【ヴァサラ戦記ー外伝ー】イザヨイ島。その後【漫画あるある。他の作者が書く外伝漫画】

ヴァサラ軍の隊舎の近くにある寺子屋。
そこにはボブカットにピンク色の優しく微笑む先生がいる。

彼女の名前はサクラ、その優しい笑顔と端正な容姿で近くの家に住む大人達、果ては子供を預けに来た男達まで虜にしてしまうのだ。

しかしサクラは非常に悩まされていた。
問題があるのは寺子屋の机を小器用にぴょんぴょんと飛び跳ねる少女。

「こら!アイリスちゃん。お勉強もしないと!!」

三つ編みの緑髪に紫の目、メイド服のようなカチューシャ、垂らした前髪の一か所が紫、手には趣味の悪い人形、走りにあわせてゆさゆさ揺れる上着のファー。

アイリスと呼ばれた彼女はかつてヴァサラ軍と対峙し、街一つをかけて戦った敵、ラミアとその部下で四天王の一人だったリピルとの間にできた娘だ。

ヴァサラとの戦争後に、自分のようにならないようにと願いを込めたラミアがサクラの寺子屋に入塾させたのだ。

しかし、アイリスはそんなラミアの心配からかけ離れるほどお転婆に育ち、今日も元気に寺子屋を飛び跳ねていた。

「アイリスちゃん。もう11歳なんだから少しは勉強もしなきゃだめよ。あなたの極みは勉強しないと心技体が揃ったことにならないんだから。」

「だって勉強嫌いだもーん。それに極み出てるし、パパもママもすごい極みなんだから!」

アイリスはお茶の入っていない湯呑みに向かって指で銃を撃つような構えを取る。

「ばんっ、ばんっ、ばんっ、ばんっ!ホラぁ〜!!」

四回目の「ばんっ」で指から空気砲のようなものが飛び出し、湯呑みを砕く。

「はぁ…それは極みじゃなくて『片鱗』が出てるだけよ…それにあなたのは「あ~!またサクラ先生原始人だか文化人だかの話をしようとしてる!」

「『原子と分子』ね。それ理解するまで極みは無理よ…」

「剣は寺子屋で一番だし心技体なんてすぐに決まってるってば!勉強なんて大っ嫌い!!」

サクラは困ったようなため息をつき、横においてあった栗饅頭を食べる。

「元ヴァサラ軍の一番怖い人に頼もうかしら…」

「伝令ですッ!」

ヴァサラ軍の伝令係がすっかり困り果てたサクラの前で跪く。

「あら?何かしら?」

「総督がお呼びです」

サクラは不思議そうに首を傾げるとゆっくりとお茶をすすり、ゆっくりと腰を上げ、隊舎へ向かう。

「仕事中にすまんのう。」

少しパーマのかかった銀髪の老人、背中のマント、誰もが憧れる男『覇王』ヴァサラがサクラの労をねぎらい餡蜜を机に置く。

「あら、これ食べたかったの〜。ワグリくんが言ってたやつ!!」

「食べながらで良い。一つ頼まれてくれるか?」

「ふぁのふぃ?」

餡蜜で口をいっぱいにしながら聞くサクラはまるで少女のようだ。
ヴァサラは気にせず続ける。

「うむ、わしらは今カムイとの戦で人が回らぬ、そこでじゃ。科学都市に行ってはくれんか?時期にイザヨイ島から帰ってくる者達がおる。そいつらと合流し、科学都市へ向かってほしいのじゃ。ハズキが少し恐ろしい情報を掴んでのう…先のタイミングで廉と言う薬師も科学都市の薬の話をしておった…」

「うーん…力になりたいですけど…今回はお断りします。私の寺子屋にちょっと手を焼く生徒がいまして、勉強嫌いというか…」

「わしがそいつを勉強させれば手伝ってくれるか?」

「それならいいですけど…」

サクラとヴァサラは寺子屋へ向かい、机を飛び回るアイリスの近くへ座り込む。

「ほう。ラミアによく似ておる。特に髪色じゃ。…あいつももう41歳か、時の流れとは早いものじゃのう。」

「あー!ヴァサラ総督だ!ねぇ!総督だって剣技だけで強くなったんだよね?勉強なんてしてないよね?」

普段ならここで『戯けがッ!』と拳骨が飛んでくるとこだが、ヴァサラは『ふむ…』と顎に手を乗せて何やら考えている。

「とある街の話じゃ…その街は強引にでも極みを会得することが美徳とされておった…町人も肯定しておった…外部の街の風習を学ばなかったからじゃ。また、とある国は鎖国をし続け、外国の文化を学ばなかった…学ばないというのは外に目を向けぬということじゃ…『閉鎖された場所』から外へ出るには知恵と勇気が必要じゃ。小娘、今のお前はそいつらと同じじゃ…『自由が欲しいなら自由になるべき学び』を得なければならぬ…」

「…」

ヴァサラの話が刺さったのか、アイリスは机の上の参考書をパラパラとめくり始めた。

「三日坊主じゃなきゃいいですけど」

サクラはクスリと笑い、科学都市に行く決意を固めた。


場所と時間はかわり、ヴァサラがルチアーノを討伐し、数日後のイザヨイ島(詳しくは:イザヨイ島の歌人にて)は平和そのものだった。

そこには妙な傘をかぶったサングラスに奇抜な髪色の男、ナムが何やら体格のいい男に話しかけていた。

「んだから、つまり!お前の願いを叶えるために、お金稼いじゃお★って話よ?OK?ドリックちゃん。」

「俺は接客などできないが?」

体格のいい男…ドリックはかつてカムイ軍、最近まで山賊の頭領をしていた男だ。
ナムも元カムイ軍だが、横のつながりがないというのは本当なのだろう、「初めまして」状態だ。

「ノンノンノン、用心棒でOK!なんかとにかく人手がいるんだと、うちの社長が言っててさ、とりあえず採用?みたいな☆?『月から有害電波が出てる』とかほざく妄想女もいるしな」

「ますます行きたくなくなったな…」

そんな島でのやり取りを聞いている二人組の剣士、一人は金髪に般若の面のような形をした口を覆うマスク、顔には雷に打たれたような傷跡が大量についている。

もう一人はいかにも優男に見える紫髪の丸メガネの男。
その薄ら笑いは不気味ささえ醸し出す。

「これからだな、まだ栄えてないうえに兵力もねぇ。こんなとこ攻めても何もならない。帰るぞ、イゾウ。」

「えー、お預けですか?凶(まが)さんは相変わらず酷いなぁ…」

「二年待て、俺の野望のためだ」

「二年待ってね〜」

ナムと凶の声が重なる

「世の中は力、金も、権力も、知力も、全て暴力の代用品でしかない」

「世の中は金、暴力も、権力も、知力も、全て金で帰るっしょ?」

「だから俺は気付かせてやる」

「だからもう気づこうぜ?」

「金」「暴力」「「こそが絶対だ!!」」

この島が歴史に刻まれるほどの大戦になるのとはこの頃まだ誰も知らない…


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