門外不出の論文と繋がる世界【イザベラSS】
※このSSは劇場版ヴァサラ戦記FILM:SWORDに繋がる話です。
ヤマザクラ島の夜は綺麗だ。
すっかり暗くなってしまった海をシンボルとしてそびえ立つ灯台の灯りが照らす。
そんな風情のある街に似つかわしくないギラギラの蛍光色でライトアップされた所謂『大人の遊び場』。
『N'山桜GIRLS(ん・やまざくらガールズ)』と大きく書かれた青緑の看板。店外に聞こえるほど騒がしい客の大声。
すべてがヤマザクラ島とはかけ離れていた。
そこへ訪れる一人の男。
「いらっしゃいませ、どの子をご指名ですか?」
「あ~…10万の売上がない子を…一番奥のVIP席で…」
「ご案内しま〜す」
男が連れて行かれたのは他の席よりも二段高いところにある個室。
「何か飲まれますか?」
「コーヒーで…」
「お客様うちにはお酒しかございませんが…」
「コーヒーで…」
「…入って」
VIP席に飾られている安っぽい大理石もどきの額縁と壺をずらし、男は現れた秘密の扉へ案内される。
豪華な椅子に座っていたのは水色のパーマがかった水色髪がどんどんと毛先にいくにつれ赤色になり、頬杖をついている指には777のタトゥーが掘られ、両耳には薔薇のピアス、そしてどこで売っているかもわからない露出度の高い派手派手な服装に身を包んだ女性。
「ようこそ、『便利屋いたりか』へ。久々の依頼、少し安くしとくよ。あたしはイザベラ、まぁ座りなよ。あんたは?」
「…え?」
「いやいや、あんたの名前に決まってるっしょ?」
眼鏡に白衣といった出で立ちの依頼主の男はマイペースでガンガンと話を進めていく水色髪の派手な女性、イザベラに大きなため息をつく。
「私はカオ…「顔!?変わってんねぇ?」
「いえ、カオ(佳穂とかと同じ発音)です」
「だとしてもカオって言えばあっちが浮かぶっしょ。んなことはどーだっていいんよ。あたしが『依頼を受ける時の三本柱』、知ってるんよね?」
お気に入りなのか人差し指、中指、薬指に彫られた777のタトゥーがしっかりと見えるように指を裏返し、手で三の数字を作る。
「さ、三本柱…?」
「ホラこれだ…ホーラこれだ…どーせ合言葉言えたら依頼こなしてくれる便利屋とでも伝えられたんよね?」
何に対して苛立っているのか、椅子から立ち上がり落ち着かない様子で部屋をウロウロし始める。
「あの…僕の依頼はモクレンの秘密の論文で…」
「え!?あの『秘薬』の情報が書かれたっていう論文!?マジ!?アレ絡みなん?あの都市伝説の!?ご参考までに報酬も聞いていい?ネ?ネ?」
『気分の移り変わりが激しい人だな…』
「君は分かってんねぇ!依頼の三本柱は『合言葉』『料金』そして『あたしの興味』!!いや〜これは久々の大型依頼!」
「あの…話進めていいですか?」
カオはイザベラの行動にすっかり困り果て、申し訳程度に置かれていたお茶をぐいっと一気飲みする。
「報酬の話ですが、成功報酬で…1000万」
「い、いっせん!?すっごい助かる!人件費と店の維持費で山桜GIRLSの売上はあたしに入らんし、便利屋稼業は貧乏暮らしのカツカツなんよね。お兄ちゃんの同期のテリーヌってヤツに賄いもらったり、ヨモギさんに野菜貰ったり、イネスお姉ちゃんにいらない服貰ったり、日々の食事をイカめし小盛りにしなくて良くなるわけだ。パーッとヤマザクラ島名物のシマナガ屋の高級和菓子としらす丼大盛りでも頼んで、ブランドバッグも買っちゃおー!あ、舌ピも開けようかな。」
「そういう使い方をするから儲からないのでは…?」
「入ったら使わないと勿体ないっしょ?」
「…」
カオの呆れ顔をよそに依頼を受ける気満々のイザベラは皮算用をしながら意気揚々と自前のコートに必要なものを詰めていく。
