ヘイ、シリ!
ショックな出来事があって、もんもんとし続けていた。
原因の一端は自分にあるのかもしれないと考えた時、過去の一連の辛かった出来事が蘇ってきて、結局同じことを繰り返してるだけじゃないか、自分はちっとも成長してないじゃないかなんて、暗澹とした気持ちになった。
過去の自分の行いが追い討ちをかけてくるのである。
ここ数日、足の付け根が攣るように痛むので、よく行く近所の整体院で診てもらっている。
そしたら、若手の院長に言われたのだ。
「もしかしてなんですけどね。この足の付け根の痛み、二年前くらいに滝に落ちたときの影響もあるかもです」と。
「あ”ぁ...」
うつ伏せの状態で私は赤面しながらうめいた。よく覚えていますね、そんなこと...。
厳密に言えば滝ではない。川である。
二年前、四万川の橋から、15メートル下の水面に飛び込んだのだ。
サーフボードに立ってパドルで漕ぐSUP体験をしていた時のこと。
インストラクターが頭上の橋を指して、
「自己責任になりますけど、飛び込みたい人どうぞ」と言った。
十数人いたけれど、手を挙げたのは私と若いカップルのみであった。
無駄にやる気を出してしまう時がある。
中年の代わり映えない日々に嫌気がさしていたせいで、もしかしたら、これで気合を入れたら、何かが変わるかもしれない、みたいな青臭いことを考えたような気もする。
私はためらいもなく、教わったように胸に手をクロスして橋から川へ飛び込んだ。
こんなの余裕だぜ、と思ったら、ものすごい衝撃が尻に来た。
足から飛び込んだら、そのまま真っ直ぐ水中に入るのだろうと思った浅はかさよ。
重たい尻のせいで体はくの字になり、尻全面が水面に打ちつけられたのである。
しばらくのあいだ、私は尻尾をつかまれた孫悟空のように動けないでいた。
そのとき以来、尻には常に痛みがつきまとった。それがようやく消えたのは10ヶ月も経った頃だった。
人生において、あんなに尻が主張してきたのは始めてだったから、本当に驚いた。
あまりの痛みに、いい歳をしてやる気を出したことも、尻を軽んじてきたことも悔やまずにはおれなかった。
そして今になってなお、そんな過去の行いが、私に別の痛みをもたらしているかもしれないなんて...。考えたくない。
「まぁ、私なんてね、戦国時代だったらとっくに寿命尽きてる歳ですからね、そりゃあ、あちこちにガタもくるってもんですよ、ハハハ」
苦し紛れに絞り出した訳の分からない言い訳に、若い院長は爆笑していた。
笑いがとれたから、いいか。
でも皆さん、お尻はどうぞお大事に。
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