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ロリコンオーナーのキャンプに参加した話

ほんの少しのフェイクを混ぜた実話。

何をされたとかもなく、訴えたいとかでもなく、こんなことがあったよ、という話です。

はじめに

2000年代。何回か地方の子どもキャンプに参加しました。

小学3年生のわたしは、口数が少なくて、空想世界に入り込んでぼーっとしているタイプの子どもでした。
自分の意見を親に言えず、黙って受け入れた記憶がたくさんあります。
キャンプに参加した経緯は全く覚えていないですが、おそらく親のすすめるまま、よくわからないで参加したように思います。

参加者は小学1年生から中学3年生くらいの子どもがメインで、数人だけ大学生もいました。
子どもたちは全国から30-40人くらいが集まっていて、ほとんどが女子。
大人は、キャンプ場のオーナー、その息子、この2人しか見た記憶がありません。

キャンプは長期休みの度に開催されるので、中には毎回参加している常連もいました。
軽い喧嘩はあっても、子ども同士でのいがみ合いや仲間はずれなどはなく、みんな元気で優しい子ばかり。
年上のお姉さんたちが積極的に年下の面倒を見てくれたので、内気なわたしも毎回楽しい共同生活を送ることができました。
キャンプでの思い出は、楽しいものとして今も記憶に残っています。


プレハブ小屋とお風呂場の位置関係

オーナーのことは、とにかく怖かったと記憶しています。
顔は常にムスッとしているし、声は低くて大きいし、怒鳴るし、話が長くて説教もいやみったらしい。
でもこのキャンプでオーナーは絶対であり、誰も反抗しませんでした。
とうぜん、子どもたちには嫌われていました。
オーナーが不在でその息子が指揮を取る日はみんなウキウキしていました。
おそらく、オーナーは怖いし近寄りたくない、というのが子どもたちの総意だったと思います。

キャンプ場の敷地内には、参加者が生活するゲストハウスと、プール、アスレチック、プレハブ小屋、少し離れたところにレストランがありました。
常連の子たちが、オーナーの家族はゲストハウスの別棟に住んでいて、プレハブ小屋がオーナーの部屋なのだと教えてくれました。
なんで離れて暮らしてるんだろう、ひょっとして冗談かな、と思いましたが、その後、オーナーがプレハブ小屋に出入りしているところを実際に見て、本当に部屋なんだと納得しました。


毎晩、班ごとに交代制でお風呂に入りました。
大浴場ではなく、5-6人でいっせいに入るには少し狭いお風呂には、窓が1つありました。

「待って、窓閉める」

入るなり、わたしより1歳年上の常連の子がそう言ってそっと窓を閉めました。
それから声を潜めてこう言いました。

「この窓から、オーナーのプレハブが見えるでしょ。ほら、窓がついてる。オーナーね、あの部屋からこっち見るんだよ」

驚きました。
オーナーは厳格な、70歳くらいのおじいさんです。
そんな人が覗きをするなんて小3のわたしの常識では考えられませんでした。
だから心の中で、そんなことないでしょ、と思ったのですが、

「あのプレハブだけ他の建物より新しいでしょ。このお風呂場がちょうど見えるように、オーナーがあの場所に後から建てたんだよ」

彼女はいたって真面目なトーンでそう説明を続けます。

低学年で初参加の子が無邪気に言いました。

「えー!じゃあ大学生のお姉さんたち大変だね!おっぱいおっきいもん!」

本当だねー、やだー、なんて言い合ってこの話は終わりました。


わたしたちはこのとき、「自分たちは子どもだから性の対象にはならない」と思っていたのです。


プールの時間だけ使われるカメラ

夏のキャンプでは、何日目かにプールで自由に遊んでいい時間がありました。
みんなこの時間が楽しみで、お喋りしながら水着に着替えていたときのこと。
中学生くらいのお姉さんが1人、着替えないで更衣室の隅に座っていました。
それに気が付いた年少の子どもがたずねます。

「プール見学なの?」
「うん、オーナーに見られたくないもん」
「あー、わかる」

同意したのは既に着替え終えていた、やはり中学生くらいのお姉さんでした。
わたしはここでも「お姉さんになるとそういうこともあるのか」「あのオーナーがそんなことをするだろうか」とのんきに思うだけで、
いざプールを目にしたら更衣室のそんな会話はすっかり忘れてしまいました。

