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頼りがいのある夫は寒がりさん

5月に入っても朝晩になると肌寒くなるため、我が家のリビングには石油ファンヒーターがまだ置いてある。

このファンヒーターが大好きなのが愛犬の三郎。

私がファンヒーターのスイッチを入れると、三郎はトコトコと近寄ってきてファンヒーターの正面を陣取る。温風の吹き出し口と三郎との距離は驚くほど近い。

最初はファンヒーターと対面するように座り、温風を真正面から受けているけれど、目は乾き、鼻は熱くなって次第に耐えられなくなるのか、途中から顔を背けている。しかし体の位置は変わらずそのまま。後頭部に温風を浴び、銅像のように微動だにしない三郎を見ていると可笑しくなってくる。

時には、スイッチが入っていないファンヒーターの前にチョコンと座り吹き出し口を見つめていることもあって、その後ろ姿はなんとも健気であり、また滑稽である。

うちの犬が相当な寒がりさんなのか、もしくは他の家のワンちゃんたちもそんなもんなのか。

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我が家では数年前から寒がりさんになった人がいる。それは夫である。

夜、リビングでくつろいでいる夫が「寒い・・・」とつぶやく。
「歳取ったね」
と言いながら、そばにある可愛い絵柄のブランケットを夫にかける。

結婚前のある年のお正月、帰省していた夫の実家から名古屋へ戻るため、北陸自動車道の上り線を走っていた。私はコートを着たままパジェロの助手席に乗っていた。

外は雪がちらつき、右側にはグレー色の空と、荒波の日本海が見えた。冷たそうな景色が向こう側に見える手前で、運転席の夫は「暑い」と言って、運転しながらセーターを脱ぎだした。

上半身は半袖一枚になり、さらには運転席の窓を全開にし、窓枠に右肘をかけながら運転する夫を見て、驚いたのと同時に、なおいっそう惚れた。

夏になれば、夫の部屋はペンギン部屋と化した。温度設定は一番低い16度。夫の部屋に入ると私は凍えるほどだったが、大きな体で筋肉隆々の人だから仕方がないと変に納得していた。今思えば可笑しなことだけれど、男気すら感じていた。

しかし、その夫も数年後には50歳を迎える。

冬に夫と車に乗って出かけたとき、私が車の中の空気を入れ替えようと助手席の窓を少し開け、その後私が窓を閉め忘れていると
「ちょっと寒くない?窓閉めよう。」
なんて言うようになった。

この時期、夜リビングで過ごしているときも私はまったく平気なのに
「なんか寒くない?ピッとして。」
と言ってくる。ピッとしてというのはファンヒーターのスイッチを押して欲しいということなのだ。


私は若い頃、男気のある夫に頼りがいを感じていた。暑がりなところだけではなく、声が大きく豪快で、周りの人を楽しませたり、場を盛り上げたりすることができるところや、大変なことがあっても「悩んでどうなる」と言い切るところに頼りがいがあった。そしてそれは夫の天性だと思っていた。

でもそれは天性でもあるかもしれないけれど、夫の努力あってのこと。

私は気を使いすぎて人と会うことに億劫になってしてしまうことがあるけれど、人と会う機会が多い夫だってその場では気を使っている。時には「ちょっと面倒くさいな」と漏らすこともあるけれど、自分で大事だと思う人付き合いは後ろ向きにならない。

夫だって悩みの種はあるだろうけれど、仕事から帰り、部屋の扉を開けるときにはおどけてみせたり、家族といるときは冗談を言って笑わせてくれる。家で過ごしているときはスウェット姿でユルユルだけれど、仕事に行くときはビシッとした背中で出かけていく。本当に切り替え上手。

今は見た目だけではなく、夫のそういう人柄にも頼りがいを感じている。


だからというのも可笑しいかもしれないけれど、夫がリビングで「寒い」といえばブランケットを掛けたくなるし、「ピッとして」といえばファンヒーターのスイッチを入れたくなる。

車の窓を閉めてと言われれば「昔は真冬に半袖、窓全開で車を走らせていたのにね」とあの時の夫を思い出し、含み笑いをしながら窓を閉める。


最近は「歳取ったね」が二人の間で良く出る言葉だけれど、まだまだこれからいろいろなことがあるんだろうね。持ちつ持たれつ、夫婦をやっていこう。



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