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映画「敵」のおじさまが良すぎた

私の好みのタイプのおじさんをわかりやすく説明するとしたら、まさにこの映画で長塚京三が演じる主人公 渡辺儀助みたいな人だと言える。
好きなタイプは大別して3パターンぐらいあるのだが、こういう人を好きになる確率が一番高い。

おじさまを全員足して割らない感じ
これで眼鏡さえ掛けてればな〜
掛けた

あまりのおじさまっぽさに、上映中はまるでおじさまの私生活を見ているようであった。
あまりに良かったので感想を書きたい。
(注:具体的な内容にも触れてます)


映画「敵」(2025年1月公開)あらすじ
フランス近代演劇史の大学教授であった渡辺儀助は20年前に妻に先立たれ、祖父から受け継いだ趣のある家で身の回りの事を整然とこなしながら日々を暮らしている。
そこへある日『敵』の存在を知らせるメールが届き────。
(原作は、読んだらイメージが変わっちゃうかも‥‥と思って手に取ることを躊躇中)

【元教え子の女への接し方】

どきどきする場面(私が)

彼女は学生時代から儀助を慕っている様子で、アドバイスを受けたい事があると家を訪ねてくる。
「私、離婚するかもしれません」と言ったり、顔を寄せて「いい匂い」と言ったりする。酔って書斎のソファを借りて眠ったりする。
大変色っぽいシーンだ。

しかし儀助は、女からそんな際どい台詞を言われても決して飛びつかず、かといってただ受け流すこともしない。
個人的な趣味なのだが、おじさまのそういうところが大好きだ。
アプローチした時に簡単に迫ってこられるのも不安がよぎるし、何も気づかないふりで受け流されるのも物足りない。
彼女に対する儀助の反応は絶妙だった。

もちろん儀助の方も彼女に好意を持っており、一人ですることもあるようだし、夢の中では彼女を抱こうとして夢精したりもする。
でも、いつもちゃんと理性が上回っている。

老人の性欲については引いてる人もいるみたいだが、私にしてみればごく普通のことだ。
もうあって当たり前、というか無きゃ困る。
おじさまとのセックスの素敵さは散々書いているので割愛するけれども。

【仏文科の大学生とのエピソード】

行きつけのバーのオーナーの姪

この映画を観た人の大半は、儀助が下心を持って彼女と接していると思うかもしれないが、私は違うと思う。
この手のおじさまが、若さや見た目で好きになってくれるような人なら、私も苦労しないのだ。(急な経験談)

儀助が彼女に興味を持つのは、彼女がフランス文学を専攻しているからだ。
社会でも尊重されなくなり、就職に有利でもない学問(そういう台詞が出てくる)を学ぼうという若者がいるということが純粋に嬉しいのだ。
そんな若者が学費に困窮していると知って300万円を用立てたのは、老いた自分が使うよりよほど有意義だと思ったからであろう。

彼女の方も、元々お金目当てで300万円を持ち逃げしたと解釈する人が多いかもしれないけど、私はそうは思わない。
なりゆきでお金を借りはしたが、彼女もまた儀助からフランス文学の話を聞くのを純粋に楽しんでいただけだと思う。

私がおじさんが好きだと言うと、すぐ世間から財産目当てだと思われがちなのだが、お金なんてあっても無くても素敵なおじさんは素敵なのだ。
財産にしか魅力がないと思ったら大間違いだ。

【妻を愛していること】

20年前に亡くなった妻

儀助が今でも妻を愛していて、生前してやれなかったことを悔やんでいる様子なのには胸が熱くなった。

夢の中で、妻と一緒にお風呂に入れただけで喜ぶシーンも良かった。
長塚氏はインタビューで自分の老いた身体のことをおっしゃっておられたが、私からするとそこがむしろ好きなのだ。
観ていて安心感があった。

【"敵"について思ったこと】

儀助の日々は変わらなくても、周囲は徐々に変化していく。
執筆していた旅行雑誌は、フランス文学のエッセイを載せるような余裕ある空気が無くなったのだろう、連載が打ち切られる。
新しい担当編集者はフランス文学に対する知識も敬意も無さそうだ。
暮らしの中で当たり前だったことは、今では贅沢と言われてしまう。
元教え子との暖かな思い出、あれはもしかするとハラスメントだったのだろうか?

そんな一つ一つが、じわじわ儀助を取り囲んでいく"敵"のように見えた。
一緒に映画を観た敬愛するおじさまは、儀助よりは若いが、私以上に考え込んでいるように見えた。私は聞いてみた。
「敵は"老い"なんでしょうか?」
「まあそうですね。"時代"と言ってもいいかもしれませんが」
そうだな。一言で言えば"時代"なのだな。

【儀助の遺言書】

儀助の残した遺言書は、淡々としながらも万感の思いが詰まっていた。

今の世の中で失われつつある知性や教養、古いけど良いもの、それらを儀助がいかに大切に思っていたのかがよくわかった。

でもそれらが詰まった家屋や蔵書の取り扱いについて、具体的な希望を述べつつも、あとに残る者は必ずしもそれを守らなくてもよい、と余地を残し、決して押し付けてはいなかった。
精一杯、時代との折り合いをつけたのだろう。



儀助は、おじさまの私生活だけでなく、頭の中まで見せてくれるようだった。



映画「敵」(2025年1月公開)



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