しばらく周りが見えないくらい夢中で遊んでいましたが、ふとプールサイドに目をやると、オーナーが座っていて、カメラレンズを覗き込んでいます。
大きくてごつごつした、立派そうなカメラ。
距離があったので明確に誰を撮っているのかはわからないけど、カメラはプールで遊ぶ子どもたちに向けられていました。
撮るよー、などの言葉は一言もかけられていません。

わたしの視線に気が付いたのか、班員の1人が言いました。

「あ、オーナーまた女の子の写真撮ってる」
「え?」
「オーナー、女の子好きだからさ」

この言葉の意味を当時のわたしは理解できませんでした。きっとぽかんとしていたと思います。

オーナーがカメラを持っているところを見たのはその1度きりでした。


歳の小さい順に

夏も冬も、キャンプで過ごす最後の夜は、レストランで食事をとる決まりでした。
それまでの泥だらけのアウトドア生活とはうってかわって、男子はスーツ、女子は綺麗なワンピースに身を包みます。
小さい子どもたちは代わる代わるお姉さんたちにヘアセットをしてもらって、キャッキャッと楽しんでいました。
また、初参加者はワクワクしながら「美味しいかな?」「一緒に座れるかな?」などと話していました。
それに対して、常連の姉妹が答えてくれました。

「〇〇ちゃんはきっとオーナーと同じテーブルだよ」
「そうだね。多分初めての子はみんな真ん中テーブルじゃない?」
「あと小さい子ね。わたしは多分その隣のテーブル」
「わたしももう真ん中テーブルじゃないかな?」
「あんたはまだ」

姉のほうは中学生、妹のほうは5年生くらいだったと思います。

「えー、なんで?オーナーと一緒やだ!」

髪をセットされてる最中の小学1年生の子が言いました。わたしも嫌です。

「だってオーナーは女の子が好きだから。仕方ないんだよ」

今度は髪をセットしてくれている大学生のお姉さんが言いました。


天井の高いレストランにはいくつもの長いテーブルが並んでいて、それぞれに真っ白なテーブルクロスがかかっていました。
グランドピアノがあったような気もします。
貸し切りだったのか、客はキャンプの参加者しかいませんでした。

参加者の席はあらかじめ決められていて、わたしの席は、レストランの中央に位置するテーブルの、その真ん中あたりにありました。
わたしの隣には同い年の子、わたしとその子のちょうど前にオーナー、オーナーの両隣には、小学1年生の2人がそれぞれ座りました。
ここが「オーナーと同じ、真ん中のテーブル」でした。

さきほどの姉妹の妹のほうは同じテーブルで端の席。
姉のほうは隣のテーブル。
髪をセットしてくれたお姉さんは遠いテーブルに大学生同士で固まっていました。
参加者には小学生の男子もいましたが、男子は別テーブルでした。

つまり、オーナーはレストランの中心に位置し、自分の近くに女子を歳の小さい順に座らせていたことになります。

見たことのないフランス料理がたくさん運ばれてきましたが、子どもの舌にはどれもあまり合わず、嫌いなオーナーを前にして、お喋りも楽しめず。
つまらなすぎて、この食事会のことはほとんど覚えていません。


オーナーの訃報

キャンプには計3-4回ほど参加したと思います。
行かなくなった理由もやっぱり覚えていないのですが、おそらく中学受験に向けて長期休みも塾に通うことになったからかと思います。

不参加が続いてもしばらくはご案内とかお便りが定期的に届いていたようです。
あるとき、お便りを読んだ母から、オーナーが亡くなったことを聞きました。
当時のわたしにとって、人生で初めて聞く訃報です。

少し発言数が増えて感情表現が出来るようになったわたしは、「えー!」と驚いたあとに「ちょっと嬉しいかも」と言いました。
もちろん母からは、そんなことを言うんじゃないと叱られました。

今思い返しても我ながらとんでもない発言だと思いますが、これは本心でした。


おわりに

このキャンプのことは、楽しいものとして記憶しています。
オーナーのことも、ずっと「怖い人」という印象しか残っていませんでした。
進学して、成人して、社会人になって、あらゆるタイミングでこのキャンプのことをふと思い出すことがあっても、いつも「昔キャンプにいったなー。楽しかったなー」くらいで終わっていました。

結婚して子どもを意識するようになったからでしょうか。
子どもの性被害に関するニュースを見たタイミングだったでしょうか。
あるとき突然、「オーナーは女児に特別な感情があったのでは?」という疑惑が浮かんだのです。


お風呂場でわたしたちにプレハブ小屋のことを教えてくれた子は、オーナーの小児性愛を知っていたのか?
見られたくないとプールを見学した中学生は、過去に何かされたことがあるのか?
オーナーはカメラで何を撮っていたのか?その写真はどうなったのか?
オーナーが女児に囲まれたがることを知っていた大学生は、離れたテーブルで何を考えていたのか?
オーナーはレストランで目の前にわたしを座らせて、何を思っていたのか?


