ある姫の生まれ変わりの話

ベビーカーに股を全開にしてのけぞるように乗っている赤ん坊の勇ましい姿に朝から笑ってしまった。

ふと、もう何十年も前に聞いた、知り合いの家族に起こった話を思い出した。

確か子どもが3、4人いて、そのうちのひとりが女の子だった。その当時でまだ幼稚園生ぐらいだったと思う。

その子がある日突然、ぐったりして、しゃべることも立つこともできなくなってしまった。医者に見せても原因がわからない。

困り果てた両親が知人のツテで頼ったのがいわゆる霊媒師と言われる人だった。

その霊媒師によれば、女の子を苦しめているのは複数の武士の霊であった。中心にいる武士と意思疎通を図ったところ、その者曰く、女の子は彼らが仕えた姫の生まれ変わりということらしかった。

彼らは、人間の時間にすれば何百年もずっと姫を探していた。それでようやく見つけたものだから、わっと一斉に取り憑いてしまったらしい。

女の子を助けるにはどうすればいいか。

霊媒師が尋ねてみれば、その武士は、俺の後ろに100人ほどもいる、その者たちの想いもあるゆえ容易ではないと答える。皆、その姫を連れて行きたいと願っている。

それをさせるわけにはいかない。なんとか女の子を助けねばならない。

霊媒師は他の者たちを率いているその武士と交渉した。

「この子が結婚して子どもを産むとき、おまえを長男として生まれ変わらせてやろう。だから何とかこの子を助けてはもらえぬか」

他の者を説得できるかどうか約束はできないが、と前置きをして、その武士は申し出を受け入れたらしい。

規模が大きいために、すべての霊障を取り除けるかわからないし、できたとしても時間がかかるということだった。あまりの霊の強さに霊媒師の手の皮がベロンとむけてしまったとも聞いた。

当時、狐につままれたような気持ちでその話を聞いた覚えがある。

私に見えない世界のことはわからないし、特別な力があるわけでもないので、実のところ狐につままれたのかもしれない。

でも、実際に、寝込んでいた女の子が急に元気になって遊んでいたのを見た。

そして、彼女の前世であるという姫は南北朝時代に実在し、ある地方ではその姫にちなんだ祭りが現在も行われている。

ただ、その姫に支えた100人を越す武士が成仏できずに彷徨うほどの悲惨な出来事があったのかどうかは不明である。

でもまあ、世の中には不思議なことはあるものだ。

考えてみれば、その話を聞いた頃、私は高校生だったのだから、その女の子だって今では立派な大人だ。結婚して子どもがいても不思議ではない。

あの時の約束は、果たされたのだろうか。

なぜだかふと、通り過ぎた赤ん坊を見て、そんなことを思ったのである。

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