「刀…二本持つんですね。ん?」
カオはイザベラが右腰に帯刀しようとしているひどくボロボロで柄は錆びきり、刀身もひどく刃こぼれし、とても斬れるとは思えない短刀を見てこの人は本当に大丈夫なのかと訝しむ。
「こんな刀を持っていくんですか?ほ、本当に大丈夫ですか?論文を狙う輩は沢山いるんですよ?」
「刀なんて消耗品なんよね。新しいの買う金がないんよ、ほら、前回の報酬で奮発した刀はピカピカっしょ?」
イザベラは左腰の短刀を抜いてカオにふふんと見せつける。
「それは…普通です。」
「あ!昔のお母さんみたいなこと言う!!」
「間違いなくお母さんが正しいです」
「はいはい。じゃ、行こっか。」
医療の街モクレンは蒸気機関のような、幻想的でファンタジー感のある町だ。
医療の街と噂されてしかるべきというほど病院が立ち並び、中央にそびえる一番大きな病院の横には街のシンボルの時計台がある。
電気や水の供給は蒸気で動く機械で行われ、歯車が大量に組み込まれた家々の景色はまさに『幻想的』だ。
「で?論文のアテは?」
「…これですね」
カオは点字のようにあちこちが膨らんだ紙をイザベラに渡す。
「…点字?じゃ…ないか。法則性が全然違うし。」
「点字だと思って僕も解読してみましたが、全くわかりませんでしたね。」
「ん~」
イザベラはカオから貰った紙を、ストローに息を吹き自身のアイスコーヒーをボコボコと泡立てながら眺め、考える。
「な~んか見たことあるんよね〜これ。」
「本当ですか!?」
「んあ?本当に。あたしの記憶が正しければ…」
集中しているのかブツブツと何かをつぶやいてポケットから出したくしゃくしゃの紙に点字ようなものの写しを書き出す。
もっとも、彼女に絵心はないのだが…
「?」
「行こ!アテはできたから」
「は、はい!!ま、待ってくださいよ〜イザベラさ〜ん!」
カオは慌てて荷物をまとめたため、肝心の点字ようなものが書かれた紙を落としてしまう。
それを拾い上げた体格の良い男達。
リーダー格の男は「仲間を呼んでこい」と部下らしき男に耳打ちし、イザベラとカオを尾行し始める。
「どう?似合う?」
イザベラは服屋に入り、飛行ゴーグルを頭につけ、茶色を基調としたボーダーの靴下とそれに繋がるようなホックが付いた短パンに白いワイシャツ、そしてブーツとこれぞスチームパンクといった服装に着替え、くるくると楽しそうに回ってみせる。
「旅費は全額私持ちと言いましたが…」
「だからついでに服も買ったんよ。あ、コートはお気に入りだから羽織っとこ」
「はぁ…」
着替えの袋を大量に持たされ、カオはまた大きなため息をつく。
「おい、落とし物だぜ。」
「あ!」
カオは手がかりとして渡していた点字のようなものを体格の良い男に手渡され、慌てて受け取ろうとする。
瞬間、とんでもない力で殴り飛ばされ、30人ほどがイザベラとカオを囲む。
「俺達『ベニテング山賊団』も噂の秘薬の在り処を探してる。この人数だ、ボコられたくなきゃ道案内しな!」
「秘薬?薬の論文の間違いじゃないん?」
「ああ?何言ってやがる?噂の秘薬が手に入れば莫大な金が手に入る、そしたらここら一帯俺様が支配してやんだよ!」
「会話が噛み合わんね…それで理解できるん?論文なんてさ。見るからに単細胞なんに…」
会話が噛み合わないことに呆れたのか、イザベラは煽りとも取れる返答をし、山賊団の男達は怒りに拳を震わせる。
「全身の関節逆側に曲がるようにして連れてけ!!」
武器を持った男達は雄叫びをあげてうちかかるが、イザベラは身軽に飛び上がり、近くの家の壁をジャンプ台にし、くるくると回りながら蹴りを放つ。
「異界拳法…」
「異界拳法だぁ?ちょっとすばしっこく蹴飛ばしただけだろ…俺の仲間は…」
「な、なんだこの女の動き!」
