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デートの待ち合わせ場所

おじさんと待ち合わせするのって、ホテルのラウンジやロビーが多い。
そこの部屋やレストランを使う使わないにかかわらずだ。
おじさんは腰が悪いとか疲れているとか色々あるので、ともかくゆったり座って待てる場所がいいのだ。
ハチ公前とか、もってのほかなのだ。

選ぶホテルも大抵は昭和、下手すると明治からあるような落ち着いた老舗が多い。
お客の年齢層も高い。
満を持して日本に初上陸した、みたいな海外チェーンのホテルはまず無い。
私自身がそもそも老舗を選ぶようなおじさまが好きなので、ジャヌ東京とか指定されたら逆に引く。



そんな中、ホテル以外ですごく良かった思い出の待ち合わせ場所がある。
本屋である。

あるとき知人が『遠い親戚に津田さんの好きそうなおじさんがいるから紹介してあげる』といって会わせてくれた人がドンピシャで好みのタイプだった。
20歳年上。
真面目眼鏡を掛けて、シャツとセーター。
顔も髪型もぜんぜん格好つけてないけど、いかにもまともな人であるという雰囲気があふれている。

そのおじさまと初めて二人で食事に行くことになった時、指定された待ち合わせ場所が銀座の書店、教文館だったのだ。

ほ‥‥本屋さん!!
喫茶店とか直接レストランとかじゃなくて!!
私がこよなく愛する場所、本屋さん!!

しかも教文館というのは、ご存知の方も多いとは思うが明治時代からある老舗の書店である。
小さいながらも品揃えが好みで、私も10代の頃から愛用する本屋さんだ。
今どきのお洒落書店とかじゃなくて教文館なのが更に好感度マックスであった。

最高!こんなの初めて!
と浮かれた私は友達にも言いまくった。
ほとんどは「へぇ‥‥」という雰囲気で何の感慨も示されなかったが、中には同好の士もいた。
「それって後ろから『ポンポン』みたいな??(肩をそっと叩く真似をしつつ)」
「素敵じゃん」
「昔の少女漫画みたい」
といった風に。

いつも遊んでいるゲイの友達も『花野が好きそうな話ね』と言い、更に
「でもそれ、向こうがどの棚の前にいるかも重要じゃない?」
と言ってきた。
そうだ。その問題があった。
「どこにいるのがいい?」
「う〜〜ん、やっぱ小説の前がいいかな」
「哲学書の前とか」
「超いい!」
「意外にビジネス書の前だったりしてね」
「絶対やだ〜。話合わなそう」
「花野もゴシップ誌の前にいるのとかやめなよ」
などと勝手なことをウキウキ話し合って当日を迎えた。

教文館は1階が雑誌などで、2階が文庫や書籍という配置になっている。(もっと上の階もあるけど一般的に使われるのは1、2階)
なんだかんだ言っても、おじさまは1階で手軽に雑誌とか立ち読みしてるかもなと思ったのだが、そこにはいなかった。
ドキドキしながら階段を昇る。
踊り場でも魅力的な文庫フェアをやっていたりするのだが、今は見ている場合じゃない。
2階の入り口には、落語の本や、歌舞伎座が近いという場所柄だろう、その関連の本がたくさん置いてあって私のお気に入りコーナーなのだが、そこにもおじさまの姿は無‥‥いや、いた!!
っていうか、もうレジでお会計してた。

支払いをしながら私を見つけて(2階の入り口とレジカウンターはすぐそばだ)、「おっ」と言った。
「今終わるから待っててください」
と言われて、ちょっと離れたところからおじさまの買った本を見たら、それは色川武大の文庫本だった。

小説だった────!!
しかも純文学。
しっかり昭和。
そして硬過ぎず軟らか過ぎない絶妙さ。
読んだことないけど。(ないのか)

聞けば、色川武大は別名義の阿佐田哲也も含めて全部読んでると思うけど、ぱらぱらめくったら覚えてなかったので買ったという。
本好きが板についてるこの感じ。
そりゃあ待ち合わせ場所に本屋も指定するだろう。
想像以上の展開に心が震えた。

ホテルのロビーもいいけど、本屋さんも負けず劣らずロマンティックなのだ。
初デートの待ち合わせ場所に悩んだら、ぜひ候補に入れてほしい。

























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