合コンと書いて「地獄」と読む。
「千世ちゃん、また合コンしない?」
人生初めての合コンから、1,2週間経過した頃だろうか。
高校1年生の冬だった。
前回、合コンに誘ってくれたユミちゃん(仮名)がそう聞いてきた。
前回の合コン↓
正直、もう嫌だ。
そもそも、私は隣のクラスの近澤先生に片思いしてる。
先生は既婚者だから、この恋を実らそうとは思わない。
いや、実るなんて考えてもいない。
だけど、こっそり片思いをするぐらいならいいだろうと思っていた。
先生よりも……先生ぐらいに好きになれる人が現われるまで。
それまで片思いをするんだ、と思っていた。
だから、理想の男性ってのも先生が基準。
先生以上のなんて、贅沢は言わない。
せめて、先生ぐらいの男性じゃないと嫌だ。
でも、そんな人がいるとも思えない。
だいぶ、こじらせていた。
それに、前回の合コンで、みんなカップルになっている。
私を除いて。
もういいってばー。
今回は絶対に断ろう。
そう決意をした。
すると、ユミちゃんはこう言ったのだ。
「カラオケオールなんだけど、どう?」
「行く!」
即答してしまった……。
だって、カラオケ―ル、してみたかった。
人生初のカラオケオール。
人生二度目の合コンであった。
メンバーは遊園地合コンと同じメンバー。
プラスで、新男性。
彼を川田くんとする(仮名)
ユミが気を利かせて、新メンバーを入れてくれたんだろう。
でも、なんだか申し訳ない。
川田くんだって、もっとなんかこう、かわいらしい子がいいだろうに。
私で申し訳ない……。
そもそも私、先生ぐらい素敵な男性じゃないと嫌だ。
少なくとも自分より10歳は上じゃないとな。
※ちなみに合コンの男性陣は3つ上。
やはり、だいぶこじらせていた私。
合コン当日。
待ち合わせ場所に集合した。
ユミちゃんと彼氏、ユミちゃんの友だちのカップル二組。
そして、川田くん。
これ、合コンじゃなくて、ただ3組のカップルでカラオケオールをしたかっただけなのでは?
まあ、カラオケオールにつられてしまったのは私も同じ。
最初に食事をした。
当時はかなり痩せてたくせに、ダイエットをしていた私。
そんな私に、川田くんは言う。
「食べなきゃダメだよ。体力がつかないよ」
彼は看護学校生だそうだ。
だから、偏食の私へのアドバイスは、非常に的を射ていた。
基本的に、川田くんは良い人だった。
背が高くスラッとしていて、たぶん顔もカッコいい。
たぶん、というのは、ユミちゃんたちがそう言ってたからだ。
だけど、私は川田くんの顔がちゃんと認識できなかった。
ブサイクとか、好みではないとか、そういうことではない。
私はだいぶカッコいいという感覚がズレていた。
だけど、そういうことを抜きにしても。
なんかもうよく分からなかった。
たぶん、私は近澤先生とか、あとアラシヤマ先生とか、自分がとても好きになった人の顔以外、うまく認識できないんだと思った。
それはそれでまずいな、とカラオケに向かう途中の車窓を見て思った。
でも、どうしようもない。
川田くんは、カラオケの最初の方で帰って行った。
明日はバイトで早いんだよ、と。
もちろん、川田くんと連絡先を交換するなどはしていない。
そういう雰囲気でもなかったしな。
しかも、私の当時の連絡手段は家電だしな……。
携帯とかPHSとか持ってなかった。
そして、ここから地獄のカラオケオールが始まった。
私は歌っていてふと気づく。
みんな歌ってない。
カップルたちがイチャイチャしてる。
カラオケなら歌えよー!
私はカラオケオールの気分で、歌う気満々だ!
でも、一向にカップルたちは歌を入れない。
ふたりの世界×3カップル分。
時刻は午後23時前。
もう帰りたい……。
でも、もう駅に行っても電車ない……。
どうせなら、ひとりカラオケオールでも開いてやろうかと思った。
だけど、カップルたちの圧に負けてしまった。
たまに思い出したように、誰かが曲を入れる。
そのたびに、私も曲を入れた。
だけど、すぐにカップルたちのイチャイチャした空間になる。
いやこれ何地獄?
あーあ、こんなことなら来なきゃよかった。
もうユミちゃんの合コンの誘いは、絶対に断ろう。
ってゆーか、人生で合コンに行くのはもうやめよう。
そう心に誓う16歳。
ちなみに、私の人生で合コンという名のものは後に2回ほどあったが、やはり地獄のようなものだった。
合コンって書いて地獄って読むの?
帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい。
やっぱ、近澤先生以外の男性はダメだ。
近澤先生以外の男性の存在価値がわからん。
どんどん闇落ちしていく私。
そうこうしているうちに、午前1時になっていた。
周囲はもう眠っている。
私も眠ることにした。
早く朝になって帰りたい。
……眠れない。
目を閉じていても、ぜんぜん眠れなかった。
カラオケのソファで座ったまま眠るって難しい。
それでも目を閉じていると……。
「俺さあ、アイのこと本当かわいいなって思うんだよな」
その声に薄目を開けると、アイちゃんの彼氏が、ユキちゃんの彼氏に小声で話しているところだった。
ユミちゃんもその彼氏も、アイちゃんもユキちゃんも眠っていた。
起きて話しているのは、アイちゃんの彼氏とユキちゃんの彼氏だけだ。
なんだ、ただの惚気か。
寝言かと思った。
アイちゃんの彼氏は続ける。
「俺さ、初めてアイを見た時にさ、すっげぇかわいい、天使って思ったんだ」
さらにアイちゃんの彼氏は続ける。
「でも、付き合ってみてわかった。世界で一番かわいい」
そうかそうか。
でも、聞いてるこっちがなんか恥ずかしいぞ。
まあ、寝てると思ってるんだろうけど。
アイちゃんの彼氏は続ける。
「俺は、一生アイを愛する」
ねぇ、私起きてるんだけど?
そういうの本人と二人きりの時に言ったほうが良くない?
ってゆーか、私は寝たふりだけど、他の人も寝たふりしてるだけかもよ?
そんなことは言えず、寝たフリを続けた。
それから10分もしないうちに。
アイちゃんが起きた。
それからアイちゃんは私たちにいう。
「みんなー、トイレいかない?」
アイちゃんはにっこりと笑顔でいう。
嫌な予感。
これはいわゆる、「話したいことがあるから女子全員、トイレに来い」という意味だ。
トイレに行った途端。
「なにが『世界一かわいい』だよ! ふざけんな!」
アイちゃんが鏡に向かって、怒鳴った。
ひぃぃぃぃ。
何事?!
ってゆーか、やっぱみんな寝たフリだったらしい。
どうも、アイちゃんの彼氏が、ユミちゃんの彼氏の悪口を言っていたらしい。
イジメみたいな陰湿なこともしていたそうだ。
それはあかんわ(似非関西弁)
教訓:みんな寝てるなと思った時は、みんな起きてる。
そんなこんなで朝になり、マックへ。
ようやく帰れるー。
朝マックを食べながら思う。
あーあ、地獄みたいな合コンだったなあ。
明日は近澤先生に会えるかなあ。
顔を見たら、嫌な気持ちとか全部消えそう。
先生への想いを強めただけの、合コンだった。
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