【劇場版ヴァサラ戦記】ヴァサラ戦記FILM:REVERS 並行世界と旧隊長:予告編【テイザーPV第二弾あるある。】
「「「「ラミア様から贈り物と伝言があります!」」」」
東西南北各地の四天王の元へ使者がたどり着く。
東の極座は信じられないほど美しく整頓されていた。
ゼラニウム街の東は最悪の治安をしており、一歩街の外へ出ればマフィアの抗争が絶えず、巻き込まれる形で過去に何人も死傷者が出ている。
町長のアメクが興味本位で極みを供給する吸血コウモリを放ったことにより全員が極みを発現させ、更に抗争は激化した。
しかし、ここ数年抗争は落ち着いており、マフィアが暴れる様子もない。
誰もが嫌がってあまり使われることもなくボロボロになった東の極座が異常なほど綺麗になってからの話である。
「ったく…なんで俺が東なんだよ…ラミアの野郎…」
ラミアに渡すように言われた上物の羽織を抱えた使者の男は吐き捨てるように呟く。
「だいたい、東なんて誰もいねぇだろ。四天王もホントに四人いんのか?俺は北のやつしか会ったことねぇぞ?なんか暗いしよ…」
「ちょっと、靴…脱いでちょうだい」
「うおっ!!」
突然暗闇から現れた女性口調の大柄な男は使者を玄関だろう所まで掴んで投げる。
そしてその床を丁寧に雑巾で拭くと、使者の目の前にスリッパを置く。
「お、お、おい…あんたなのかよ…ひ、東の四天王…」
使者は動揺しながら目の前の男を指差す。
その男は高級そうなスーツに見を包み、そのスーツでもわずかに隠れないおそらく首から背中まで伸びているだろう入墨、真っ黒の爪、髪は金髪に紫のメッシュのようなものが入っている。
そして何より瞳だ。
本来白目の部分は真っ黒になっており、より男の不気味さを際立たせる。
「そうよ?知らなかったの?他の使者は何回か来たけど…アンタの仲間でしょ?」
「ラ、ラミアは…四天王の話は会っても他言無用にしてるから…」
「さすがラミアちゃん!気配り上手!!今日も贈り物かしら?」
「上物の羽織らしい…」
「ステキだわぁ!」
「あ、あと…招集命令が…」
「あら!久々にみんな来るのね!楽しみだわ!」
「い、いや…それよりあんたマフィアの…首領殺しで有名な…梟雄公子(きょうゆうこうし)とか呼ばれてる…」
「そ、アタシが得た力はアメクのジジイが放ったコウモリとは違う『特別』なものだからね」
男は自身の異名を呼ばれた事に気を良くしたのか、部屋の上に張り巡らされている血液を運ぶ線から自身のワイングラスに血を注ぎ飲み干す。
「この味…イケてるわ…今日も」
「ラミアが血の供給をやめない理由って」
「そ、アタシの主食。言ったでしょ?『特別』って。じゃ、行こうかしら。もう帰っていいわよ、アンタ。アタシ支度して行くから」
「は、はい…」
男は髪型を整えると東の極座を出る。
西の極座はここに筆頭極師がいると思われても不思議ではないほど巨大できらびやかな造りになっていた。
それにはゼラニウム街の西の特徴が多大に影響されている。
西側は貴族…つまり、強力な極みが使えるエリートのみが住まうことのできる『選ばれし土地』なのだ。
ここは東のように治安が悪い訳では無いが、町民のほとんどが差別思考のエリート至上主義ということも相まって、強烈な選民思想と壮大な自己顕示欲を持つものが多い。
ラミアが筆頭極師になる前は、極みが発現しない子どもを下町に捨てるといった所業も散見されている。
「西かぁ…まぁ他よりマシだけどさぁ…あたしも貴族だしぃ…ってか本来昔からあたしここじゃなぁい?貴族でラミアの使者なんだからさぁ…」
「てか西にホントにいるのぉ?ラミアの嘘なんじゃなぁい?南の人しかいないわよぉ?南はあたしが呼びに行ってたけどさぁ」
ギャル風の使者の女がぐちぐちと文句を言いながら、西の極座に入る。
「どうぞ、ゆっくりしてください。」
極座の主は妙に丁寧な口調で使者を中へ呼ぶ。
その声はあどけなさが残る少女のような声色だ。
「…プッ…アハハハ!!あーこりゃ確かに『極座の四神』だわ!!アハハハ!流石すぎるわ!『死神』ちゃん!」
使者はその姿を見るなり大笑いする。
そこにいたのはまだまだ幼い少女。