あくまでもこれは「疑惑」です。
なんの確証もありません。
プールでの写真は撮られたかもしれないけど、直接的な性被害を受けたわけではありません。
でも自覚がないだけで、例えば更衣室に隠しカメラがあったとしても気が付かなかったでしょうし、それに他の参加者がどうだったかはわかりません。

どうも「オーナーは歳の小さい女の子が好き」ということが常連参加者の間で周知の事実だったことが気になります。
なぜなら、食事会のときに自分の近くに低年齢の女子を集めるだけでは、そんな風には見られないはずだから。お風呂場の位置は偶然で、写真撮影も記録のためだと思うでしょう。
つまり、参加者の中には「オーナーは女の子が好き」「オーナーは風呂を覗いたり水着の写真を撮影したりしていてもおかしくない」を裏付ける体験をした子どもがいたのではないでしょうか。
誰かが実害を受けたという話は聞かなかったけど、怖くて言えないだけかもしれないし、知ってる者が結託して言わないだけかもしれません。

性被害者は、事実を大人には勿論、子どもにだって伝えづらいだろうから。もし仮にわたしがこのキャンプで何か実害を受けたとしても、親にも誰にも言えなかったと思います。

追求したくても、オーナーは既に死んでいます。

キャンプの名称や地名など一切覚えていませんでしたが、この文章を書くにあたって調べたら判明しました。
オーナーの息子が後を継いで、今も長期休みの度に子どもを集めたキャンプが開催されているようです。


補足

この疑惑が浮かんでから、色々と考えました。

①なぜ大人になるまでオーナーに違和感を覚えなかったのか。

まず、お風呂・プール・食事会、この3つが、何回か参加したうち飛び飛びで起こったことで、鈍い性格だったから。
1度参加したキャンプで連続で起こったことであれば、あるいは鋭い子どもであれば、すぐにおかしいことに気が付けたかもしれません。
次に、わたしは当時「性の対象にはなるのは大人だけ」「一番偉い立場であるオーナーが悪いことをしたり、変な趣味を持っている筈はない」と思い込んでいたから。性犯罪なんて起こるはずがない、と沸き上がる疑惑に蓋をしていたわけです。

また、このエピソードを思い返すこともなければ、誰にも言うこともなかったことも理由の1つだと思います。

家に帰って大人にどれか1つのことでも話せば、誰かが察したかもしれない。
話すことで更に鮮明に記憶され、大人になった自分が早く気付けたかもしれない。
でもこんな話は誰にもしないものです。
キャンプどうだった?と聞かれたら、メインである楽しいアウトドア生活のほうを中心に語るに決まっている。
オーナーは小さい女の子が好きみたいだよ、と、わざわざ言うでしょうか。少なくともわたしは誰にも話しませんでした。

②なぜ子どもたちにこんな風に言われているキャンプがつぶれず、続いていたのか。

これもやはり、子どもが大人に違和感を申告しなかったからでしょう。
このキャンプに大人は参加できません。
子どもが話をしない限り、保護者が気が付くことは不可能だと思います。

③なぜ常連参加者はオーナーのことを知りながらも参加していたのか。

来なくなった子どももきっといたと思います。
嫌々参加している子どもは、おそらく親に参加するように言われて反対できなかったのではないでしょうか。
そして覗きを防止する・プールをわざと見学するなどで抵抗していたのだと思います。
何よりも、キャンプでの生活は本当に楽しく、得られるものが多かったので、よほど嫌な思いをしなければまた参加したいと思うのが自然な気がします。

最初に書いた通り、この話は、キャンプに対して訴えたいとか、真実を暴きたいとかではなく、ただ、こんなことがあったよ、という記録です。
キャンプというシチュエーションに限らず、どんなシーンでも、この話に出てきたような可能性は潜んでいます。
子どもはいつだって、危険と隣合せです。


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