ココちゃんとトトとカカ #20 気をつけて!子供と豆
《これはトトさんと、私カカさん。そしてココちゃん2歳の暮らしのお話》
「昨日、大丈夫だった?」
後ろからポンと肩を叩いて、声をかけてきたのは菊池さんだった。
私が知らない頃のトトさんを知っているからか、すごく親しく話しかけてくれる。
私のお弁当を覗き込み「今日も美味しそー。さっすが、トト。いい?ここ座って」なんて言いながら、
右手に持った紙袋を見せて「うちの近所のパン屋さん、有名なのよ」と笑った。
「で、昨日は大丈夫だったの?電話、トトだったんでしょ?
すっごい焦ってたから何かあったのかと思って心配してたのよ」菊池さんをチラッと見て、私に「話さない方がいいよ」と目配せしてきたのは、同期のチカ。
「うんうん、わかってるって」と目で合図する。菊池さんの噂好きは社内でも有名だもん。
「そのパン美味しそうですね。私、ハード系のパンが好きなんですよ〜」
チカが話題を変えてウインクした。
「私も!私もパンすきなんですよ、美味しそうですね〜」
チカの話題に乗っかったけど、ちょっとぎこちなかったかな。
「そうなの?みんなパンが好きなんだ〜。そういえば、デザインの徳井さんもかなりのパン好きで、パンのインスタやってるらしいよ。奥様がパティシエで、
自宅でお店をしてるんだって。男の子3人で、これがまたやんちゃらしいのよ」
「へぇ〜」
「そうなんですか」
「うん、次男がもう小学生なんだけど、3歳ぐらいの時にタバコを食べて夜間救急に駆け込んだらしいわ。
あれって、知ってる?逆さ吊りにして吐かせたりするらしいよ。知り合いの医者が言ってたけど、親にそれを見せるようにしてるんだって。2度とこんなことにならないようにしようと思わせるために。
徳井さんちの次男もそんなことしたのかは知らないけど。怖いよね。子どもって、何するかわかんないもんね」
菊池さんの話は、10のうち9ぐらい聞き流すことが多いけど、今回ばかりは、10のうち9ぐらいズキンときた。昨夜の我が家も似たような大騒動があったばかり。
チカが気まずそうな顔をしている。あぁ…残りの1ズキンがプラスされて美味しいお弁当が喉を通らなくなってしまったじゃん。
お弁当の半分を残したせいか、17時前にお腹が空いてきた。
デスクの引き出しに隠しているチョコを一つ食べて誤魔化す。チョコがとけて、中からアーモンドが出てきた。昨日の豆事件を思い出し、奥歯でポリッと小さく噛み砕いた。忘れよう。終わったことだし。
18時。お腹すいたよぉ。
帰りの電車で昨夜のことを思い出し、ちょっと涙が出そうになった。
仕事やめてココちゃんのことをちゃんと見る方がいいのかな。とか考えちゃって。
トトさんもリモートしながら子どもを見るのって大変だもん。
それに、昨日のようなことがこれからも起きるかもしれないし。
「ただいま」
リビングから聞こえてくるトトさんとココちゃんの楽しそうな笑い声が玄関まで聞こえてきた。
帰ってきたことに気がついていないみたい。
「ただいま」リビングのドアを開けると、そこにはピッチピチの全身タイツ姿の赤鬼と、紙袋で作った鬼の帽子(お面なのかも)を被ったココちゃんが相撲ごっこをしていた。
んーなんてカオス。
「おっ、おかえりー。やっと帰ってきたな」
「トトさんと、力の練習したから、ココちゃん強い鬼やで」
「昨日できなかったから、豆まきしよか、その後、夕食にしよう」
豆の小袋が10個ぐらい入ったかごを渡され、ピッチピチの赤鬼とモッチモチのちび鬼が
「さぁ来い!!」と部屋を走り回る。
楽しそうなココちゃんの笑顔と、全力でココちゃんと遊ぶトトさんに豆を投げながら
こういう失敗をしながら、父は父に、母は母になっていくんだね。
ピッチピチの全身タイツ男
元気が出たよ。いつもありがとう。
子育てと仕事を天秤にかけて、どちらが大事?って自問自答することばかり。「うちはうち」
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