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ローカルピザ屋

 ニューヨークに来て一番嬉しいこと。それは「現地の人だと勘違いされること」。わたしは観光客になりたくないのだ。だからタイムズスクエアや自由の女神は観に行かない。ガイドブックは買わないし、食事する場所を選ぶ際に日本人向けのまとめサイトを確認したりしない。Google Mapsで現地の人が行っていそうな場所に行くのだ。
 そういうわけで、現地の人に人気だというレビューのあったマンハッタンアッパーウェストのピザ屋に行くことにした。宿泊していたホステルから歩いて10分ほどのPizza Proという小さな店で、行ってみると店の前のベンチで男性が何か吸っている。マリファナのような強い匂いがした。入店すると店主らしきおじさんが笑顔で迎えてくれる。わたしはペパロニのスライスを1枚注文した。温めようか?と聞いてくれたのでお言葉に甘えて店内で待つ。すると、ペパロニをオーブンに入れた店主が突然店から出て、ベンチに座っている男に声をかけた。どうやら「ここで吸うな。吸うなら、向こうの店から見えない椅子のほうで吸え」と注意している。男が移動したのを見届けてから店主は店内に戻ってきた。「彼は観光客なんだよ」やれやれといった様子で店主はわたしに話しかけた。「バレたら、彼じゃなくて店が罰金取られるんだよ」とぼやく店主に、「まぁ違反ですもんね」と話を合わせた。この土地の薬物規制について詳しくないが。そのとき、わたしはコロンビア大学の売店で前日に購入したColumbia Universityのロゴが入ったパーカーを着ていた。Tシャツと羽織だけを日本から持ってきたが、10月のニューヨークは予想以上に寒かったのだ。おそらく店主は、わたしをコロンビア大学の学生と思い込んだのだろう。そのままわたしたちはピザが十分に温まるまで適当な雑談を続けた。
 現地の人と思われたであろうわたしは気分よくホステルに帰り、ピザを食べた。他にもニューヨークのピザを試したのだが、Pizza Proのペパロニは一番美味しかった。4か月経った今、Google MapsでPizza Proを検索してみると、閉業になっているのが悲しい。


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