『ごちそうさまでした』
南青山 SUSHI BAR YASUDA
駒沢公園内のジムで出会った安田さん。
NYで活躍された有名な鮨職人とは
知らず、僕は安田さんからトレーニングを教わっていた。
2011年12月1日
NYのお店を引退し、日本での新たなチャレンジの地に
選んだ南青山。
お客第1号として伺ったのが9年前。
あれから何度お店を訪ねただろうか。
2020年10月31日
約9年間の営業最終日。
僕は最後の勇姿を見届けるべく
1人で安田さんの前に座った。
隣には元スタッフのアッキーが
最終日に駆けつけていた。
先ずはアッキーと乾杯。
「じゃあ、花山さん、いつもの様に始めますね。」
安田さんはそう言うと僕のお鮨を握り始める。
「僕の鮨は酢飯が重要」
何度も安田さんが言ってきたその台詞。
噛みしめる度に、お米の甘みが口に広がる。
在り来たりな言葉だが、今日も美味しい。
隣には海外のお客様。
安田さんは英語で会話をしつつ、
時々挟むジョークでみんな楽しそうだ。
美味しいお鮨を食べるチャンスは誰でもあるだろう。
但し、美味しくて楽しいお鮨は中々出会えない。
美味しいお鮨を食べながら、ゲラゲラ笑うなんて最高の贅沢。
BGMの無い店内にはいつも安田さんのお鮨を楽しむ
お客様の笑い声が絶えないのだ。
そうそう、どうしても伝えておきたいことがある。
「鰻の梅きゅう」
俗に言う、食べ合わせの悪い組み合わせ鰻と梅干
平賀源内が提唱したと言われるそれは、根拠がないと
真っ向から否定した安田さん。
実は鰻屋が安田さんの職人としてのルーツでもあり
鰻の握りは何度も食べさせて頂いたが、これには驚いた。
鰻の香ばしさに梅の酸味、きゅうりの食感が何とも言えない
絶妙なバランス、口の中で三者が楽しんでいる様だ。
一通りのコースを食べ終えてから追加で握ってもらうが
安田さんは最後にかんぴょうの細巻きを用意してくれた。
前々回だっただろうか。
「花山さん、かんぴょう食べますか?」
僕はかんぴょうが大好きなのだが、正直リクエストしていいものか迷っていた。もちろんそれ以外のお鮨が美味しいので
わざわざ言う必要もなかった。
一般的にかんぴょうは醤油もつけずそのまま食べる事が
多いのではないだろうか。甘めの味付けから
子供が好むイメージもある。
だが、安田さんのそれは違う。
かんぴょうと共に厳選されたわさびを少々多めに。
3時間かけて煮るかんぴょうの食感は硬すぎず、柔らかすぎず。
昔、かんぴょうを頼む事がお会計の合図と知って
格好つけて頼んでみた事もある。でもその意味がやっと
わかった。
このかんぴょうの味わいを口に残しておきたい。この味で終わりたい。魚たちには悪いが、そう言う意味なんだと僕は勝手に理解した。
お店の営業は既に終わったが、安田さんの挑戦は
まだ終わらない。
次のプランの為、早速準備を始めたそうだ。
安田直道様
僕はお鮨は楽しく食べるものと教わりました。
僕はその腕の筋肉から想像できない繊細なお鮨たちに
いつも驚かされました。
僕はその知識という引き出しの多さに毎回感心させられました。
僕はあなたのお鮨が大好きです。
9年間ありがとうございました。
今後ともよろしくお願いします。
花山勇志
おしまい