SWORD幕間
ー 数多の時間と世界が重なったその日、戦いに巻き込まれぬ者達、それを我が利とする者がいた。これは、戦に巻き込まれなかった者達の話 ー
第7世界
ラミアとツカハラが分身体を殲滅した歌舞伎町を歩くのは20代後半くらいの女性とホストの男。
女性はラミアが跡形もないほどに潰した分身体のかけらを踏み、絶叫する。
「うえっ。なんかジャムの袋踏んだ?マジ最悪〜」
「また新しいの買えよ、俺は待ってるからさ」
「え〜♡じゃあまた金借りて…「唐木田(からきだ)。金、返してほしいんだけど?」
ガラの悪い取り立て屋風の男二人は唐木田と呼んだ女性の眼前に立つ。
ホストとは冷たいもので、彼女に金が無いと分かるや、借金取りに絡まれている唐木田を放って去ってしまった。
「ちょっと!今同伴中だったんだけど!」
「同伴する金があるなら俺達に返せ」
「だから!その金はまたパパ活で仕入れてくるって!」
「そいつは一ヶ月前に聞いた。もう待たねぇ、今返せ」
「先月はたまたま調子が悪くて…「社長、こいつのピアスブランドの限定モノっすよ!これ売れば借金だいぶ減ります!」
もう一人の男は間髪入れずにピアスを強引に奪い取り、社長と呼ばれた男に渡す。
「これじゃ足らねえな」
「ヒールとバッグと…お?この女」
男が見つけたのは大きな手提げに入った汚いパーカーとズボン。
「社長、ドレスも売りましょう。それで返せるっす。」
「ちょっと!警察を…「金も返さねぇお前が何にすがろうとしてんだ?今回の件はテメーが金を返さねえのが悪いんだろ?」
『注射器をここに捨てないで』と書かれたいかにも治安の悪い公衆トイレに唐木田を乱暴に投げ込むと、逃げられないと悟った彼女が渋々着替えて渡してきたドレスを貰い、二人はその場を後にする。
「しかし、パパ活であんなに稼いで数年前まですぐ借金返してたあいつがいきなり返せなくなるもんなんすね」
「一度うまい汁を吸った人間は自分の立ち位置を見失いやすくなる。少しづつ少しづつ追い詰められているのに気づかねぇ…あの女も自分がもう『期限切れ』だって事を認められねぇんだ。」
「20代後半なんてまだまだイケるし顔はかわいいと思うんすけどね…俺が手を出しちゃおうかな…なんて」
「行くぞ江藤」
「うす」
借金取りの男は次の顧客リストを取り出し、パチンコ屋に入っていった。
第8世界
抜け殻となったキュロだったもの、『そこに何かが居た痕跡』、そして何故か数メートル離れた場所にある外殻の破片を軍服の男が拾い上げる。
「ヴァルツ長官、こちらが例の交戦地帯だと思われます。して、お目当てのものは」
ヴァルツと呼ばれた軍服の男はタバコの火でも消すように外殻を踏み壊し、片方の口角を上げる。
「いや、欠片も残滓は残っていない。この骨のようなものもガラクタだ。だが推測はできる。あの日ネルガーサイエンスから私の部下が奪っていたコピーデータから計算するにここで『例の武器が使われたのだろう』」
ヘリに乗り込んだヴァルツがプロジェクターに映し出したのは複雑怪奇な化学式。
「ウォルターを始末した次の標的は『ナノ粒子』だ」
彼が部下に見せたのは開発者の女性の写真。
これから襲撃の準備をするであろうヴァルツを乗せたヘリは何処かへと飛び去って行った。
しかし、ヴァルツよりも一足早く、『ナノ粒子』を奪わんと開発者の女性を襲うマフィアの集団がいた。
「カポルの手先ね…」
「一緒に来い。コードネーム:カレット。はい以外を喋れば殺す。」
真っ赤なドレスに特徴的なベレー帽の女性、カレットは、すっかり囲まれた絶望的な状況で、ボロボロの旧車からゆっくりと紅茶の入ったティーポットを取り出す。