ショッキングピンクの髪は、先端に向かうにつれ青紫色へと変わり、目のようなものがあしらわれた髪飾りをつけている。
メイド服ようなものにフリルのカチューシャ、口には花嫁のようなベールをまとっていた。
そして最も奇妙なのは彼女が抱えている誰かの頭蓋骨。
その頭蓋骨には彼女とお揃いの髪飾りがつけられている。
「ええ、わたくしは一度死んだ身。姉の代用品ですから。」
「はぁ?普通に会話できないのぉ…?死神ちゃん」
使者の挑発とも取れる言葉にも少女は動じず、薄笑いを浮かべたまま自分の話を進めていく。
「そんなことを言いに来たのではないでしょう?その上質な羽織…ラミア様はいつもわたくしを呼ぶとき何かを与えてくださるの」
「何?あんたラミア好きなの?」
少女は顔を紅潮させ恍惚とした表情で質問の返答をする。
その姿はまるで神を妄信的に崇める狂信者だ。
「あの人はわたくしの…いや…この街の全て…行きましょう…あの人の元へ…わたくしのお仲間にも久方ぶりにお会いしたいですしね」
ラミアへの狂信的な発言とは打って変わった『仲間』への言葉を聞いて、使者は少女の人間らしい一面を見たような気がして安堵の表情を浮かべ、一足先に極座を後にする。
「待っててくださいね…ラミア様」
南の極座は古き良き古民家のような造りをしていた。
それは恐らく南が平民の町、悪く言えば貧民街だからだろう。
ここには極みを持たぬものもたくさん住み、西の搾取に怯える民や、なんとか貴族に成り上がろうと自分の息子を強引に実験台にする民など、どうにか貴族に縋ろうとする者たちが住む場所なのだ。
ある男が街の体制に反対し、抵抗運動を始めるまでは極座もお飾り、反抗的な相手をアメクに密告するだけの役目だった。
「ちっ!なんで俺がいきなり西から南なんだよ!極み無しの無能共の空気がスーツにこびりつくだろ!」
使者の中でもリーダー格の男は苛立ち紛れにタバコを吹かすと極座の庭に捨てる。
「ラミアの野郎…調子乗りやがって…どうせ南の極座なんて大したやつじゃねぇよ…西ほどの高貴さはねぇ」
使者の男は乱暴にドアを開ける。
途端に鼻をつく異臭を台所から感じ、口と鼻を塞ぐ。
「ん?ああ〜…使者か…出ようかな…めんどくさいな…やめよ…」
「ああ?お前は?…冗談だろ…」
勝手に上がり込んで見たのは小豆色の髪を後ろでラミアのように編み込んだ、黄土色の服の上にファーの付いた紺色のジャケットを羽織った男。
男はファーの部分を枕にし、寝ぼけ眼を擦って目を開ける。
大きな黒目の奥に赤い光が妖しく輝いている。
「ん〜?贈り物…手に取るのめんどくさいな…置いといて…」
「こ、こんな人間だったのかよ…史上最凶の傭兵…『幻魔』とも恐れられた男か…ったく…俺でも勝てそうな…うっ!!!ま、またこの臭いだ!まさかこれがお前の極…」
使者は喋るのをやめ、臭いのする方向へ目線を移す。
そこには数年間洗っていないため、黒ずみ、異臭を放つ台所があった。
「あ~…ごめんね…洗ってないんだ数年間…とにかく…贈り物ってことは招集…ね…」
『だ、大丈夫か…こいつ…ハッタリ人間か?』
その男は突然飛び上がるように起き上がり、手袋をはめる。
「ラミアの呼び出しは毎回毎回楽しいことの前触れなんだよね…ここ住まわせてもらった恩もあるし…一人暮らしするとこうなるし…行こうか…久々に会うやつもいるし…」
相変わらずモタモタとした喋り方だったが、瞳の奥の赤い光は小動物を襲うときの肉食獣のように妖しく揺らめく。
「先にもどってて…掃除してく…」
男はゆっくりと腰を上げると、ホコリだらけの掃除用具を取り出した。
北の極座はとにかく異質だ。現在住んでいる人の趣味だろうか、派手な装飾と大量の人形のようなものが吊るされている。
北は山に囲まれ、軽い気持ちで行けないほど険しい道のりになっている。
そこには輸血に失敗しおかしくなってしまった人々を非公式に強制入院させるための病院のようなものが立ち並んでおり、他の方角から見ると真っ白な山だ。
そんな場所に派手な装飾と大量の人形。
目立たないほうがおかしいだろう…
「うわぁ…あたしだけ嫌なとこばっか…東の次は北!?最悪なんだけど!!ゴミマフィアの次は負け組の病人共なんてさ…」
