
41のおじさんが 島崎藤村×戌亥とこ のタッグを仕掛けた件【前編】■花岡隆太/菱野温泉「薬師館」代表取締役 2022/01/23の信毎WEBの記事
後編はこちらからごらんください!
こちらは2022/01/23の信毎WEBへの寄稿した記事を再編集したものです。
■2次元の扉へ!バーチャルライバー×観光地×Z世代
2021年10月から11月にかけて小諸市の懐古園で開催された「紅葉まつり」には、過去10年間で最高となる6万人が来場しました。Z世代やミレニアル世代とも言われる若者が多かったのが特徴です。
この紅葉まつりが始まる直前の10月19日、YouTubeに1本の動画が投稿されました。2日間で20万回、1週間で30万回再生されました。(2022年10月31日時点で128万回再生されています。)
その正体は、バーチャルライバー戌亥とこが歌う「初恋」のミュージックビデオ。小諸にゆかりのある文豪島崎藤村の詩「初恋」をベースにした楽曲です。一般社団法人こもろ観光局とバーチャルライバーグループ「にじさんじ」が組み、観光動画として投稿しました。私が5年前から温めていたアイデアでした。
観光動画として視聴した方は、ある違和感を持たれたでしょう。ミュージックビデオに「小諸」の文字が出てきません。今回のタイアップに合わせて制作したポスターにも「小諸」の文字はありません。観光タイアップであれば一般的には必須である観光地名を、今回は極力、排除しました。
■新しい世界線への扉
2012年1月、テレビアニメ「あの夏で待ってる」の放映がスタートしました。作品のイメージが合う-と、小諸がアニメの舞台になりました。
舞台となった小諸市には、放映10周年を迎える今もなお、多くのファンが訪れてくれています。
実はこの「あの夏で待ってる」でも、「小諸」の文字を見つけることはできません。多くのファンは、作品を見てその背景に興味を持ち、アニメの世界を探して小諸にたどり着きました。つまり、作品に魅せられた人にとって、重要な要素は「小諸」というテキストデータではなく、「どこが作品のバックグラウンドにあるのか」なのです。アニメの世界観を見つけるため、アニメの世界を追体験するために、小諸を訪れてくれました。
作品の舞台になるということは、「新しい世界線」への扉がその土地に作られることだと私は思っています。
同じ土地だとしても、何を目指してきたかによって、その目に映る景色や空気感、その土地の住人とのコミュニケーションは全く別の物に変わると思います。
私は小諸市の住人です。生活空間としての小諸が私にとっての「小諸」です。しかし、ひとたび作品の扉から入ってきた人にとっては、その作品の世界の「小諸」になります。島崎藤村の文学の扉を開いて訪れる人もいれば、「あの夏で待ってる」の扉から訪れる人もいます。
そんな経験から今回、作品から入る人にとって重要な要素とは言えず、下手をすると「醒(さ)める」要素にもなりかねない観光地名を、ミュージックビデオやポスターからなくすことにしました。結果として、ファンがより作品へ没入し、深く小諸へ興味を持ってもらえました。
■なぜ楽曲が観光PRにつながるのか?
スマートフォンなどのデジタル機器が便利になり、情報をすぐに調べることができる現在の状況からすれば、地名は副次的要素にしたとしても、十分に情報を伝えることができる。私が感じていたことは今、確信になっています。
誰に向けて何を行うか。相手の立場に立って思考することが重要だと思います。
戌亥とこの「初恋」の楽曲制作には、3つの意味を持たせました。
①若者に、小諸に気づいてもらう
②継続性を持たせた広告を作る
③10年後のインバウンドへの種まきをする
前編はここまで!
3つの意味については
「41のおじさんが 島崎藤村×戌亥とこ のタッグを仕掛けた件【後編】本当のところ、実は世界戦への布石だったりするのです」【会員限定記事】
https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2022011800856
へつづく。