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スモールM&A(事業譲渡)のプロセスと成功の秘訣
私は、自分で立ち上げたWebサービスと小売店という2つの事業を、それぞれ別の企業に事業譲渡という形で売却しました。譲渡金額は合計で5,000万円。「スモールM&A」と呼ばれる規模の譲渡です。
今回は、事業譲渡に至る背景から交渉のプロセス、そして売却後の現在までを、時間軸に沿ってお話しします。
事業譲渡を決断した理由とタイミング
私は飽きっぽい性格で、同じことをやり続けるのが苦手です。26歳でWebデザイン会社を立ち上げ、10年が経過したタイミングで、新しい挑戦や地方移住をしたいと考えるようになり、それが事業譲渡を決断する大きな理由でした。
また、Web業界は変化が早く、特に自社サイト(Webサービス)は競合や技術進化の影響を強く受けます。コロナ明け後には売上が減少傾向にあり、「売却するなら今しかない」と直感しました。このタイミングでの決断は、自分にとって最善の選択だったと思っています。
譲渡先との出会い
まず、M&A仲介会社に相談しましたが、5,000万円程度の規模では仲介手数料が少なく、あまり積極的に動いてもらえませんでした。そこで、自分の人脈を活用し、直接知り合いに声をかけて譲渡先を探すことにしました。
運が良いことに、Webサービスも小売店も、1回の声かけで「ぜひ買いたい」と言ってくれる会社に出会いました。この成功の背景には、事業ごとのPL(損益計算書)を徹底管理していたことがあります。
私は創業当初から税理士に「クリーンな経営をしたい」と相談し、会社と個人の収支を明確に分けていました。これにより、買い手が数字を信頼しやすく、スムーズな交渉が可能になったのです。
特にスモールM&Aでは、事業の透明性が非常に重要です。会社と個人の経費が混同していたり、節税対策が過剰だと、不信感を与えてしまいます。この点をクリアにしていたことが、大きな強みになりました。
金額交渉
譲渡先が見つかり、いざ金額交渉へ。
どちらの事業も、最初に提示された金額は私の想定より低かったため、粘り強く交渉しました。
スモールM&Aでは、将来の成長性よりも直近の営業利益を基準に評価されることが多いです。今回は以下のような計算式で金額が決まりました:
Webサービス: 直近1年間の営業利益が800万円 → 4.75倍で3,800万円
小売店: 直近1年間の営業利益が400万円 → 3倍で1,200万円
合計で5,000万円の売却額となりました。この金額が「シビア」と感じる方もいるかもしれませんが、私にとっては、今後4~5年かけて得る予定の利益を一度に手にした形です。
また、会社全体を売却するわけではなく、事業譲渡の形式を取ったため、会社にたまった内部留保はそのまま自分の資産となり、十分満足できる金額でした。
契約締結
金額がまとまれば、次は契約書の締結です。
幸いなことに、Webサービスも小売店も、売り手に不利な条項はなく、買い手・売り手双方が納得できる内容で契約を結ぶことができました。このプロセスは非常にスムーズに進みました。
事業譲渡後の引き継ぎ
Webサービスも小売店も、それぞれ3ヶ月間の引き継ぎ期間を設けました。
引き継ぎでは、マニュアルを作成し、各オペレーションを誰でもわかるようにまとめました。また、必要な業務については、対面で買い手企業のスタッフに説明しながら進めました。
最初の1ヶ月は買い手側も不慣れで多くの質問がありましたが、3ヶ月目にはすべての業務を買い手側が自分たちで回せるようになりました。この期間を丁寧に対応したことで、引き継ぎ後も良好な関係が続いています。
引き継ぎ期間終了後の現在
小売店
引き継ぎ期間終了後、完全に譲渡先企業による運営に移行し、私は完全に手を離しました。
Webサービス
Webサービスについては、譲渡先企業の社内リソースが限られているため、私は業務委託という形で引き続き関わっています。具体的には、コーディングやシステム開発をサポートしています。
これまで自分で育ててきた事業が、新しい社長のもとでさらに成長していく様子を間近で見られるのは、とても嬉しい経験です。まるで親元を離れた子どもの成長を見守るような気持ちです。
まとめ
スモールM&Aは、決して大規模な案件ではありませんが、適切な準備と誠実な経営が成功の鍵になります。私は10年間、事業ごとの数字管理を徹底し、クリーンな経営を心がけたことで、スムーズな事業譲渡を実現できました。
今回の譲渡は、私のキャリアの一つの区切りであり、新しい挑戦への第一歩でもあります。この経験が、スモールビジネスを運営する他の方々の参考になれば幸いです。