「保温以外は本当にポンコツな車ね…早くBMW直らないかしら…」
「聞いてるのか?女。」
「ティータイムくらいさせてよ。知ってる?イギリスは戦争でもティータイムは必ず正午にするのよ?もちろんテーブルマナーは守ってね。」
カレットは熱々の紅茶を目の前の男の顔面にかける。
「こんな風にこぼすのはマナー違反よ。」
「熱っちい!!この女!」
やはりマフィアと褒めたくなるほど戦闘慣れしているらしい男達はすぐに戦闘態勢に入り、弾を込めるタイムラグのある拳銃ではなく、そのままナイフで自身を迷いなく刺しにかかる。
「いつかの雇われ兵より遥かに強いわね。」
ベレー帽から刃が飛び出し、フリスビーのように目の前の男を切りつけ、ポケットから小型の手帳のようなものを取り出す。
それを地面に叩きつけると周囲が激しい光りに包まれ、目を覆ったマフィア数人の動きを止める。
「まだまだいるわね…っ!」
胸元のペンダントを千切り、残りのマフィアの近くに投げつけると、そこから催涙ガスが噴出し、カレットは辛くもその場から車を使って逃げおおせた。
いや、逃げおおせたと本人は思っていた。
ザ・ロイヤル製の強化ガラスが割れる音、同時に機械の腕で首を思い切り掴まれたのがわかる。
「カポ…ル…」
呼吸ができないほど締め付けられた首のせいでかすれた声が漏れる。
万策尽きた。ケースにあるナノ粒子を使えば勝てるのかもしれないが、それは助手席だ。
とても手が届く距離ではない。
「テメェを殺してナノ粒子はいただいていく。残念だったな…「レディの扱いが苦手なようだな」
全身黒のスーツを身に纏った男がカポルの機械の腕から軽々とカレットを奪還する。
凄まじい技術だ。『この世界では作れないほど』の精巧なアーマー。
カレットは助けられたことより、アーマーの構造に興味が湧いてしまった。
「ナノ粒子の権利は我々『バスター・エンタープライズ』が買い取った。私のビジネスパートナーを傷つけないでいただきたい。」
黒いアーマーは顔の部分だけ上部に上がり、見知らぬ男の目がカレットと合う。
「死にたくなければ一緒に来い。」
男は助手席のナノ粒子をすぐに取り出し、アーマーでカレットを抱えたまま遠くへ飛び去っていく。
「チィ…なんだ、あの野郎は。」
「驚かせてすまない。私はバスター・バーンズ。またの名を『ブラックナイト』だ。君のナノ粒子の力を借りたい。『全世界の滅亡』がすぐそこに来ている」
「滅亡…?」
黒いアーマーの男、ブラックナイトはカレットを数日前まで空き地だった場所に急ごしらえとは思えぬほど精巧に作られた建物の中へ案内した。
冥界
冥界の扉は完全に閉じた。
ユウタの助力や他世界の助けにより、ほとんどの悪魔や死人を冥界に留めることができた事に閻魔王は安堵する。
しかし、あれだけの人数が流れたのだ、全員を捕捉することが不可能に近い。
その『逃げおおせた者達』を連れ出す役割を任されたのは盲目の剣士。
「して、拙者は第一世界に行けば良いのか…?」
「ああ、頼んだぞマサカド!あの世界はお前クラスじゃなければそもそも戦いにすらならないからな!」
「やっぱあの世界の連中みんなスッゲー強ええんだな!俺も行きて〜」
「ユウタ、お前は試合があるだろ」
「いや、試合がなくても我々は行けん。劇場版に出演してしまったからな」
「げ、劇場版!?」
麒麟のメタ発言に驚きつつ、ユウタ達はマサカドをにこやかに見送る。
「あ、一つ言い忘れてた。お〜い!!」
ドスドスと大きな音を立てながら今まさに冥界の扉に入らんとするマサカドを閻魔王が出来る限りの全速力で引き止める。
「どうした…?」
「他のD級やC級の悪魔はともかく、この男だけは連れ出してくれ。」
