誕生日会と就任式と
「準決勝、頑張ろー!西園寺く…あれ?」
病院のベッドで目を覚ましたピンク色の髪に眼帯をした女性はあたりをキョロキョロと見回す。
「やば!?もしかして熱中症で倒れたのかも!?」
「スイヒ、目ぇ覚ましたか。なーに寝ぼけとんじゃわりゃ」
サングラスにアロハシャツを着たヤクザ風の男が近くの椅子に大股開きで座っており、目覚めたスイヒを小突く。
「ひ、広島呉男の菊池さん!?準々決勝残念でしたね…でも次は…「誰と勘違いしとんじゃ!ワシじゃ!ギンベエじゃ!」
「ギンベエ…ギンベエ副隊長!?なんでここに!」
「お前が目を覚まさんからじゃ!単独任務、ご苦労だったのう。ミロクも来とるぞ」
「よかった〜やっと目を覚ました。僕わかる?ミロク。」
「ミロク副隊長まで!?」
「心配したよ〜だってあの戦いのあとから数日目を覚まさないんだもん。」
「鍛え方が足らんのじゃ!お前はそれでもヴァサラ軍か!」
ぶっきらぼうに吐き捨てるギンベエに対して、ミロクもはいたずらっぽく笑い、スイヒに耳打ちする。
「一番心配してたんだよ。アニキ」
八番隊の二人の温かい見舞いにより、『ああ、帰ってきたなぁ…』と自然と笑みが溢れるスイヒの肩をギンベエが乱暴にバシバシと叩く。
「痛っ!痛い!痛いですギンベエ副隊長!」
「ようし!それだけ元気がありゃ行けるな!快気祝いじゃ!食堂でメスティンが料理作って待っとるぞ!」
「ちょっ!えっ!?ギンベエ副隊長!?」
戸惑うスイヒをグイグイ引っ張りギンベエはヴァサラ軍の食堂の扉の前へと連れて行く。
普段は止めるはずのミロクすらノリノリでギンベエの後に続くのをおかしいなと思いながら、悪い気はしないので、ゆっくりと食堂の扉を開ける。
「快気祝いかぁ…私の好きな食べ物でもあるのか…あれええええええぇ!?すんごい豪華なパーティだああああああああ!?」
食堂中。いや、隊舎中に響き渡るほどのスイヒの絶叫がこだまする。
叫びたくなるのはわかるほど食堂は豪華だったのだ。
机いっぱいに置かれたケーキ、隊長クラスしか見たことがないような分厚いステーキ、隅から隅までみずみずしい野菜、ピザ、ハンバーガー。
その他大量の食べ物がバイキング形式で並んでいる。
まさに『ご機嫌な晩飯』といった感じだ。
スイヒは眠っていたこともあり、大きなお腹の音が鳴ったが、その豪華すぎる料理にたじろぐ。
「い、いやいやいや。私が退院しただけでこんな豪華なセットいらないから!ほんとに!気持ちだけで大丈夫!め、メスティンちゃん!?な、なんでこんな…」
まだ何かをせっせと作っている紫髪のツインテールの女性、メスティンに訳を聞く。
メスティンは指を自らの口に当てて「ん〜」と唸る。
「別に作るのは嫌いじゃないよ?って言うかこれが私の好きなことだし。」
「いや、そうじゃなくて!」
「おい!早く席につけよ!主役が席につかないと食えねぇだろ!腹減ったー!!」
「ヒルヒル!あんたまで!」
「いいから座れよ、もう待ちくたびれたぜ!」
「ジンくん!?」
「ねぇスイヒ〜なんで座らないの〜?おんもしろーい」
「ヨタローもいるし!」
「三人とも急かさないでやれよ、スイヒは病み上がりなんだぞ!」
「ルト隊長!?」
スイヒはテーブルの一角に座る甲高い声の男、いかにも主人公っぽい青年、子供っぽい言葉で喋る男、帽子を被った女性を見て驚きを隠せずにいた。
「み、みんなどうしたの忙しいんじゃないの!?」
「オメェさんのために俺が集めたんだよ。他にもあの日科学都市で戦った連中もいるぞ!人気者だなぁ…」
「かっ!?ギ、ギンベエ副隊長、どうやってこんなに集めたんですか!?ただの快気祝いですよね。」
「オイオイ、もうそのおとぼけはいらねえぞ!座れ座れ!」
ヒルヒルがスイヒに早く座るように促す。
スイヒは言われるがまま食堂の中央の席に座る。と、同時に大量のクラッカーが鳴らされた。
「「「「「「「「「「スイヒ、誕生日おめでと〜!隊長就任式おめでと〜!!」」」」」」」」」」
