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5月3日 この日から全てが初まった!
あれは5月3日だった
まだつい数日前の事のように鮮明に覚えている
飛行機から第一歩を踏み出した
ここはヨーロッパの大地だ
なんという
光の眩しさ、爽やかな空気
途端に
自分の頭の上に
乗っていた重たい鍋の蓋が
パーンと粉々に砕け散って
消えていくような感覚を覚えた
なんなんだろう?
それと同時に
心が広がって行くよう不思議な気分になった
24歳まで親元で何不自由なく暮らしていた私は
音楽高校に入学した時から
音大を卒業するまで
一つだけの目標を
頭に据えていた
ヨーロッパへ声楽の勉強に行く
長い旅を終えて
飛行機の中で準備していた
メモ用紙を
もう一度確認した
飛行機の中で書いた
これから1か月だけ住まわせてもらえる
声楽の恩師の知人宅住所が書いてある。
これを無くしたら大変だ!
ここで私を知っている人は誰もいないのだから!
二週間分の生活必需品が詰まった
トランクを受け取り、
気の長くなるようなフライト中
不安を忘れようとするかのように
ずっと頭の中で暗唱していた
二つのミッションを行動に起こす時が来た!
第一ミッション
無事到着したことを家族に知らせる!
公衆電話は荷物受け取り場にずらっと並んでいた。
当時はまだ公衆電話しかなかったので
日本で両替えしてきた紙幣を
コインにするため
両替機に投入!!
ここまでで なんと言う緊張感!
言葉より
ピクトグラムを頼りに行動する。
そして国際電話用の公衆電話に
300円を投入。
きっとずっと待っていてくれたんだろう
母がすぐに受話器を取ってくれた
「あ、私、無事に着いたよ!」
「そうか、良かった、元気で頑張ってね、、、
と母の声も最後まで聞けず
電話は途切れてしまった。
けれどこの地の裏側には
ちゃんと家族がいるのだ。
という気持ちが少し力をくれた
けれど、
通話料は悲しいほど高いな・・・
とかなりショックをうけ
次のミッションに向かう
第二ミッション
タクシー乗り場を探す!
成田空港とは全く違う
電車の駅?と思うような
小さな空港。
全てがスムーズにいって
帰って不安になってくる。
飛行機から降りた人々は
あっという間に姿を消していった
とても静かな所だ。。。
周りを見渡すと
TAXI
と書いてある看板を発見!
私の目的地は郊外にあったため
電車を乗り継がなくてはならず、
それを初日からこなすのは
ハードルが高かったので
タクシーで楽に行くことを選んだ
それでも心臓は
すでにバクバク状態
言葉は日本で一年ほどしっかり勉強したつもりだったけれど
やっぱり現地の人が話しているのは全く聞き取れない!
全く未知の世界にやってきた気分だ!
言葉は通じない!
周りの人々が話している言葉が何一つ聞き取れない
こんな状態の自分が
生まれて初めての
一人暮らしを外国で始めると言うのは
我ながらもの凄い決断をしたもんだ
と、つくづく考えたのは
正直
少し生活に慣れてきた
数年後のことだった。
それまでは毎日が絶対に今日
やらなくてはならない事で溢れていて
現地語を話せないのが大前提
いかにして日常生活を生き延びることができるのだろうか?
これだけが最大の課題!!
まさにサバイバル状態だった
電車の
「発車しまーすっ」
がこちらの言葉で理解できるまでなんと
半年もかかった!
聞き取れた時は
我ながら
やった!わかった!!
と心の中で狂喜
まるですごい難関を突破したかのようだった!
と、話が進みすぎた
取り敢えず空港の自分に戻ろう。
タクシー乗り場に到着すると、
恰幅のいいおじさんがにこやかに
私の方へ近づいてきてくれた。
私は手に握って緊張で少し汗ばんでしまった
メモ用紙を広げ運転手さんに見せた。
彼はすぐにわかった、と言うにこやかな表情を見せ、
私のトランクを車に乗せた。
そして私は気がついた。
ああ、ここでは自分でドアをあけるんだった。
そうして私も車に乗り込んだ
ここのタクシーは乗り心地がいいことで有名だと旅行本で読んだけど、全くその通り、
すごく安定感がありシートもとても快適!