「ん…?コイツは…ただの死人のはず…」
「こいつは今第1世界でとてつもない権力を持っているのじゃ!絶対に連れ出してくれ!」
「人使いの荒い…いや…喜んで受けよう。」
マサカドの刀から不気味な音が鳴る。
「存分に暴れさせてやる…そう哭くな…」
第1世界
賭博都市
「中レートの賭場で大勝ちされるってのはどういうことだこの野郎!!」
ビシッとスーツを着込みそれに似つかわしくないほど大きな眼鏡をかける男は、しおらしく頭を下げるディラーの男達の目の前にある机を思い切り蹴飛ばす。
「テメーらは頭の回転が遅えんだよ!!頭が悪いなら悪いなりにイカサマでもしろこの野郎!!」
「石花ちゃ〜ん。そんな怒ったらダメだよ。中レートなんてそんなに金様動かないんだからさ」
「下請けの協力会社は黙ってろ」
石花と呼ばれた男は、生臭坊主のような派手な見た目の男を椅子から立つこともなく偉そうに叱責し、ドロドロに溶けてしまったアイスを投げつける。
「ナム、いつからお前は俺にそんな態度が取れるようになったんだ…?早期に出世した俺とただの下請けのお前、意見ができると思ってんのかこの野郎!」
「はいはい、ごめんごめん。高レートは俺っちが見張っとくから機嫌直してよ石花ちゃん。」
「石花、従業員は粗末に扱うな。社員も下請けも対等に扱え。ナム、悪いことしたな。行け」
投げつけられたアイスでベタベタになったナムの派手な袈裟に対し、賭博都市の長らしい派手な見た目の男は『クリーニング代だ』と言い、金を後ろ手に握らせ部屋から出すと、石花に大量の報酬を渡す。
「よくやった、石花。」
「礼には及びませんよ、ファブナーさん。」
「これからも期待している」
報酬を渡た派手な見た目の男、ファブナーの足音が遠ざかると同時に、どうやら科学都市で手に入れたらしい携帯で誰かに連絡をする。
「ネルン様、ファブナーの馬鹿は俺を信じ切ってますよ。神の御心のままに…」
『神も賭博都市も俺の思うがままなんだよ…』
石花は狡猾な笑みを浮かべ、シスターのような服を着た女性の写真に火をつけた。
「欲の極み『黄金色の追跡者(ゴールデンスランバー)』。カイナ、ナム、妙な動きをしたら石花を消せ。」
石花に渡した金の一部が小さな偵察機のようなものに変わり、音声をカイナと呼ばれた男とナムに共有される。
「はい、ファブナー様」
「もったいなくない?割と頭いいんだし、アイツ。」
「あんな奴はいくらでも替えがきく。不穏分子は優先的に排除しなければならない」
派手なファーコートを靡かせ、ファブナーは現金が舞う賭博都市の派手な光の中へ消えていった。
第8世界
大規模な格闘大会が行われているその会場はざわついていた。
いや、ざわついているのは本戦出場者ではなく、先程の飛び入り参加者二人の戦いを間近で見た『予選敗退組』だ。
「あの二人はいい勝負だった…ただ、考えてもみてくれ、一人は珍妙な武器、緑髪のチビは決定打不足。俺達でも勝てるんじゃないか?」
「無駄無駄。君らの実力じゃ勝てないよ。」
「ホセ…お前もそういえばリザーバーだったな…ならば!」
元来戦いたくてたまらない者達が集まる控え室、リザーバーとして呼ばれている男がいれば倒してしまおう思い立つのは当然だった。
「キエエエッ!」
テコンドーの猛者なのだろう男は、ホセの脳天目掛けてカカト落としの態勢に入る。
同時にホセはドロップキックでも放つかのように跳び上がり、両脚を揃えた蹴りで相手をふらつかせると、そのまま寝技に持ち込んだ。