使者の女は大きく舌打ちすると、人形の手になっている悪趣味なドアを開ける。
「気持ち悪…ここにいるのもただの入院患者なんじゃないの?気がふれただけのさ」
「君には響かなかったってことかな?」
片腕の取れた丸いロボットが器用にお辞儀すると、中から丸い伊達メガネに薄い赤色の癖毛、右目の下の泣きぼくろ特徴的な猫背、タイトなスーツを羽織った女性が出てくる。
「あ、あんた…このへんで噂の変人『人形師』…」
「心外だなぁ…私はただ芸術を仕事にしてるだけだよ」
「こ、これのどこが芸術なのよ!気持ち悪いわね!だから売れないんじゃないの?」
「そうなんだよね。私の作品はまだまだ理解してもらえない。未来に行き過ぎてるって事になるよね」
「ならないわよ!ただの悪趣味」
「それより、さ。」
女性は使者が持つ上質な羽織をひょいっとひったくると、お気に入りらしい人形に羽織らせる。
「これが来たってことはラミア君からの招集命令って事だよね?副業とはいえ楽しみだなぁ…久しぶりだからね!みんな集まるの!」
副業というワードに苛立ったのか、使者は女性に掴みかかる。
「極座は片手間じゃなくて選ばれし人間のとこなのよ!あんたなんかが…「待って!その感情そのまま!」
女性は手を挙げるとヘラヘラした顔は崩さず、近くの人形に何か打ち込む。
「実はね、感情を持つオートマタを作りたくてさ、科学都市の…えーあい?とか言うやつを借りたんだけどてんで駄目…見てよ、失敗作の人形たくさん壊させたのになんともないでしょ?」
「キャアアアアア!!」
よく見ると床中に散らばっている無数の人形の手足に使者は飛び退く。
「そ、そんなに驚かなくても…ま、私も行こうかな、招集…先帰りなー」
女性は使者を返すとお気に入りらしい人形を小脇に抱えて歩き出す。
「やほ〜リピルちゃん、久しぶりだねー」
北の極座から来た女性は一番乗りにラミアの元へ来ていた頭蓋骨を抱える少女、リピルに挨拶する。
「あら、メアさん。久方ぶりですね、このお揃いのアクセサリー作っていただいてありがとうございました。」
どうやら北の極座から来た女性、メアがリピルと頭蓋骨のお揃いのアクセサリーを作ったらしく、久しぶりとは思えないほど話を弾ませる。
「ところで、ラミア君はまだ着いてないって事かな?」
メアは本来ラミアが座るはずの豪華な椅子にその姿がないことに気付き、キョロキョロと周囲を見回す。
「ラミア様なら『血がついたから手を洗いに』行きましたよ…」
「早く言ってよー、探しちゃったじゃん…って血?」
「ラミアちゃん使者やっちゃったみたい…ま、いじめてたメンバーだし、文句ばっかだしいつかはこうなると思ってたけどね」
「マクベスさん!」
「いつからいたのさー、マクベス」
いつの間にか自分の定位置に座っているスーツの大柄な男、マクベスは今日おろしてきたらしい綺麗なスーツとピカピカの革靴を履いて優雅に足を組んでいる。
「来たのはさっきよ、アンタ達会話弾んでてアタシ来たの気づかないんだもの…失礼しちゃうわ」
「申し訳ございません。蔑ろにしてたわけではないんです…」
「いつも丁寧ね、リピルは」
「ごめんねー…気づかなくて」
「メアもいいわよ、アタシだって話したい気持ちもわかるわ…で?セキアは?」
「あ」
「確かに…いませんね」
マクベスは唯一来ていない男の席に目線を移す。
元々何もかもに対してルーズな男、セキアはまだ姿すら見せていないのだ。
そこへ、ガチャリと扉を開けて寝ぼけ眼の男が入ってくる。
紺色のジャケットすらゆるく着崩したセキアだ。
「あ~…ごめん…せっかく集まるからと…思って掃除してたら…台所から得体の知れないカビの塊が出るわ…風呂場からヘドロが出るわで…」
結局西の清掃関係の極みを持つ人に頼んできたのだと、セキア説明する。
「セキア、アンタどう暮らしてたのよ、汚ったないわね。」
「んー…下町の…銭湯とか…」
「それは敵が経営してるとこだったような気がするな…大きいとこだよね?」
「そう、そこ…」
「それ今私達に抵抗する人達が経営するとこだね。うん、間違いない」
「あらあら、よく何事もなく帰ってこれましたね…戦われたのですか?」
