おかあさんの子ども
春に受けた健康診断の眼底検査で、「疑」と書かれた結果があり、紹介状が
入っていた訳ではなかったのだが、気になるので眼科を受診した。
「眼球の中なので、パッと見た限りではわからないので、一度検査をしておきましょう。
瞳孔を開いて検査するので、眩しかったりすぐに運転は出来ないから、後日ご家族などに運転をお願いして受けるようにしてください。」
平日なので夫に頼めず、近くに住む実家の母に送迎をお願いした。
検査結果は、問題なし。
しかし、結果にはなかったほうの目に、少しだけ不安要素があった為(生まれつきなのか、最近そうなったのか、わからないので)、念の為また半年後に受診することになった。
検査に時間が掛かるだろうから、と、朝送ってもらって一度帰宅してもらい、終わってからまた連絡して、再び迎えに来てもらった。
近いとはいえ、2往復させてしまったし、終わったときはお昼を回っていた。
母から
「どこかでお昼ごはん食べてから帰ろうか」
と言われたのだが、思いの外眩しくて視界もモヤモヤしている。
外食する気にもならないので、
「うちで簡単に済ませようかな。
最近気に入っている、美味しい雑穀の食パンを冷凍してあるから、ピザトーストにでもしようと思うんだけど…。
それで良かったら、うちで食べていく?」
と伝えると、
「ずっとご飯ばかりだったから、パンが食べたかった。じゃあご馳走様になろうかな。」と。
コロナ禍もあって、母が我が家に入るのもどれくらいぶりだろうか。
作っておいたシソジュースを出してゆっくりしてもらい、その間にお昼ごはんの用意をした。
冷蔵庫を覗いて、玉ねぎとピーマン、そしてズッキーニを取り出し、ピザの具材に。具沢山にしよう。
昨夜作っておいたラタトゥイユもある。
買ってあった、豆乳ベースのコーンスープも更に豆乳追加で、冷たいスープでいいかな。
…トースターで焼きたてのピザトーストを出すと、
「パンもサクサクで美味しい」
と、とても喜んで食べてくれた。
「あるものでごめん」
と伝えると、
「普段自分で作ったりしないものだから、どれも美味しいよ」
と言ってくれた。
あるものでおもてなし。
結婚してすぐ、子どもが小さい頃など、両親が遊びに来て、うちでごはんを食べる機会もあった。
実家に居るとき、お手伝いもあまりせず、まともに料理もせず、一人暮らしもせずに結婚した。
なので料理はずっと、今でも苦手意識がある。
ただ、遊びに来た両親にごはんを作ると、「しっかりやっているから大丈夫」とか、「こんなものも作れるよ」と、自分を良く見せたい気持ちになるのだ。
レシピ本を見ながら、何種類も作って、喜んでもらって。でもドッと疲れる。
…ということがよくあった。
子どもが大きくなるにつれて、部活が忙しくなったりで、家に呼んで一緒にごはんを食べる、という機会も自然となくなってしまった。
おかずを多めに作って持っていくことは、今もあるのだけれど。
なので今回は、初めて何も肩肘張らず、気合いも入れずに出来たのかもしれない。
またこんなふうに、母との時間を過ごすのもいいな。
そして、母の運転する車の助手席に座っていることも新鮮だった。
免許を取ってからは、普段は私が母を助手席に乗せているから。
数年前に手術を受けて退院の日、夫が忙しくて母に迎えをお願いしたのが唯一だったかもしれない。
あの日は、少しでも車が揺れる度に傷口が痛くて、必死で耐えていた。
久しぶりの助手席。
ちょっと荒い運転。
しかし、今は慎重に運転している。
運転する母の横顔を見ながら、
「子どもの頃以来だなぁ」
なんて思う。
なんだか「おかあさんの子ども」に戻れた時間だった。
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