ーキリングブレード:この技はまるで自分の脚を刃の刺突のように尖らせ、ガラ空きの腹部に直撃させることでバランスを崩し、そこから相手の脚に関節技を決める骨法術。先程の鳩尾への一撃で、脚を折られる事に抵抗が出来ず、黙ってそれを見なければいけない様はまさに『殺しの断頭台(キリングブレード)』!ー
「ぐあああああああ!」
バキバキと嫌な音を立てながらテコンドー使いの脚が折られていく。
「く…このスカし野郎!!」
千冬と同じような喧嘩自慢だろうか、跳躍しながら殴りかかる男の着地点にホセはそっと自身の足を置く。
「〜ッッ!」
不良の男は声に出せぬほどの激痛に悶絶する。
ージャンプには着地点というものが必要である。それは跳躍力の優劣に関わらず誰しもが必須とするもの。ジャンプの着地時、他人の足の上に降りてしまった際の激痛は計り知れない。作者の母親がバスケ部だった高校時代、この着地を行い、医者から『折れたほうがよかった』と言われたことをここに追記すればどれほどの怪我になるかわかるだろう。ー
「さあ、どんどん来なよ。僕が勝っちゃうけどね。」
予選敗退組の骨を次々と折っていくホセをこっそりと眺めているのは祐希。
「すみません、豊臣氏をお呼びいただけますか?」
祐希は豊臣にとある打診をするため実況者の男にプロモーターを呼ぶように言った。
第1世界
ゼラニウム街
オルキスの体調が回復して数日、七福はラミアに頼まれた『この世界から帰れなくなってしまったとある男』と戦っていた。
…カードゲームで。
「残念だったな!七福。魔法カード『宣告』を発動!お前の『運命の賽』のカードを無効化するZE!」
高校生の制服に、赤と金の奇抜な髪型をした男は七福にトドメの一撃を与える。
「だああああ!なんで遊太朗に勝てねえんだ〜。俺は賭け系はめちゃくちゃ強いんよ。今のが決まればケツアゴ・リヴァイアサンで勝てたんに…奥が深いんよなあ…このカードゲーム…」
「七福」
「んあ?」
「んあ?じゃない。その人だけ帰れないのはなぜなのか考えているのか?」
すっかり体調が良くなったオルキスは、他の人々が自分の世界に帰ったことをラミアから聞き、唯一取り残された奇抜な髪型に制服の男、遊太朗だけ元の世界に帰れていないこと気にかける。
「キャベツ太郎曰く『創造主が呼んだ人は目的を達成すれば帰れる』とか言ってたような…?目的…カード…これか?」
七福はメイネから渡された賭博都市についての手紙を開く。
「賭博都市…最近できた都市だな…ふむ。ワタシはああいう場に行ったことがないが…遊太朗は確かに向いているな。愛弟子もあそこに任務で派遣されているらしい事を聞いた。夏葉め…ワタシを心配させまいとしているのはわかるが…一言くらい言ってもいいではないか…」
「その愛弟子が危険な目に遭うのか?」
「賭博で負ければ恐らく命は無いだろう」
「迷い込んだ俺を助けてくれた二人の頼みだ、そいつは絶対に俺が連れ戻すZE!」
妙な機械にデッキをはめ込み、遊太朗はゼラニウム街が手配した船に乗り込んだ。
「待ってな賭博都市。俺が必ずあの二人の仲間とともにお前を倒すZE!」
「これで彼が帰れればいいんだがな…さて、ワタシは少し鍛錬がある。七福は先に帰っててくれ」
「別に待つわな。一緒に帰ろうぜ。」
「いや、今日はなんだか一人で集中したい気分なんだ。悪いな…」
「・・・・・・」
「そう不貞腐れるな。今日の料理はワタシの母国製のアクアパッツァだ。楽しみにしててくれ。」
「いや…一緒に帰れないことが残念ってのは確かにあるが…そうじゃなく…なんか変なこと言うなあと思ってさ」
「ふふ…ワタシと一緒に帰りたいか。す、済まないが今日は…な。」
「…?」
あせあせと早口になるオルキスに、七福は大きく首をかしげる。
彼女は隠し事が苦手だ、何か隠していることはわかる。