「いや…なんともなかったかな…普通に入れた…むしろ臭うから入れって…そういえば一週間…入ってなかったような…」
タハハと頬をかくセキアを見つめる三人の表情は全員苦笑いだ。
あまりにも不潔でだらしなさすぎると全員が思っていた。
しかもこの大事な集まりに二度寝してきたらしい。
「あ~…リピル、メア、マクベス、久しぶり…」
「「「遅っ!!!!」」」
総ツッコミの後、今まで自分達がどう生活していたのかという話題、近況、今日の議題を当てるゲームなど卓上の上に置かれているあらゆる街…それどころかこの世に存在しない一風変わったお菓子などをつまみながら盛り上がっていく。
ラミアが座ったことも気づかずに…
リピルはラミアの緑髪が横目に入り慌ててお菓子から手を離す。
他の三人もそれに気付き慌てて手を止める。
「懐かしの同窓会か!遅れて到着して気まずい空気ってこんななんだろうな〜って思いを馳せちゃったよ!」
ラミアは悲しい顔でツッコむ。
「な、なんてネガティブなツッコみ…ごめんなさいね、ラミアちゃん」
「ああ…ラミア様…わたくしとしたことがなんと不届きな!」
「ラミア君はだいぶ前に来てたって事かな?」
「ラミア…今日は…なんで呼んだの…?」
四人の視線は一手にラミアに集まる。
ラミアは軽く咳払いをすると、全員のコップに紅茶を注ぐ。
『紅茶を注ぐ』という表現は間違えているかもしれない。
四人の前のテーブルが歪み、そこから温かい紅茶が一瞬で現れ、置かれる。
「今日集まってもらったのは、僕がこの世界に復讐する記念すべき一歩目にして最強の敵についてだ…」
「今から殺るのかしら?」
マクベスは武器を出す仕草を見せる。
「いや、君達が来てくれたから三日後にしよう。今日は相手の説明だけね…中二日は戦いに備えてゆっくり休むといい」
ラミアはゆっくり全員の顔を見るとニヤリと笑う。
「僕は、全てを獲るつもりだ…自由も含めて…そう…次の戦争相手はヴァサラ軍だ!奴らを消して、初めて僕の人生は、僕の自由は始まるんだ!!」
普段あまり興奮しないラミアに呆気にとられたのか、全員押し黙ったままだ。
黙っている四人を見てラミアは突然顔色を変えて冷や汗をかいて焦りだす。
「ち、違う…違うよ…君達を用済みにするわけじゃない…誤解しないで…き、君らは必要なんだ…今皆そう思ったよね…違うんだ…その…」
自身の親指の爪をガリガリと噛み始めるのは、ラミアがなにか不安に感じている証拠だ。
「誤解など、してません…わたくしはラミア様に救われ、ラミア様がいなければ価値なき者…あなたに従います。そして…勝利した暁には…わたくしをお側に置いてください…そのためならヴァサラ軍など何人も消してみせます」
珍しく率先して話し出すリピルに三人も続く。
「うーん…ここにいる誰もラミア君に負の感情は抱いてないんじゃないかな?リピルちゃんみたいに色々強くは言えないけど、私は私で感謝してるよ。この副業なかったらとっくに死んでるしね。家も貰えたし。ヴァサラ軍よりホワイトなんじゃないかな?奪わせないって。」
「いや…俺は…僕は?どっちでもいいか…ラミアに感謝してる…寝れるし…住めるし…仕事ないのに仕事くれたし…っていうより…楽しい…毎日…こんなに刺激的なのはじめて…ありがと…ヴァサラ軍って…最強の軍団…でしょ?まだまだ楽しめる…ありがと…」
メアとセキアが話し終わると同時に、マクベスがラミアの肩に優しく手を置く。
「みんなラミアちゃんに感謝してるのよ、アタシは感謝というより一目置いてるんだけどね!こんな楽しいだなんて思わなかったし、それに、この先どんな戦いがあってもアタシは裏切るつもりはないわ。どのマフィアの馬鹿な男よりアンタは素敵よ、ラミアちゃん♡ヴァサラ軍ならアタシが片付けてあげるから、ネ?」
『本当に…裏切らないでいてくれるかな…この四人なら信じれる…気がするな…』
ラミアは少しネガティブながらも、この四人なら自分を裏切らず、ヴァサラ軍に勝てるという強い意志を心に宿す。
自由を手に入れ、自分の人生を『始める』ために。
「五人で獲ろう、ヴァサラ軍を、自由を!」
ラミアは刀を天に向ける。
ヴァサラ戦記FILM:RIVERS 並行世界と旧隊長【劇場版第三弾】
お楽しみに!!