「よ、読めねぇ!」
「異界拳法…大旋風蹴(サイクロンホイップ)!!」
ウインドミルのようにグルグルと回転しながら襲い来る山賊団を十人ほど文字通り蹴散らした。
イザベラはまるで観客がいるかのように手拍子を始め、蹴りが当たり蹲っている男によじ登り、そこを支柱にポールダンスのようにくるくると回転しながら、攻撃を当てた数人にとどめを刺す。
そして、再び観客を煽るかのような動きを始めた瞬間、無傷の山賊団に顔面を思い切り殴られる。
「いっった!!こういうの悪い癖…異界拳法…」
殴った相手にスキだらけの大技を繰り出そうとし、再度空振るとリンチを受けるかのような状態で山賊に囲まれ、一斉に武器を振り下ろされる。
「やっば!お兄ちゃんならこんな馬鹿なことしないんよね。反省反省…こういう時は…閃花一刀流『西洋菊』」
短刀を抜いたイザベラは一人の刀を軽く受け止めると、柔らかくその場で回転し武器を滑らせ軽々と攻撃を受け流し、囲まれたピンチを脱した。
「さらに…閃花一刀流『砂箱木(スナバコノキ)』!!」
ボコボコと荒れた地面に渾身の斬撃をぶつけ、高速の散弾のように飛び散った土や砂が山賊団の男達を次々と倒していく。
「ま、母さんはこれを斬撃飛ばしてやってるんだけども…はは…バケモノかよってね。」
「何くっちゃべってんだ!ガキ!」
「ガキ!?あたしはもう21で…ゲホッ!」
山賊団のリーダーの男はなかなかできる男だったらしく、調子に乗って喋っていたイザベラの腹部には長い刀が突き刺さっていた。
「けっ、馬鹿な女だ…このベニテング様に逆らえばこうなるってことを思い知れ」
「ゲホッ!ゲホッ!臓器をやられたか…なんてね」
イザベラはからかうように舌をべ〜っと出し、愛用のコートの背中から鉄板のようなものを取り出して地面に落とす。
「なんだぁ?テメェ。前は確かに貫いたはず…」
「閃花一刀流『樹洞(ウロ)』…お兄ちゃんが考えた技なんよね。お母さんより剣の捌きがうまくないお兄ちゃんなりの工夫。ホントに努力家で頭が下がんよ。切っ先が体の先端に触れた瞬間、皮膚に刀身を滑らせて刺したようにに見せる…立派な大木の中にぽっかり穴が空いたかのようにね。あ、あとこれ血糊ね」
イザベラは口についていた血糊をべっと行儀悪くベニテングの顔へ吐き出す。
「テメェ…バカにしやがって…殺す…」
「無理だと思うよ?あたしは『疫病神』…引いたほうが良いんじゃない?」
「『疫病神』だぁ?」
「んあ?暗い過去よ。んじゃ、そろそろ終わらせるかね。運の極み『人身御供(ひとみごくう)』:忌傷戻(いみきずもどし)」
数度剣を交えたところで、ベニテングは不発だと思っていた極みの本質に気付く。
しかし、気付いたときにはもう遅いとはよく言ったもので、過去に村を襲った時に剣士につけられた古傷が開き、動けないほどの激痛に襲われ無様な叫び声と共にその場で悶絶する。
「いでええ!!いでえよぉ!!傷が…傷が開いて血が止まらねぇ!!傷は昔に完治した…なんでこんな…」
叫ばなければ激痛でどうにかなってしまいそうなベニテングの眼前に行き、イザベラは笑顔で「教えてあげる」と言う。
「あたしの極みは『自身の不幸を他人にかぶせる力。』今は気に入ってるんよね。昔はさ、父さんみたいな激運極みじゃないし、母さんみたいに素晴らしい剣技じゃないしそんな努力もできないし…お兄ちゃんみたいに自分のアイデンティティを探して強くなれるわけでもなくて…「何が言いてぇ?」
「自分語り。最後まで聞いてくれてもいいじゃんよ。あたしの周りは何故か怪我人多くてさ…やさぐれたよね〜『疫病神のイザベラ』って呼ばれてたの。っということで…痛くなくなった?」
長い自分語りを終えたイザベラはベニテングに痛みが引いたかを聞き、愛用のコートから治療薬を取り出し、渡す。