もちろん浮気をするような人ではないため、そこを疑ってはいない。
しかし、隠し事を嫌うオルキスがああいった反応をすることに引っかからないわけではない。
『コソッと調べるか…?いや、アイツの事だから大丈夫か?うーむ。』
悩みに悩む七福の背中を見送り、オルキスは道場内に置かれた最新型の電子機器を立ち上げる。
モニターに映ったのは長官らしき男。
「なぁ…旦那にだけは話してはダメか?隠し事をしていることが気が引ける…」
「すまないがこれは門外不出で頼む。敵の力が未知な以上、君達の『極み』とやらが封じられる可能性もある。その際に生身の実力が抜きん出ていない者が居ると死のリスクが高まるからだ。だからこそ素晴らしき剣士たる君を選んだ。この『ザ・フォース』の一員にね」
モニターの男は『これから』について話を進めていく。
時は遡り、魔女姫が倒される数刻前。
シンラは行方をくらましたシロツメと消えた妖刀『吸血白百合』についてメイネにとある依頼をしていた。
「妖刀が無いってのは確かに不安やなぁ…」
「申し訳ありません」
「気にせんでええよ。ちょっと『気になる気配』があんねん。その『妖刀さん』かもしれへんなぁ」
「妖刀がまだ力を持っているならば…旧一番隊を全員招集させますか?」
シンラは、出来る限りのメンバーを集めようかとメイネに提案するが、彼はそれを制する。
「この気配、下手したら私と『同じ』かもしれへんからなあ。家族間の問題やから、隊員には…「『黙っとけ』ですね。わかりました。メイネ隊長、どうかご無事で!」
「もう隊長ちゃうて、そないかしこまらんでええよ。」
メイネはゆっくりと目を閉じ、小さな小さな妖気を辿っていく。
「こら、けったいな『兄弟喧嘩』になるかもしれへんなぁ…」
更に時は遡り、エンキと鎌鼬が外で琉義亜とアヌビスと戦っている頃、ワカバ村食堂は次第に元の活気に戻り、注文が殺到する。
それは『あの二人なら負けない』という安心感から来るものだろう。
二人が揉めている声は聞こえるが…
「俺、あの人が食べてた唐辛子野菜炒め!」
「俺は卵かけご飯だ!」
「はいはい、ちょっと待って…「下手っぴ…」
「「「え?」」」
食堂の視線が一手に作業服の男に集まる。
「村の食堂の楽しみ方が下手…」
「おい、アンタ。何が言いたいんだよ?」
作業服の男は唐辛子野菜炒めと卵かけご飯を一気に注文し、『ここからが本番…』と笑う。
「やれ激辛だ醤油だと『万人受けしないもの』は小さな食堂には駄目っ…愚策…」
男は、食堂の店主に筍の有無を聞き、更に注文を追加する。
「まず、こういう採れたての唐辛子は辛さが増すから少しでいい…そして、この野菜炒めに筍と醤油を足す…これを卵かけご飯に乗せて…ゴネ得っ!ゴネ得っ!大塚特製:村混ぜご飯の完成」
「悪魔的だっ!!!」
男は自分自身で作り出した混ぜご飯を頬張り、感嘆の声を漏らす。
「アンタ、それの作り方を教えてくれ!お勘定はいいから!」
「フフ…いいだろう。」
…
…
…
「…はっ!」
どれだけ眠っていただろうか、外出券を取得したというのにもったいないことをしてしまったと作業服の男、大塚は嘆く。
それにしても不思議な夢だった。『まるで過去に飛んだ』かのような、料理の味すらもわかる不思議な夢。
夢だけで外出したような気分にすらなっている自分に驚くが、もう一日が終わると少し寂しい気持ちになってしまった。
「班長!」
「行く予定だった定食屋…行っちゃいましたよぉ…」
「おお、沼田、湯川!村混ぜご飯は美味しかったぞ」
「村混ぜご飯…?」
「あ…いや、なんでもない。」
「もう、班長!しっかりしてくださいよ!いつまで寝ぼけてるんですか?」
