歳をとってひとり暮らしになったら寂しいの?
我が家の愛犬トイプードルの「三郎」には、冬になるとセーターを着させている。このセーターはシルバー人材センターが運営するシルバーショップで購入したものだ。
情熱的な赤一色のもの、緑と青と黄色の三色のボーダー柄でウミヘビのような柄のもの、茶色に一本の白ラインが入ったもの、まあるい襟付きのものなど何着もある。
ひとつひとつが手編みで、1着1000円。
シルバーショップで働く義母が、シルバーショップで購入してくる。新作が納品されると、義母は三郎に似合いそうなセーターを買わずにはいられなくなる。それと、義母はそのセーターを作る会員のSさんの人柄が好きなのだ。
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私も裁縫が好きなのでハンドメイド商品には興味があり、その商品を作る人がどんな人なのかも気になる。三郎が着ているセーターは絶妙な色のバランスで、前足を出す袖口もピッタリ、襟なんかもついていてセンスが溢れている。
「こんな素敵なセーターを作る人ってどんな人だろう。」
義母にこのセーターを作った人についてどんな人なのか聞いてみた。
以前は山奥のご自宅で1日1客の山菜料理のお店やハンドメイド雑貨のお店を営んでいたが、高齢になったため店を閉め、現在は大きな家に独りで暮らしている。犬用のセーターを作るほか、畳の縁を再利用したバッグや、細かな飾りをつけた地下足袋など、アイデアに富んだものを作っている。
作ったものはシルバーショップに出品し、儲けは度外視で値段をつけていて、気に入ってもらえるものがあれば購入してくれれば良いというスタンスである。本人曰く、「新しいものを作ることが楽しいんやぜ。」「毛糸がたくさんあるからそれを利用してるだけなんやぜ。」とおっしゃっているそうだ。
ただ、義母との話の中でひとつ気になることがあった。山奥の家に独りで暮らしているということだ。私の住む地域でも今年の冬は記録的な雪に見舞われ、家の前も1m50cmほどの雪が積もり、外出するにも大変な思いをした。
Sさんの住む地域は山奥だから積雪量はもっと多く、その時期どうやって暮らしていらっしゃったのか気になった。あの大雪で野菜などの商品の納品がなくシルバーショップがしばらくお休みになっていて、義母もSさんと会えず気になっていたという。
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その話をした翌日、義母がSさんに電話をした。
大雪の時は離れて暮らす息子さんが様子を見に来てくれて、雪掻きをしてくれたそうだ。しかし今でも家の周りは雪に囲まれていて町へはなかなか行けないけれど、元気に暮らしているとのことだった。
さらに息子さん家族との同居についても話してくれたそうで、何年か前に息子さんから「一緒に住まないか」と言われたことがあったけれど、その時Sさんはまだ独りで暮らしていける体力もあったから断ったそうだ。しかし今回の大雪を体験し、独りで暮らしていくことや、体力もなくなってきたことに不安を感じているとのことだった。
きっとSさんは息子さんとの同居について考えるようになってきたけれど、自分から息子さんに「一緒に住みたい」とは言いづらいのではないかと思った。
息子さんの家には奥さんや子どもさんがいて、もうできあがっているので、その家庭に入ることへの戸惑いや、お荷物になるんじゃないかという心配、独り生活の方が気楽なのではないかという迷いや、思い出がたくさん詰まった山奥の家を出て行くことの寂しさなど、Sさんがいろいろなことを考えているのではないかと私は想像した。
20年前、看護師としてデイケアでの仕事をしているとき、多くの独居の高齢者と関わっていた。高齢者の方々は独り暮らしが気楽そうでもあり、寂しそうでもあった。家族と同居をしていても鍵付きの離れの部屋で独りで過ごしている高齢者もいたし、家族からの手厚い介護を受けている高齢者もいた。
SさんはIADLも自立されており家族の介護の負担はないが、一緒に住むことへの精神的負担は家族であってもお互いにあると思う。息子さんご家族とお話を重ね、ひとり暮らしを続けられるにしても、同居されるにしても、お互いが過ごしやすい生活スタイルを築かれることを願った。
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なぜお会いしたことのないSさんのことが気になるのかと考えてみた。セーターを着ている三郎を見ると、Sさんが山奥の大きな家でひとり暮らしをしながらセーターを編んでいる姿が想像できる。それと同時に自分が歳をとり、いつかひとりになるときのことも考える。
私より夫の方が長生きするかもしれないし、むすめが同居しているかもしれない。未来がどうなっているのかはわからないけれど、自分がひとりになることを怖がっているのだと思う。だからひとり暮らしをしている高齢者のことが知りたいのだ。
ひとり暮らしは孤独ですか?
それともひとりでも楽しんでいますか?
なんだか何十年後かの自分に尋ねてみたくなった。
「40代の頃はひとりになることを怖がっていたこともあったね~。
でも今は怖くないよ。
寂しいと思うこともあるけれど、案外楽しく過ごせているよ。」
未来の自分がそう言っていることを望んでいる。