見出し画像

娘へのサプライズプレゼント

2015年のゴールデンウィークに入ったばかりのある日の夕食時、義父が私に新聞記事を見せながら、
「野沢温泉スキー場はゴールデンウィークでもまだ滑れるらしいぞ。旅行チケットがあるから、○○(娘の名)を連れて行ってこいよ。」
と春スキーを勧めてくれた。

その年の1月から3月の間は、富山県や長野県や岐阜県のスキー場の積雪量を、暇があれば携帯でチェックするほど、私はスノーボードに夢中になっていた。週末は娘を連れ、近場や遠方のスキー場に足繁く通っていた。

私と義父の話をそばで聞いていた娘も、義父からの提案を喜んでいるかと思ったけれど、娘は微妙な表情をしていた。

夕食を終え、娘と二人きりになったとき
「ゴールデンウィーク中に野沢温泉スキー場へ行ってこない?」
と聞いてみると、
「スキー場はもういいかな。違うところへ行きたい。東京とか・・・。」
と少し言いづらそうに言った。

私は予定になかった春スキーのチャンスに心躍らせていたが、娘の表情を見たらスキー場へ行くことを迷った。

しかし、もうゴールデンウィークに入っているので、宿泊場所の空室状況も早く確認しないといけない。迷っている場合じゃない。

春スキーの雪質は重みがあり滑りにくく、体力も相当使うから娘もクタクタになりそう。トップシーズンのように雪に身を任せて滑り降りてくるような爽快さはあまり感じられない。それならスノーボードは来シーズンの楽しみにとっておこう。

気持ちのスイッチを切り替え、娘が行きたい東京観光にしようと思った途端、あの「夢の国」が思い浮かんだ。

「そうだ!しばらく行っていないから、サプライズで娘を東京ディズニーシーへ連れて行ってあげよう!」

翌日、義父に野沢温泉スキー場ではなく、サプライズで娘を東京ディズニーシーへ連れていってあげたいことを伝えると
「お、お、お、そうか・・・。スキー場でなくて良いのか?」
と言いながら旅行チケットを渡してくれた。予定よりも高く付く旅行代。それでも快く私たちを送り出してくれた。

急遽決めた1泊2日の旅行行程は、1日目はディズニーシー、2日目はお台場や東京スカイツリー周辺の観光にした。宿泊先は新橋のビジネスホテルで予約が取れた。娘には東京観光とだけ伝え、私は旅行前日の夜、スーツケースにシェリーメイのぬいぐるみをこっそりと忍ばせた。

北陸新幹線に乗り、車内では絶対に口には出せない言葉に注意しながら娘との会話を楽しんだ。東京駅でJR京葉線に乗り換えるが、地方で育つ小学5年生の娘は京葉線に乗っても行き先が予測できない。

車内にはそれっぽい格好をした人たちがいて、娘は気付くかと思ったけれどそれでも気付かない。手前の葛西臨海公園駅を過ぎ、もうそろそろ気付く頃だろうと思うと、私の方がドキドキしてきた。

車窓から東京ディズニーランドホテルが見えたとき、娘の表情が変わった。娘は車内の人たちを見渡し、ハッとした。しかし今回は東京観光と聞いているので通り過ぎるだけだろうと思っている娘は、少しニヤけている私の顔を見て、もしかして?というような表情をした。
「うん、うん、そうだよ。ここで降りるよ。」
と娘に伝え、それっぽい格好をしたお姉さんたちと一緒に慌ただしく電車を降りた。

娘は現実味がなくビックリしたまま、人混みのなかをスーツケースを引っ張りながら歩く私に必死になって着いてきた。

舞浜駅の改札口を出て、歩道の端で一旦足を止め、スーツケースからシェリーメイを取り出し娘に渡した。この時に初めて娘は歓喜の声を上げた。

ディズニーリゾートラインに乗り、東京ディズニーシーに到着。シェリーメイを抱いた娘の手を握り、アクアスフィアを見上げながら私は、サプライズ成功に安堵したのと同時に、これからの時間にワクワクしていた。

義父のおかげで、私にとってもサプライズのゴールデンウィークとなった。

今思えば、サプライズを受けたときって、すぐに歓喜の声を上げるわけではないんだなと思った。はじめは何が起こっているのか分からず、ただただ驚き、現実を理解するまでには時間がかかるもんなんだなと。

しかし、あの時の移り変わっていく娘の表情を今でも鮮明に覚えている。なんとも可愛らしかったあの表情を今でも忘れられない。

いいなと思ったら応援しよう!