「あくまで本業は戦いじゃないかんね。これでおしまい。自分で治して。イネスお姉ちゃんとメディお姉ちゃんが作った薬は効くよ〜」
ベニテングは薄く笑うと、部下を引き連れ山へ戻っていった。
イザベラの懐からはベニテングのものらしき財布。
「ま、薬代はいただくけどね。毎度あり〜、さ、カオ。行くよ、論文のとこへ。」
「場所わかったんですか!?」
「ん?ああ…あれは知り合いの…「今すぐ答えを言おうか、どのみち君はここで死ぬんだから…」
「…え?」
背中に銃を突きつけられたイザベラは両手を挙げてゆっくりと振り向く。
カオは下衆な表情を浮かべて銃口を向けていた。
「私の名はカオス。Dr.カオスだ。生ける屍の研究をしている…論文の在り処がわからなくてね。いやはや、研究者なのに謎解きは苦手でね「薬を独り占めしたいってこと?」
「話は最後まで聞くものだよ、君の好きな『自分語り』さ。噂は聞いていたよ。愛を知らない何でも屋の『疫病神』さん。誰が教えてくれたか…は伏せよう。ともかく、君はここで死ぬ、死後は生ける屍として甦らせてあげよう」
カオもといカオスは指をパチンと鳴らすと周囲の墓場からゾンビを召喚する。
はじめからこうするつもりだったのか山賊との戦いの最中に墓を荒らしていたらしい。
「ごめんね。今のあたしはもう一人じゃないんよ。大切な友達や家族の存在に気付けたから…それにあんたの計画もうまくいかんよ。本気でやるからね…」
「なんなのだこれは…どうすればいいのだ!!」
「…で、本気で大暴れしていつも通りこんな大怪我して帰ってきたと。」
「いだだだだだだ!!い、イネスお姉ちゃん、優しく包帯結んで!お姉ちゃん…お姉様〜!!」
赤髪に外人のような見た目、イネスと呼ばれた女性は声に怒気を含みながら乱暴に包帯を結ぶ。
イザベラの右腕は赤黒く腫れ上がり、指は本来曲がらない方向に曲がっている。
「動かない!複雑骨折なんだから!…ったく。で、結局秘薬って何だったの?」
「…気になる?」
「まぁ…一応看護師だから…」
「ん。」
イザベラはイネスに茶色くなってしまった古ぼけた論文を渡す。
「…っぷ。あはははっ!これは確かに『秘薬』だわ」
「でしょ?んで、あたし達にしか解けない。」
暗号として渡された点字のようなものを鉛筆でシャカシャカと塗っていく。
そこには『ヤマイの体質→極み、血液→因果関係?投薬はまだ…』と殴り書きされていた。
「メディのお父さんの力。あんなのに渡すわけにはいかんでしょ。この論文がな〜んで都市伝説のお薬なんかね。」
「おそらく噂の根源は『あの女』か『あの先生』…」
イザベラは一瞬息が詰まったような苦々しい表情になるが、すぐに大きなため息をつき、「それより」と暗い声でイネスに縋る。
「依頼人倒したから報酬なくてさぁ〜!イネスお姉ちゃぁぁん。また仕送り少し…ほんっっっとに少しでいいからぁ…」
イネスは頭を抱えて「この子はホントに…」とぼやく。
「情報屋で成功してる七福さん、酒場で成功してるオルキスさん、ヴァサラ軍で確実に腕を上げてるオルフェを見習ったほうが良いわよ。」
「だぁってぇ〜」
「あれ、イザベラちゃんだ。その嘆き方はまたただ働き?」
「テリーヌゥ…そうなんよね〜あの」
「もちろん、僕に任せて!賄いならいくらでも作るから!!」
緑を基調とした服に優しそうな笑顔のふくよかな青年は板チョコを食べきり、コック服に袖を通す。
「特盛何丁?」
「並盛でいいから!!」
「栄養偏らせちゃダメよ!骨折はすぐ治すこと!オルフェも心配してたよ。」
「…はい。」
数日後、山桜GIRLSの閉店後の清掃をしている時にその青年は現れた。