窓の外に走る田園風景を見ながら
旅行の疲れを少し感じた。
間もなく知人宅に到着。
こちらでは様々なサービスにチップを渡すと言うのを
聞いていたので、
チップとしてキリの良い額を上乗せして払い、
上機嫌な運転手は走り去った。
あの異様な機嫌の良さは
もしや、
チップを払いすぎたか?!
と思ったが、何はともあれ
ここで無事
ミッション終了!!
さて、初めてヨーロッパのお宅にお邪魔した。
お世話になるファミリーは
知人といっても日本の恩師のお友達であって
私は一度電話でお話ししただけだった。
とても活発そうな奥様は日本人で
小さな息子さんがいらっしゃり、
ご主人はこちらの方、
現地の歌劇場合唱団の団員さんだ。
奥様も声楽科を卒業されて、
まさに夢の音楽一家!
とても親切な方で、
彼女の留学生時代のお話もたくさん伺い、
勉強を終えて、家族も持ち
しっかりと生活されている方がいるのだと
見知らぬ地で生活を始める勇気をもらうことができた。
「さあ、明日は一日で
これからしなくてはならないことの
準備をしましょう。
まずは1か月間の乗り物フリーパスを買って
お役所に住民票をとりに行きます。
そのあとは
全部1人で頑張ってこなしてね」
と、彼女は私に言うと、
続けて
「別に意地悪で言っているんじゃないの。
言葉ができなくても
頑張って日常生活をこなすことが
何よりも勉強になるのよ。
初めから助けてもらってしまうと、
自分でやると言う勇気がなくなってしまうから
帰って良くないの。
そんな留学生を大勢見てきているから、
あなたは出来るところまで1人でやってみて、
質問があればいつでも聞いてきてね。」
との言葉を頂いた。
それはもちろん当たり前だ。
けれど何からしたら良いのだろうか。
まずしなくてはならないことは
受験準備をしながら
住民票の登録、
健康保険への加入
語学学校への入学
声楽の先生の聴講および受験事前オーディション
家探し。。。
もちろん観光(楽しみ)も忘れてはならない!!
ミッションの山だ。。。
私の部屋はとても居心地が良く、
直ぐに寛ぐことができた
トランクから大切なものを取り出し
机の上に並べる。
一番初めに手に取ったのは
日常会話文の詰まった本。
明日使いそうな文を紙に書き出し
暗記するまで何度も口に出して読み返した。
明日からのプランに頭がパンクしそうだか、
一歩一歩こなしていこう、
と自分に言い聞かせる
まずは早めにベットに入った。
1日目の夜、
とてもびっくりしたことがある。
夜中鳥が歌っていること。
とても美しい歌声で
一晩中聞き惚れてしまった!
あまりに素敵に歌うので後日
当時の録音機器 カセットテープ!!
に録音し、日本の家族に聞かせてあげようと
思った。
そんな歌声を聞きながら
明日からの
ミッションに考えを巡らせる。
5月3日の片道航空券
この第一歩を実現させた
人生の大選択。
時は経って
2つ目の母国となったこの地で
自分も家族をもち
2人の息子とダーリンに恵まれ
日常生活を日々紡いでいる。
たった一人ぼっちだった私が
4人に増えた!
1人での選択から
4人で選択をすることを学んでいる最中だ
いつ振り返ってみても
この私の第1日目は
額縁に入ったように鮮明に私の
頭に焼きついている。
この選択がなかったなら
この私はなかった
そして
その第一歩が
様々な出会いを招き
かけがいのない
私の人生の宝物になっている。
これからまだ色々な選択をすることになるだろう
私達の選択は一体どこに私達を運んでいってくれるのだろう
と、
あの日から
全く変わる事のない
アムゼルの歌声を聞きながら
夏の夜に考えを巡らせている