「村は食べられませんよぉ…「いや、村で採れた野菜って事だろ」
同じ作業服を着た男、沼田と湯川は班長と雑談しながら、帰りの支度をする。
「下手っぴ…帰り道の楽しみ方が下手」
そそくさと帰ろうとビジネスホテルの扉に手をかける沼田を大塚が笑いながら止める。
「え?」
「ワシらの服は緑の作業着…そしてここらは開発がまだまだ進んでいない地域…となるとワシら世代の遊びは一つだけ、そうだろう?」
「…!!」
大塚は湯川にカメラを持たせ、背景に空き地と大塚自身が映るように動画を撮らせる。
そして、ゆっくりとタバコを咥え、緑の作業服を羽織る。
Lalala Love Somebody tonight
Lalala… Love Somebody for life
And I will never never...Let the love go
I wanna Love Somebody tonight
あの日見た夢の続きを今も
憶えているから
あてもなく過ごす日々を
どうにかこうにか切り抜けた
僕をみつけた時から
求め続けていることは
ひとつだけ
Lalala Love Somebody tonight
Lalala… Love Somebody for life
And I will never never...Let the love go
I wanna Love Somebody tonight
歌:織田裕二withマキシ・プリースト
「ズルいっすよ!班長!俺にも青島やらしてくださいよ!」
奇しくも走りながら追いかける沼田のおかげで、『あのエンディング』と同じ構図が撮れたと大塚は嬉しそうに笑う。
その頃第1世界では、先程の店主が『とある男』に絡まれていた。
「俺様こそがキング・スコール!こんなボロい店で、この話が聞けるなんてレアだぜ!アンタ『ウィナーズ・クラブ』を知ってるか?」
「もう何回も聞いたよ…早く帰ってくんな。」
「何度も聞け!俺様を尊敬…「はいはい、聞いてやるから、店の邪魔すんな。」
泥酔する汚らしい男をつまみ上げ、エンキが外へと回収する。
「おい、俺様を誰だと思ってやがる!離せ!」
「落ち着け、聞いてやるって言ってんだろ」
「離せー!!!」
エンキはまるで荷物でも持つかのように店の外へとそのまま消えていった。
???
まるで無の世界のような空間にその男はいた。
暗いオレンジのパーマがかった長髪に、白目の部分が黄色く、紫の瞳、尖った耳は『この世界の生物』とは明らかに違った見た目だ。
そしてなによりも彼の背中に浮かぶ無数の人魂型の目。
その目はあらゆる世界を映し、その世界の『強者』たるものの写真を男の手元に送る。
「私の『世界』は生まれずに滅びたが、こちらの『世界』はどうだ?幾重もの並行世界が生まれ、最強の男まで生まれてしまった…増え過ぎだ…そして優遇されすぎだと思わないか?」
男は独り言をつぶやくと、その空間に置かれた『黒い匣』に触れ、あらゆる世界の敵と通信する。
「集まりし者たちよ私の考えに、賛同するもしないも自由だ…だが、目的は同じ。邪魔立てするものは世界ともども消せ…そして、存分に暴れていいぞ。『イムノス』」
「ギャオオオオオオオ!!!」
イムノスと呼ばれた獅子のような見た目をし、電子回路のような模様が入った巨大な獣は、空間を震わせるほど大きく咆哮し、くくりつけられていた鎖を引きちぎった。
「目下我々の敵はザ・フォース、そして第1世界の『ヴァサラ軍』だ。」
SWORD幕間
ーおわりー
劇場版ヴァサラ戦記 FILM:GOLD
我欲渦巻く賭博都市
劇場版ヴァサラ戦記 FILM:AMAZING
UNLIMITED WORLD
に続く