幼いころ好きだった犬
むかし、実家には犬図鑑があった。
犬が飼いたくても飼えない環境に育った私は、
いつもその図鑑を開いては、あれこれ想像していた。
「こんなに大きな犬と散歩したら、引っ張られて怖いかも、
でももしかしたら、馬みたいに背中に乗って走れるのかも。」
「毛のない犬もいるんだ、珍しいな、でもなんか気持ち悪いな。」
「あっ、この犬、絵本に出てきた犬と似ているな、
でも写真と絵本の中の犬はなんか違うな。」
図鑑の中の犬たちを眺めながら、
さわり心地や、走る姿、しぐさ、眼差し、鳴き声を想像して楽しんでいた。
当時、図鑑の中で私がもっとも好きだった犬はチャウチャウ。
名前がとてもユニークで、響きもいい。
全身ふわふわの毛におおわれ、
ちょっとつぶれた鼻や丸い目がふわふわの毛の間から覗いているのも可愛らしかった。
大きな体はぎゅーっと抱きしめても、どっしりとしていて、動じない。
じっと見つめて、ここぞというときに「ウォン」と低音で吠える。
そんなイメージを私は抱いていた。
見た目が派手すぎないところも好きだった。
*
いま、図鑑の中のチャウチャウを眺めていたころのわたしを思い出す。
小学1年生の時からカギっ子だった私は、
想像上でチャウチャウに抱きついたり、話しかけたり、一緒に遊んだりしている間は寂しさを忘れていたのかもしれない。
それどころか楽しんでいた。
幼いころの私には想像力があった。
大人になった今、自分には想像力が足りず
つまらない人間と思っていたけれど、
考えてみると今の私にも想像力が勝手に湧いてくるものがある。
ひとつはフラ。
フラの音楽は、心地良く耳に入ってきて全身に染み渡っていき、
その音楽を聴きながらひとつひとつの振りを丁寧に踊っていく。
曲の中に登場する見たことのない山や海の景色や、
両親や兄、そして今一緒に暮らす家族のことを想像しながら踊っていると、
自然と心が満たされていく。
もうひとつはスノーボード。
山の上部に立ったときに眺める景色が大好きで、
遠くに見える山々、下界に広がる町を眺めていると
視野が広くなると同時に、普段思いつかないようなことも想像しはじめる。
そうすると気持ちも軽くなり、頭も整理されてとても心地良くなり、
ワクワクしながら滑り出す。
大人になってからもこんな風に想像力を活かせていると思うと、なんだか嬉しくなった。