美麗な赤髪は末端にいくに連れ水色になり、右目には蝶の眼帯をした『絶世の美男子』という言葉が似合う彼は、慣れた手つきで秘密の扉を開ける。
「お客さん、今日はもう閉て…あ!オルフェお兄ちゃん!!入って入って〜」
嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねながら絶世の美男子…オルフェを奥の部屋へ案内する。
「イザベラ…その格好は?」
「これ?モクレンで買ったんよね〜似合う?『スチームパンク』とか言うんだってさ、こういうの。依頼人まだいたからさ、その人のお金でみんなの分も買ったよ〜これがお父さん、これがお母さん、これがイネスお姉ちゃん、これがメディお姉ちゃん、これが閃花、これがカルノ、これがルーチェ店長、これがイリス、これがゼラニウム組、これがワグリ、これがメスティン、これがテリーヌ、これが特別参謀組、これが一、これが深華、これが鈴音…「ちょっ…買い過ぎじゃないか?」
「取り置きだから何往復もして取りに行ったんよ。イネスお姉ちゃんと。」
「いや、そういう話じゃない。「あ~!自分のがないと思ったんでしょ?あるよ!ここに!」
イザベラはオルフェに紙袋を三つ押し付けた。
思ったより数が多いそれを強すぎる体幹で落とさないように必死に抱えながら、「僕だけ多くないか?」とイザベラに尋ねる。
「んあ?お兄ちゃんは一つよ、これはジャスティので、これが…武烈の。」
「そうか…ありがとう、イザベラ…」
オルフェは武烈のと言われて出された紙袋をどこか寂しそうに眺める。
「連れ戻すのはお兄ちゃんの役目でしょ。いつか三人でまた仲良くできるからさ。そしたら渡して」
「ああ、ありがとう。イザベラ…って、どこへ行くつもりだ?ここからが本題だ…」
そろ〜っと扉の外へ出ようとするイザベラを強めの言葉を使いながら片手でガッと掴む。
「あ…あはは…なんでしょうお兄ちゃん?」
「また大怪我したらしいじゃないか!!君は自分の体を何だと思ってるんだ!」
「自分の体は自分の体の体だよ!」
「父上と母上が心配すると何度も言っているだろう!!」
「強かったんよ、敵が。」
「ならもっと剣を磨くべきだ!!僕も教える」
「時間ないから!!」
「依頼を減らすとかしたら良いじゃないか!」
「この世界は謎だらけだし…」
「子どもか…」
呆れたようにオルフェは依頼席に座る。
イザベラに出された汚いコップに注がれた麦茶を飲み干し、一冊の絵本を取り出す。
「お、お兄ちゃん、依頼かい?」
「依頼というか…頼みだ。兄妹として頼み…「やり直し」
イザベラは口を尖らせてオルフェを扉の外へ出す。
「依頼かい?って聞かれたら。『ああ、とびきりの報酬を用意した』」
「ほ、報酬はあまり…昔二人で読んだだろ?『魔女姫伝説』の絵本…」
「だ〜か〜ら〜!!こういうのは雰囲気が大事なの!!流れで、ハイ!TAKE2!」
イザベラは扉を閉めてオルフェに「オッケー」と声をかける。
「イザベラ、頼みがある」
「お、お兄ちゃん、依頼かい?」
「ああ、とびきりの報酬を用意した。」
「…聞こうか」
「現金で400万。もちろん前払いだ。」
「で、依頼内容は?」
「幼い頃二人で読んだ『魔女姫伝説』、これがどうもおかしい、歴史が変わってる。なんて言ったら君は信じるかい?都市伝説は専門外?」
「ジョーダン!!『便利屋いたりか』、そういったものも受け付けてますよ!」
…
…
…
「ハイオッケー!!!できんじゃんよお兄ちゃん!」
「恥ずかしいことさせないでよ…イザベラ。」
「いや、演技派よ。で?その依頼はマジなんね?」
「ああ、妖刀と魔女姫、そしてこの世界の時間はいずれ壊れる…」
オルフェはイザベラに優しく笑いかけ、「君が頼りなんだ」と絵本を開いた。
劇場版ヴァサラ戦記FILM:SWORDに続く。