トラ・トラ・トラ
子どもだって、運命という言葉には弱い。
私の中学では給食のとき、班を作って一緒に食べるのがルールであった。
その日も、別に仲が良いわけでもなく、たまたま席が近いというだけの接点しかない同級生6人で机をくっつけて、給食の配膳を待っていた。
その最中、どういう経緯でか、干支の話題になった。
班長の男子が私に聞いてきた。
「おまえさ、何年生まれ?」
「私? トラ年生まれだよ」
そう。何を隠そう、私は寅年の女である。
「マジで? オレもトラなんだけど」
「ヤダ、すごい偶然!」
だって、干支は12もあるのに!
乙女は偶然の一致が好物である。
調子づいて、班長は隣の男子にも尋ねた。
「おまえ、何年?」
「オレ、トラ年」
「マジか? オレらもトラ年なんだけど」
「マジで!?」
このやりとりが、あと3回繰り返され、班の6人全員が寅年生まれだと判明したとき、私たちの班には興奮の渦が巻き起こっていた。
誰ひとり、肝心なことに気づいていない。
我々は確信していた。同じ班になったのは、きっと偶然ではない。我ら6人は、奇しくも同じ干支という運命で結ばれた同志なのだ!
班長が、隣の班長に自慢した。
「オレたちの班、全員がトラ年なんだぜ」
相手は目を丸くして、
「スゲー!」と叫んだ。
7人目のバカである。
隣の班長は、オレも聞いてみよう、と言って、隣の女子に尋ねた。
「おまえ、何年?」
行儀良く席に座っていた隣の女子は、彼を見上げて、面倒くさそうに、
「ウサギだけど?」と答えた。
「なんだよー」
隣の班長は撃沈し、肩を落とした。
それがまた、我が班の連帯感を強めた。
この日の給食ほど、班で食べるのが楽しかったことはない。