1.彼が居なくなった今日
鳴り響く目覚ましと母の大きな声で目を覚ました。
私の家は父がいて、少しばかり荒れている母が
いるごく普通の家庭だ。
朝ご飯は用意されるし、
殴られるなんてありえない、 恵まれている環境。
なのに、どうしてこんな娘に育ってしまったのか。
「おはよう、お父さん、お母さん」
同じようにおはよう、と返してくれる。
「今日、始業式だから早めに出るね」
母の炊いたご飯と市販の二つ入り納豆を一つ口に運び、
小顔効果を期待してお気持ち程度のマッサージをして家を出た。
今日から高校2年生になる
学校に行くまでに通る道は、
過去を思い出させられるので不快である。
朝から悲しい思いはしたくない。
初めてキスをしたここの曲がり角
赤信号を間違えて渡ってしまった交差点
大好きだった彼から別れを告げられた、この桜の木の下
曲がり角には不審者注意のポスターが貼られたし
信号は押しボタン式になった。
思い出の場所が、私だけを置いて変わっていった
私だけ、まだ1年前から何も変わっていない
「あーあ、朝からダメだな」
こんなことを毎日しているのだ、習慣になってしまった
今の私を見たら、彼はきっとメールからSNSまで全部ブロックするだろう。せっかく最近はずされたのに。
強い風邪が吹き、桜と乱れる前髪が重なり合った1年前の今日。私は死よりも辛い別れを経験したのだ。