いくつか買って、ビーズの部分だけ取りはずしたこともある。
ビーズの部分を外してもキーホルダーとして使えるので、気兼ねなくビーズを取り外した。でも、いざブレスレットにしてみると、色合いがだいぶちがった。
そんなことを繰り返していたので、ビーズだけがどんどんたまっていく。
22歳ぐらいの頃。
本屋であのブレスレットっぽいものを身に着けている女性を見た。
いっしょにいた事情を知る友達に、「どこで買ったんですか? って聞いてみちゃえばいいのに」と言われた。
しかし、さすがに初対面で聞けない。
なによりも、わたしはもう完全に自信がなかった。
雑誌のブレスレットなのか。
そもそもあの雑誌のブレスレットは、リンちゃんが身につけていたものなのか。
記憶がかなりぼんやりしていた。
結婚後も、わたしはあのブレスレットにこだわった。
雑貨屋、アクセサリーショップ、百円ショップ。
あちこちでビーズやブレスレットを見るたびに、あのブレスレットを探す。
しかし、ない。
似たようなブレスレットは何度も何度も作った。
しかし、完成したものを見ると、「これじゃない」と思うのだ。
ネットでも散々、検索した。
しかし、あのブレスレットの情報は得られなかった。
もう、年月が経ち過ぎているのだ。
わたしの検索の仕方が悪いのかもしれないが……。
ピンクのビーズは増えていく一方。
20代前半で大きな瓶2つ、クッキー箱3箱に入る量のビーズを所持していた。
しかも、これでも結婚前に処分したほうだ。
ビーズを売っている店で、これだと思う色を見つけて買う→作るとちがう。
そんなことばかり繰り返した。
ピンクの絶妙な色のちがいを見分けることは、得意になった(どこにも活かせない特技)
30代前半の頃。
わたしはとうとう、あのブレスレットと似たようなブレスレットを再現することに成功した。
でも、やはり全体の色が少し濃い気がする。
ただ、17歳と19歳に見たきりのブレスレットの色を鮮明に覚えてはいないので、正解は分からない。
わたしは、これを作ったことにより、満足した。
今までで一番、似たものができたからだ。
そして、一度も身につけていない。
もうブレスレットを身につける習慣がなくなってしまったのだ。
作ったのに、非常にもったいない。
このブレスレット、姪っ子にあげたら喜ぶかもしれないが。
こんな狂気じみた執念の末に作ったブレスレット、渡していいものか。
そもそも、彼女の趣味と合わない可能性もある。
それになによりも、今まで一番の再現度の高いブレスレットだ。
これを手放したら後悔するかもしれない、と思っている。
身に着けないのに、何をいってるんだろう……。
そんなわけで、わたしのブレスレット探しは一旦、落ち着いた。
だけど、わたしはこの色合いにまだ執着がある。
ここ数年は、ビーズのブレスレットを作ることから離れていた。
しかし、手芸用品店でも、百円ショップでも、雑貨屋でも、ビーズのコーナーは必ずチェックしている。
最近、手芸用品店でのアクリルビーズの扱いが減っている気がした。
昔はあんなにあったのに……。
でも、その昔はもう、何十年の前だ。
わたしは、ずっと昔のあのブレスレットにこだわったまま。
とはいえ、わたしのブレスレット探しは終わったのだ。
もう、「これ以上、似たものは作れない」というものを完成させた。
それなのに、まだわたしはあの色合いを無意識のうちに探していることがある。
まだ、わたしの「ブレスレット探し」は続いているのだ。
今度、天然石で似たようなものを探すか、もしくは作ってみようかと思う。
天然石のブレスレットなら、お守り代わりに身につけるかもしれない。
天然石は19歳の頃に異様にハマったので……。
とか言いつつ、身につけないかもしれないが。
とにかく探してみるもしくは、作ってみないと分からない。
ブレスレット探しの旅は、まだまだ続く!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?