愛犬三郎が反応する「お」の付く言葉
愛犬三郎は「お」から始まる言葉に敏感である。
まずは三郎の反応が良いナンバーワンの言葉。
それは「おやつ」。
私がリビングの掃除をしようとして、掃除機を物置から取り出すと、途端にソワソワし始める三郎。三郎は掃除機が嫌いなのだ。掃除機のコードを引っ張り出そうとしている私の横で、三郎は戦闘態勢を取る。
掃除機のスイッチを入れた瞬間、三郎は「ワンワンワン!」と吠え続ける。
「はーちゃん(先代犬M.ダックスのはなお)は掃除機かけても、知らん顔してたのに・・・。サブちゃんはどんだけ怖がりなん?」
と耳を貸すわけでもない三郎に私は話しかけながら、掃除機をかける。三郎の鳴き声があまりにもうるさいと、ご近所迷惑にもなりかねない。そんなときに私が思いつくのは、「おやつ」。
「さぶちゃん、お~~~~。」
と私が溜め気味に言っただけで、三郎の鳴き声はピタッと止み、つぶらな瞳で私をじっとみつめる。「お」と聞いただけで三郎のスイッチはあっという間に切り替わり「おかさん、早くおやつちょうだい。」と言わんばかりに尻尾をフリフリし始める。
一旦掃除の手を止め、引き出しからおやつを何個か手に取り、掃除を再開。片手に掃除機、片手におやつを持って二刀流で掃除をするのが、今の私のお掃除スタイル。
片や三郎は、おやつは欲しいし、嫌な音を出す掃除機は怖いしで、私の側でとても忙しそうである。
反応が良いナンバーツーの言葉は「おさんぽ」。
「さぶちゃん、お散歩行く?」
と言った途端にその場でクルクルと周り、興奮が止まらない。出かける準備をする私に激しく絡みついてくる。でも、そんな三郎の姿も無邪気で可愛らしく、許せてしまう。
反応が良いナンバースリーは「おとさん、おかさん、おねちゃん」。
娘の前では夫と私は「パパ、ママ」と呼び合っているが、三郎の前では「おとさん、おかさん」と呼び合っている。娘のことは「おねちゃん」。
三郎にとって、おとさんとおかさんは目一杯甘えられる存在だから、「おとさんが帰ってくるよ。」や「おかさんが帰ってくるよ。」には嬉しそうな反応を見せるけれど、娘はちょっかいを出して三郎を怒らせることが多いので、「おねちゃんがくるよ。」と言うと、三郎はちょっと警戒しているようにも見える。
娘は申年、三郎は犬、やはり犬猿の仲なのかと思いきや、それでも三郎はおねちゃんの膝の上で居眠りするくらいだから、おねちゃんのことも好きなのだろう。
最後に、三郎が好きじゃない「お」の付く言葉。
それは「お留守番」。
「サブちゃん、お留守番しとってね。」
と伝えると、三郎の動きは一旦止まる。お留守番確定の事実に肩を落とし、その後、定位置へゆっくりと歩いて行き、腰を下ろす。あまりにも聞き分けの良い三郎を見ていると、こちらまで切なくなる。
扉が閉まるまで、私を見つめ続ける三郎。毎度、後ろ髪を引かれるような思いで私は出かける。
私が帰宅すると、三郎は「ヒュンヒュン」と鼻から高い声を出しながら私に駆け寄り、肩の上までよじ登り、私の顔を舐めまくる。私は三郎のベロベロ攻撃を必死に避けながら、三郎を撫で、落ち着くのを待つ。
喜びを全身で表わす三郎の姿に、毎回、笑みがこぼれ、心がほぐれる。
*
先に書いた「お」が付く言葉の他にも、ボールやごはん、ちっち(トイレ)、ねんね(寝る)、待て、おしまい、おりこうさんなど、三郎が覚えている言葉はある。それは私たち家族が三郎に毎日のように語りかける言葉。おはよう、おやすみの挨拶もそう。
逆に聞き慣れない言葉には、首をかしげる。そんな姿もまた可愛らしい。
三郎とは会話はできないけれど、限られた単語とアイコンタクトでコミュニケーションを取ったり、体をくっつけ合っているときこそ、三郎の姿につられて、私自身も素直で無邪気になれる、癒しのひとときだ。