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効率を考える

「ねぇ、お茶飲む?」

 と夫が言った。こう問われると、普通「あら、お茶でも淹れてくれるのかしら?」と期待をしてしまうものだが、夫の「お茶飲む?」は、

「私はお茶飲みたいと思っていますが、もしあなたも飲みたいと思っているなら、私もご相伴に預かりたいです」

 という意味である。言ってみれば、

「俺は茶なんて淹れる気はサラサラねぇけど、お前が飲むなら飲んでもいい」

 という関白宣言に近いものだ。夫は自分が一言、

フェネック
ねぇ、お茶飲む?

 と言えば、私がお茶を淹れてくれることをわかって言っているのだ。何とも腹立たしいではないか。

 と、いうことで、お茶にすることにした。
 私は、
「あーあ、よっこいしょういち」
 と昭和感満載のおやじギャグを放ちながら立ち上がり、台所へ向かう。まだお湯を沸かしていなかったので、やかんに水を入れ、火にかける。そして昨夜、茶筒に入っていた葉っぱをすべて使い切っていたことを思い出し、新しいお茶っ葉の封を開けた。茶筒は居間に置いたままだったので、袋から直接、急須にお茶の葉を入れたその次の瞬間、私は思った。

 封を切ったお茶の袋を持って居間に行き、茶筒に詰め替えるのと、茶筒を台所に持ってきて、台所で茶筒に詰め替えるのと、どちらが効率がいいのだろう。

 作業の効率化が叫ばれている現代社会において、家事もいかに気分よく効率的に行うか、ということが最大のテーマのように扱われている。家事効率化のお役立ち情報がネット上にも散見しているような世の中だ。そんな令和の世に生きているというのに、今ここで私は、安易に居間へ茶筒を取りに戻ってしまってもいいのだろうか。やはりここは、現代社会を生きる者として、効率というものを求めてみるべきではないか。そう思った私は、効率的に茶筒に茶を詰め替えるにはどうしたらいいか考えてみることにした。

 茶筒の定位置は居間である。

 しかし我が家は居間にプラスチックごみ専用のごみ箱など無い。詰め替えが終わり、茶が入っていた袋が空になれば、それはプラスチックごみになるので、捨てる場所は台所となる。

 頭の中でシミュレーションしてみる。(ちなみに、現在私は台所にいる)

 封を切った茶の袋を居間に持って行き、茶筒に詰め替え、空の袋を持って台所に戻り、プラスチックごみに捨てる。

 居間に茶筒を取りに行き、台所に戻り、茶を詰め替えて、空の袋をすぐそばのプラスチックごみに捨て、居間に戻り茶筒を定位置に置く。

 茶筒を取りに戻る方が、ワンアクション多いことがわかったので、居間で緑茶を詰め替えることにした。

 しかしである。

 私は豪邸に住んでいるわけではない。2DKの我が家の台所と居間を往復するくらい、大した距離ではない。
 シミュレーションに使った時間は約30秒ちょっと。居間から台所の往復などに30秒もかからない。効率を考えていた分、数秒の時間を無駄にしたことになる。

 私は今、得をしたのだろうか。損をしたのだろうか。考えれば考えるほど、まるでわからない。「う~ん」と台所で一人、唸って考えていたら、

 ピーーーーー!

 と、笛吹ケトルが鳴き出した。そんなこと考えてる方が時間の無駄だと言わんばかりに、鳴き続けるケトルに「はいはい」と返事して、私は火を止めた。


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花丸恵
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