人生で一番満たされていたとき
手の中に、未来のカケラを握っていた。
曖昧な色のそれは、オーロラのように煌めいて、私の心をいつも躍らせた。時々は揺らめいて不安にさせられることもあったけれど、強い力で希望へ導いてくれるものだった。
あの頃、私は自分を信じていた。
自分の可能性を、信じていた。
私はその時代を、人生の一番満たされていた時だったと思っている。
それから数年が経って、環境は大きく変わった。
旬を過ぎてからは、ひたすら悪あがきするだけで
あの頃難なく超えていた壁を、随分高く感じる日々だった。
一緒に夢見ていた仲間は離れ、自分だけが取り残された。
***
失くしたものばかりだな、と思う。
同年代が、新しい家族や、マイホームや、昇進や、なんだか暖かくて重厚そうなものを手にしていくのをぼうっと眺めながら、
最愛の父が亡くなり、愛していた猫が順番に亡くなり、仲間がいなくなって、仕事もなくなった。そんな自分を振り返ると、可笑しくなってくる。
私は、何も増えてない、減っていくばかりだな。
自信を失い、若さを失い、この先に何の希望があるのだろうか。
「今までより良いこと」なんてあるんだろうか。
そう考えると気が滅入りそうになる。
でも、腐ってはいけないんだ。
人生の1番の盛り上がりは、必ずしも若い頃ではない可能性だってあるんだ。長い道のりの中、どのポイントでピークがやってくるかなんて分からないんだから。
そう自分に言い聞かせる。
エリック・カールだって、「はらぺこあおむし」で一躍有名になったのは、40歳の時だったという。
大丈夫。大丈夫。私だって。
人生は、まだまだこれから。
***
あの頃の光は本当にキラキラしていて、絶対にこれがピークだろうと思わずにいられないほど美しかったけれど、それを超えるまだ見ぬ光を少しだけ信じて、日々の中の淡い光を少しずつ集めていこう。
そうすればきっと、この手の中にも光のカケラが煌めくかもしれない。
私はまだ腐ってはいけない。
腐ってたまるものか。
一日の終わりに、朝焼けに包まれる都会のワンルームで、毎日小さく決意する。