「え?え?今日誕生日じゃないよ?だって今日は7月29日…」
「いつまで寝ぼけとんじゃ、アホ」
「あれぇ…?7月29日だった気がするんだけどなぁ…なんでだろ?」
「カレンダーをご覧よ。」
「あら?ホントだ…?」
おかしいなぁ…とばかりに首を傾げるスイヒだったが、誕生日だったことがわかりじわじわと嬉しさが込み上げてくる。
「あ、ありがとう!え!?って事は今日私主役!?ナニしても良い日!?ナニしても!?」
「うんまぁ…あまり度が過ぎなければね…ほんとに」
スイヒの言いたいことを全て察知することができたルトが作り笑いで注意するが、もはやその声は届いていないらしい。
キラキラとした瞳で男を見ているのがわかる。
「あはは!スイヒおんもしろーい!」
「勘弁してくれよ、スイヒ。お前もう隊長なんだ…「ジンくん。今日まではヒラ隊員!」
「コイツ…」
ジンの話を遮り、さっそくなにか食べようと料理を取り始める。
「いっぱい栄養あるもの食べてね!」
「みんな、ほんとにありがとうね!これなら任務で怪我した甲斐があったわ。でも隊長はなぁ…今更だけどドタキャンしたくなってきた…隊長おめでとうの部分のチョコだけ残せばならなくていいとかあったり…「するわけ無いじゃろうが!ボケ!」
「だよねぇ…でも。こうやって皆で笑い合ってご飯食べて、馬鹿な話しして。みんなが幸せになれて…そのための力になれるなら隊長…悪くないのかも。年齢も年齢だし…うん。大人にならなきゃね。」
スイヒの独白にいつの間にか当たりがしんと静まり返る。
ギンベエを除いて…
「スイヒ…り、立派になりやがって…チクショウ…汗が止まらねぇや」
「うえ!?や、やめてよギンベエ副隊長!こんなところで!!の、飲も!?食べよう!ね?ね?」
「…」
「…」
「…」
「今度は何!?」
「い、いや…何って言われても…主役は君…なんだよ?」
ミロクはそこはかとなくパーティ開始の合図をスイヒに促す。
スイヒはぽっかりと口を開け、そう言えば!という表情をし、コップを空に掲げる。
「今日はありがとう!最高の誕生日だよ!カンパーイ!!」
「「「「「「「カンパーイ!!!」」」」」」」
その日、食堂は過去一番の盛り上がりだったそうな。
誕生日会と就任式と
ーおわりー
おまけ
会話の一部
「誕生日おめでとう。スイヒちゃん。体調が悪くなったりケガしたらすぐ頼ってね。大事な親友なんだから。」
「ありがとう。そうさせてもらうね!デスクワークとか超苦手で精神的にやられるかもしれないし…ハハ…」
「きみはいつかここに来ると思ってたよ。僕らはヴァサラ軍の一等星になるんだ。油断は禁物だよ…って脅すのは置いといて。おめでとう。今日は楽しんでね、三日間くらい君の仕事は僕がやっておくから」
「えっ…いいの…」
『相変わらずかっこいい…』
「スイーツいっぱいなのも嬉しいな。あ、それにはこっちの紅茶が合うよ。あと…シフトは心配しないで。なんとでもなるから、今日は好きに遊ぼう。誕生日おめでとう。」
「うー…頭が下がる…なんか申し訳ない…申し訳ないけど、スイーツ食べ過ぎでは…?」
「よう、この肉俺が調達してきてやったんだかんな。きっちり後で徴収すんぞ。そうさな。ざっと6000万くらいかね。払えんだろ?隊長さんよう」
「はぁ!?誕生日なんですけど?それでも払わせるの?」
「当然、払わんなら食わんでいいぞ、だいたい…グホッ!「失礼した。隊長就任おめでとう。ワタシ達の息子がもうすぐ入隊する。よろしく頼む」
「息子!?ってことは二人!?キャーッ!」
「と、とにかくまぁ…よろしく頼む…」
「うおーい。スイヒィ…次はシャンパンにしようぜぇシャンパン…」
「ちょっ!それ私の!勝手に飲むな!返せ!相変わらずなんだから!」
「そうだべ!せっかく来たんだからたくさん食べなきゃダメだべ!」
「ちょっ!?ピザ無いんだけど!?まさか…」
こうして夜は更けていく…